第2話3Dホログラム
加須巻は一睡もできなかったが、何者かに転生させられた現状をようやく理解できた様子で、慣れないベッドから窓越しに見える景色を眺めて、ここは未来社会だと認識した。
加須巻はトーマスの記憶からか、ベッド室の部屋を出ると廊下を進んで食堂にたどり着いた。
「トーマスちゃんかな?」
「どちらでも、、、お好きな名前で。」
「トーマスちゃんと、認めてくれたのかな?」
「あなたを、お母様と認めています。」
「あら~。いつもの通りの投げやりな、トーマスちゃんね。」
パトラは不安を隠すようにせわしく加須巻の朝食を用意した。
「航宙軍から連絡がありました。
死戻り英雄と認定されましたので、七日間の休暇を与えるとのことです。どこか行きたい所とかがありますか?」
と、パトラは言いながら、
ミルクたっぷりの、フェオレとトーマスを、テーブルに乗せたジャムやチーズを盛った皿の横に置いた。
「あ、いい香り。頂きます。」
と、加須巻がフェオレカップに手を伸ばすと、玄関チャイムが鳴り響いた。
「マーガレットちゃんかしら?」
「トーマス兄さん、帰っているのでしょう?」
と、同じマンションの幼馴染みのマーガレットは開いたドアの外から叫んだ。
「入れば?」
と、加須巻は反射的に呼びかけた後、自分の意外な行動に驚いたのと、マーガレットの美貌に目が点になった。
「トーマス兄さんは、特報ニュースで言っていた死戻り英雄さんなの?死後の世界はどんな感じだった?」。
「二重人格者になった。」
「トーマス兄さんでない人は、どんな人?」
「過去の人。」
「いつの時代?」
「西暦2020年。」
「西暦?何それ?」
「地球歴。」
「放射能汚染させた、馬鹿な人たちが住んでいた、惑星かしら?」
「放射能汚染?」
「判断力が欠如した指導者や、政治に踊らさているだけで自分の意志を持たない無節操な時代で、理性ある人たちは、そんな惑星を捨てて宇宙へ飛び出していったあと、核戦争が起こったらしいわ。」
「そんな説明では、真実は伝わらないわ。私が説明しましょう。」
と、パトラは神妙な顔をして、加須巻に微笑んだ。
「地球惑星では、各国の領土権があやふやな地域の資源の眠る海底の資源を求めて奪戦が始まり、どの国もが核爆弾を隠し持っていて、過去の恨みを引きずっていた国の指導者が、隣の友好国に核爆弾を落トーマス、それを引き金に世界中で争いが始まったらしいです。」
加須巻の想像では、過去の恨みを引きずっている国がどの国かが頭に浮かんだ。
「トーマス兄さん。暇でしょう~、今日は私とデートしましょう。」
「どっかに行きたいの?」
「死戻り英雄特権使いましょう。」
「死戻り英雄特権?」
「緑、の、オ、ア、シ、ス。
パトラおばさまも弁当をもって、一緒にいきませんか?」
「そうね。緑のオアシスなら、行きたいわ。」
「死戻り英雄特権者とその家族は、優先的に緑のオアシスに入れるわ。」
「マーガレットは家族ではないだろう?」
「私が大学卒業したら、私達結婚するから、私も家族でしょう。」
「結婚?」
「トーマス兄さんの十八才誕生日会で、結婚すると約束したでしょう。
証人は、パトラおばさまです。ですよねぇ~、お母さん。」
パトラは戸惑いながらも、
「はい、聞きました。証人になります。」
「ありがとうございます。お母様。」
加須巻も眩しいすぎる容姿端麗な美少女マーガレットの申出を拒むことなど出来様がなかった。
無人操作乗り合いエアークラフトが緑のオアシス入り口前に着陸すると、そこにはすでに多くの家族連れが並んでいた。
「すごい人出だな~。」
「でしょう。死戻り英雄特権者がいなかったら、午前中には入館できなかったでしょう。」
と言ってマーガレットは加須巻の手を引いて、急ぎ足で行列を追い抜き、誰も並んでいない特別入場口の看板下に向かった。
加須巻は列に並んでいる子供達からの妬ましい視線を感じながら、特別入場口の看板下の認知機能器具に手をかざした。
認知機能器具に画面が映し出されたので、家族構成欄とその他の部類に婚約者の文字があったので、母親と婚約者欄にチェックを入れた。
緑のオアシスの中は、緑茂樹木がどこまでも続いていて、森の間には申し訳なさそうに田園風景が散らばっていた。
加須巻は絶句するように、つばを飲み込んだ。
緑のオアシスの風景前方にある長い階段の奥にある社(やしろ)は、故郷の鎮守の森によく似ているし、立っている場所からの景色は、
実家庭先からのままであった。
加須巻は母親パトラとマーガレットの手を引いて、鎮守の森の社に向かった。
「何々、トーマス兄さんどうしたの?」
「俺の故郷にある鎮守の森に似ている。階段上の社に行ってみたい。」
「やしろとは?」
「神様を祀っている建物だ。」
加須巻は鳥居をくぐり、二人から両手を離して一目散に階段を駆け上がった。
「やはり俺の故郷にある、鎮守様の社だ。」
と言って一気に社の扉を開いた。
社の内側は、床は板張りであり、祭壇も加須巻の知っている同じ造りであったが、八咫鏡(やたのかがみ)ご本体はなかった
加須巻は肩を落として社から出ると、マーガレットは息を切らしながらもパトラの手を引いて、階段を這うように上ってきた。
「か弱い私たちを残して、いったい、何が起きたの?」
「済まない。余りにも懐かしくて、、、興奮してしまったようだ。」
「この場所を知っていたと?依然来たことがあったの?」
「そんなはずはないわ。ここに来たのは、私は始めてだもの。」
と、パトラも怪訝な顔をした。
「お腹が空いたわ!ここは見晴らしがいいから、ここでお弁当にしましょう。」
「ここからの景色は、3Dホログラムかしら?」
「半分を本物で、半分は立体映像みたいだよ。」
加須巻は社周りの青い砂利石の上に、用意してきたビニールシートを広げながら一点を注視していた。
「何を見ているの?」
「不思議なのだ。ここからの景色は俺の知っている風景で、あの廃墟はよく知っている家なのだ。」
「森や草木以外は、全て3Dホログラムよ。それにあの場所は、私たちが入ってきた所だったでしょう。はい、パンフレット。」
加須巻は鎮守の森の意味と、その歴史が書いてあるパンフレットに見入っていると、
「美味しそうとか、美味しいとか、言ってくれないのかしら?」
と、容姿端麗な美少女マーガレットは、大きく頬を膨らましてお多福顔になった。
「あ、ごめん。綺麗な盛り合わせに、美味しそうな俺好みの料理ばかりだね。」
と加須巻は言いながらも、ご神体は盗難にあったと記された文章と、添えられたご神体を写した写真のことが気になっていた。
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