「だから君は戦闘項目にマイナスがあっても入館できたんだね。ベースはジャパニーズかい?」

「は、はい。よく分かりましたね」

「まぁ見た目もそうだけどあの部署に配属される東洋系ならジャパニーズが適しているからね。部署が分からず担当者も居ないんじゃ困るのも当然だ。でも大丈夫、ここで待っていれば担当者がやってくるよ」

「そうでしょうか? 予定時刻より少し遅れてしまったんです。呆れて帰られたのではないでしょうか」

 暗く沈んだように言うほのかとは裏腹に、フェルネスは大きな声で笑ってほのかの言葉を否定する。

「ないない。それはない。約束の時間にウォールが遅れることはあっても時間通りに来ることなんてありえないよ。それに例え君が遅れてやってきたとしても何時間でも待っているだろうしね。あそこの連中にとって、上に来ることは天国に来るのと同じ意味だから」

「そ、そうなんですか?」

「あぁ、これだけは絶対だ。安心して待っていると良いよ。そうだな、どうしても来ない時は戦闘管理局に僕をたずねてくると良い。責任者に直接連絡してあげよう。君が所属するだろう部署は僕でも立ち入りは許可されない場所だから連絡を取るぐらいしかできないけど」

「あの、その部署って一体どんなところなんですか?」

「それは僕の仕事じゃなくて担当者の仕事だから教えることはできないよ。お客様も居るし、邪魔にならない所で。そうだな、ウォールが見つけやすいだろうあのロビーの端に居ると良い。閉館時間になっても現れなければ僕のところへ」

 フェルネスはそれだけを言って笑顔で手を振り、ロビーの人ごみの中へ消えていく。

 ほのかは仕方なく言われた通り、ロビーの隅にスーツケースを置いてその上に腰を下ろし担当者が来るのを待った。

 意気揚々、そんな気分の中でも所属場所も知らされていない状況でほのかは不安も抱えていた。それがフェルネスの言葉でさらに色濃くなり、一体自分は何をさせられるのだろうかと溜息をつく。

 ぼんやりロビーを見渡してどれくらいの時間が経っただろうか。窓の外は青空から明るいオレンジ色へと変わろうとしていた。

「閉館まではまだあるけど、本当に来てくれるのかしら?」

 再び大きなため息をつきロビーを見渡せば、視線の先にふらふらと体を揺らしながら、まるで幽霊のように近づいてくる人影がある。

 ブラウンの巻き毛が視界を遮るように垂れ下がり、大きな眼鏡の存在がそれが後頭部ではないと知らせてくれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る