第3話 赤いボタン花柄の浴衣を着た少女
「おや~、若夫婦さんかな~。サービスするよ。」
「はい、新婚です。サービスを願いします。
牛味肉ステーキ五百グラム三切れ、ください。」
「お~。優しい若奥さまですね。若旦那の分は二枚かい?」
「お母様の分も入っています。」
「じゃさ~ぁ。若旦那の精力分、、、もう一切れ追加しなよ。
その分は半値にするからさ~ぁ~。」
と、肉屋のお多福顔女将は更に卑猥な顔でパトラに微笑んだ。
パトラは真っ赤な顔をして、どの様に返事すればよいのか加須巻の方を向いた。
「じゃ~、嫁の分も追加するから、そちらも半額で。」
「いい男にあたしゃは弱いから、美人な奥さんには焼けるが、追加の二枚分はどちらも半額です。」
加須巻が牛味肉ステーキ五百グラム五枚を受取、
支払カードをさしだすと、
お多福顔女将は加須巻のカードと共に手を握締めて受け取ると、
返すときにもやはり手を強く握りしめて片目をつぶった。
「精力分て、何?失礼しちゃうわ~。」
「今怒らないで、直ぐに怒った方がよくなかったですか?」
「だって、若夫婦さんかな~て、言ってくれたから、、、。」
「マーガレットのお母さんとお父さんから、連絡はありますか?」
「お母さんは、くじら座方向にある銀河らしいのですが、軍事機密の行動らしいので、元気ですとの一方通行の連絡が来るだけです。
お父さんは、補給部隊を指揮しているので、毎日違う場所から連絡は来るが、近いうちにお母さんに会えると、喜んでいたわ。」
「俺はまた、バミューダトライアングル区域に、帰るのだろうか?」
「もう、、、無茶はしないでほしいな~。」
「今度帰ったら、SS―777の調整が必要だな。」
「何か、アンドロイドに不都合が?」
「敵空母艦を100%仕留めきれる距離まで、ミサイルを発射しやがらなかった。95%に調整する必要があるようだ。」
「アンドロイドの調整は一般人では難しいが、コンピューター専門家のあたしなら可能だわ。」
「何かいい方法があると。」
「帰ったらメモリーカードを作るわ。アンドロイドの調整だったら簡単よ。」
「お願いします。」
「、、、、今どっちの人格?」
「なんで?」
「ううん~。何でもない。」
と満面笑顔で加須巻の顔を、肩を落として覗き込んだ。
加須巻は銀河連合軍事総省本庁舎に出頭して、
父親である栄一郎銀河連合軍事総長に挨拶した。
「トーマス.ゴンザレス出頭命令により、参上しました。」
「誰もいないのだ。堅苦しい事は止めよう。」
「お父上様も息災で何よりです。」
「相変わらず、他人行儀だな~。」
「出頭命令は、どの様な用件でしょうか?」
「トーマス.ゴンザレス中佐、くじら座方面航宙軍中隊の指揮を任せる。任務は、ネットワークゲートの構築防衛だ。
門ができれば、数十分間でくじら座方面に行ける。」
「マティーレ中将殿がいらっしゃるくじら座方面航宙軍でしょうか?」
「くじら座方面航宙軍は隠密行動だが、ネットワークゲート構築専門官マティーレ中将の娘マーガレットちゃんに聞いたのか?」
「記憶にございません。」
「ま~、マーガレットちゃんは、いずれ私の娘になるのだろうから、詮索はしないでおこう。」
「だけど、何で二階級特進したのでしょうか?」
「バミューダトライアングル地域から、敵の機動部隊を壊滅したのだ、当然だろう。」
「突然の二階級特進した銀河連合軍事総長の息子となれば、かなり、やっかまれるでしょう。」
「お前の実力だ。気にするな。」
と、栄一郎は満面笑顔の親バカ顔をした。
加須巻はネットワークゲートを順次通り抜け、くじら座方面最奥部の門に着くと、ゲート施設には遠方用高速偵察機とアンドロイドSS―777が待っていた。
「少し休憩がしたい。SS―777、おれの部屋を用意しろ。」
「確認してみます。」
「相変わらず、機械的だなっ。」
「部屋の用意ができました。何か用意させますか?」
「軽い食事とコーヒー。」
「承りました。」
「、、、、、、。ふぉ~。」
加須巻は感情のないSS―777に何かを言いかけたが、ため息だけにした。
加須巻は用意された部屋に入ると、既に食事とポットに入っているコーヒーが用意されていた。
加須巻は内ポケットから小さなプラスチック箱を取り出すと、
