06 私にとって

 彼がすべてだったのに。


 もう、いない。


 どうしようも、なくなってしまった。


 テレビを消す。真っ暗な画面。ゲームは第6面の途中で止まっていた。死なないザコ敵が、たくさん出てくるところ。


 彼の横顔。思い出される。残念そうだった。あの顔は。ゲームのせいなんかじゃない。


 私と逢えるのが。最後だと思っていたから。それで。あんなに悲しそうな顔を。


 彼は。


 もう。


 いない。


 その事実だけで、心が、耐えられない。


 耐えられないのに。


「なんでよ」


 ようやく喉の奥から出てきたわたしの呟きは、どうしようもなく、小さかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る