快楽

 まったく大変な目にあった。

 この頃忙しく帰宅しては寝るという生活であったわけだが、その多忙にようやくキリがつき本日は定時退社でアフターファブの晩酌に酔いしれる事ができたのである。

 しかし未だ心臓は落ち着かないし脳の処理が追いつかない。ひとまず酒で誤魔化してはいるものの、思い出せば肩が雪崩れる溜息。荷も気も重く滅入るばかりだ。


 いやしかし、まさか同僚がお縄とは予想だにしないでき事。奴がクスリの常習とは聞かされるまで終ぞ知らず、伝聞で初めて知った衝撃たるや驚天動地。夏場でも頑なに長袖のシャツを着てきたのはそういう理由かと一人合点してる間に上役から穴埋めを任された次第。まったくとんだ落とし穴もあったものではないかと、連日の残業にボヤいていたわけである。


 しかしクスリか。その快楽たるやまさに極楽浄土と聞くが如何なるものか。一度摂取すれば世界が光り全てが鋭敏に感じられるそうだが、この手にしたビールの何倍の魔力があるのか。そういえば奴は、然る町の駅裏へ行くと頻繁に行っていたが、あるいは……



 止めよう。

 安い労働者には、安い酒で十分だ。

 ビールを飲んで微睡むくらいが、丁度いい。

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