メモリーカードをSS―777の胸を開いて差し込んだ。
「SS―777、調子はどうだ?」
「奈々坊とお呼びください。御主人様。」
加須巻は唖然として、SS―777を見つめた。
「奈々坊?」
「ご主人様の命を第一優先とします。
御主人様のためなら、どんな命令でも確実に実行します。」
「マーガレットは、どんなプログラムを作成したのだ?」
と、言って食事に手を付けた後、
「三十分後に起こしてくれ。」
と言ってベッドにもぐりこんだ。
「ご主人様。三十分経ちました。」
奈々坊は三十分きっかりに加須巻を起こした。
「奈々坊。俺をご主人様とは呼ばないでくれ。
普通にトーマス中佐でいい。」
「わかりました。トーマス中佐。」
と、何故か加須巻は、奈々坊の声は人間臭さがあるように感じた。
ネットワークゲート施設から飛び立った遠方用高速偵察機は、二時間後に空母司令艦カガに着艦した。
加須巻は空母司令艦カガ管制官の誘導で中央着艦口に向かった。
中央着艦場には、マーガレットの母親であるマティーレ中将が迎えに来ていた。
「トーマス.ゴンザレス中佐、昇進おめでとう!」
と言って加須巻の手を握りしめた。
「マーガレットは、ご健在です。
ただ、一方通行の連絡状態に不満そうでしたが。」
「あの子は、強いから、、、、。」
「しかし、やはり寂しいのだろうと思います。」
「パトラさんがいるから、大丈夫でしょう。
ウキイシ.フソク提督閣下に挨拶に行きましょう。」
「ウキイシ.フソクウシ提督閣下はかなりの強運の方との噂ですが?」
「かなり強引な作戦でも、何とか生き延びてきたようです。」
「強引な作戦?」
「あなたも気を付けなさい。かなり理不尽な作戦を押し付けるらしいわ。」
と、マティーレは心配顔を加須巻に向けた。
加須巻は着艦場のデッキから強い視線を感じて顔を斜め上に向けると、大きな赤いボタン花柄の浴衣を着た少女と目が合った。
「あの子は誰?」
と、加須巻はマティーレに尋ねた。」
「え、何処?」
「デッキの上にいた赤いボタン花柄の着物を着た少女?」
と、加須巻が指差したデッキ先には、既に少女の姿はなかった。
「着物?何それ?」
加須巻の記憶によみがえった赤いボタン花柄の少女は見覚えがあり、何処かで会った気がした。
釈然としない気持ちのまま、ウキイシ.フソクウシ提督室に案内された。
「エイイチロー銀河連合軍事総長の息子トーマス.ゴンザレス中佐か、若い身空で中佐とは、羨ましいな。」
一瞬マティーレ中将の顔が引きつったが、加須巻は素知らぬ顔で黙っていた。
ウキイシ.フソクウシ提督は、さも汚いものを見る眼付を加須巻に向けながら、
「この地域では、運だけで手柄などたてられると思うなよ。
脳筋野郎はすぐに名誉の戦士だ。
俺の指示を守っていれば、手柄も強運も授かる。
肝に銘じておけ。」
「よろしく教育してください。お願いします。」
と、加須巻が頭を下げると、何かが落ちる音がした。
ウキイシ.フソクウシ提督は加須巻が頭を下げいるのを無視するように、壁から落ちた錆びた青銅色の板版を拾い上げた。
錆びた青銅色の板版を見た加須巻は凍り付いた。
「それは、、、、八咫鏡(やたのかがみ)ご本体では?」
「何それ?此れは、昔から我が家に伝わるお守りだ。
地球歴ゼロ年から伝わる、我が家の家宝だ。」
「失礼しました。八咫鏡(やたのかがみ)ご本体によく似ていましたので。」
ウキイシ.フソクウシ提督は錆びた青銅色の板版を隠すように背を向けた。
マティーレ中将は加須巻の礼服の裾を引いた。
「挨拶が終わりましたので、失礼させていただきます。」
と加須巻が踵を返すが、ウキイシ.フソクウシ提督は背を向けたまま、錆びた青銅色の板版をハンカチで磨き続けていた。
「提督があの青銅版を磨きだしたら、気負付けなさい。
あの状態のときに話しかけでもしたら、怒鳴られるわよ。」
とマティーレは肩をすぼめた。
提督室を出た加須巻は、大きな赤いボタン花柄の浴衣を着た少女を思い出していた。
赤いボタン花柄浴衣の少女は、
加須巻が幼い頃、鎮守の森入り口鳥居の下で、たまに毬をもって遊んでいた少女のような気がした。
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