07 理想の相手。 (ENDmarker).

 そう。わたしの。理想の相手だった。


 ゲーム。


 彼が、遺していったもの。今朝まで彼は、ここにいたのに。


 起動し直す。


 画面。


 文字が表示される。


『このゲームの機械NPCです。あなたへ向けて、オンラインでテキストメッセージが届いています』


 シューティングゲームで機械相手PvEなのに、なぜメッセージ機能が。


『ごめんなさい。このようなかたちになって、ほんとうにもうしわけない』


 機械NPC。勝手に読み上げ始める。


『いつしぬかもわからないひびだったので、あなたのことが好きだったけど、かんけいをふかくすることができませんでした』


 彼。


 彼が、遺していったメッセージ。


 なぜ。


『おんらいんめっせーじでこれがさいせいされているということは、おれはもう、このよにいないということなので』


 メッセージ。続いていく。


『げーむばかだったおれのことはわすれて、あたらしいりそうのあいてをみつけてください』


 これは、彼の遺言。

 言葉が、出てこない。喉が、張りついたみたいに。動かない。


『あなたなら、きっとすばらしいじんせいをおくれるはずです。だいじょうぶ』


「なんでよ」


 少し強めに、喉から言葉が出てきてくれた。


「なんで」


『いままでありがとう。だい好きでした』


「なんで。なんでなのよ」


 好きのところだけ、なんで漢字なのよ。


『テキストメッセージは以上です。このメッセージは自動で削除されます』


 ゲーム画面。


 タイトルに、戻っている。


 このゲームのように。


 また、はじめから。


 誰かを探して。好きにならないといけないなんて。そんなの。


「むり」


 無理だから。


 戻ってきてよ。


 いつもみたいに、また、ドアベルを押し続けてよ。夜でもいいから。何もしなくていい。恋人みたいなことはしなくていいから。わたしのとなりでゲームしててよ。それだけでいいから。


「戻って、きてよ」


 どうしようもない。


 彼以外の理想の相手は。


 いない。


 失ってから。はじめて、わかってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る