転落

 ビールが進む。

 早朝出勤無休憩のうえ二時間の残業により十二時間働き通した労働がようやく終わったのだ。それは染み入るというものだろう。


 人員不足による無茶なスケジュールにもかかわらず上司は「すまん」で済ます薄情ぶり。俺に対しての敬意が足りないばかりか評価も据え置きである。納得いかん。しかも早朝出勤と無休憩は無給であるわけだから辛苦も重なる。これに関しては独自判断のため会社のせいばかりとは言えんが、そうならざるを得ない体制は見直していただきたいものだ。


 とはいえ非正規であるわけだから仕方のない部分はあるかもしれない。会社における俺は労働力の一部であり人間ではないのだ。形だけでも謝意を賜ったのだから感謝すべきなのだろう。


 しかし、惨めだ。

 安い金で使われ、ぼろぼろになって帰宅して酒を煽り、誰に聞かせる事もできない愚痴を延々と抱き続けなければならないのだから自己への憐憫が絶えない。自分を叩き売って鬱屈を買うなどゴミのような生き方ではないか。あぁ! 哀れだ!


 



 堪らずビールを飲み欲し卓に置くと、空となった缶が転がり床に落ちて、カラリと味気ない音が立つ。これは役立たずの音だ。多分、俺もいつかきっと、同じ音を鳴らすのだろう。

 

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