貧すれば鈍する2

 酒を飲みながら野球中継を観るなどまるで昭和の親父のようでありかつては嫌悪の対象だったのだがいざ自分でやってみるとどうにも心地よく愉快で気が付けばライフスタイルの一つに組み込まれてしまっているのであった。

 とはいえ別段贔屓にしている球団があるわけでもない。単にルールを知っているスポーツを眺めるのが楽なのだ。バラエティだのドラマだのといった番組はもはや窮屈。心が抑圧され、没入できない。


 こうしてみるとほとほと退屈な大人に成り果てたなと思う。趣味もなくただ時間を漫然と過ごすだけの人生にいったい如何なる価値があるのか分かりたくもないが、ともかくとして生きているわけなのだから生きなければならず、死ぬまでの間、何かしらしていなければならない。普通だったら楽しみや喜びの伴う余興に費やすのだろうが、俺ときたら酒をかっくらって脳を澱ませながら辛うじて理解できる興味のない興行を眺めるしかできないのである。無益だ。


 しかし、人生に益だの無益だのを追求すると人の命そのものに価値があるのかという少年時代に陥りがちな益体のない不毛な思考が頭を支配してしまう。そんな解なしの愚問に悩むような人間となったらお終いだ。どうせ悩むなら車とか家とかの購入について頭を使った方が遥かに楽しく建設的ではないか。それこそが、唯物論者や金満が跋扈する新資本主義社会に生きる人間の正しい在り方というものである。


 あぁ、しかし、俺には家や車を買う金がないのであった。なんとまぁ救い難い。俺は現代日本における不適合者だ。


 スリーアウト。試合終了。

 

 野球の中継が告げる終わりの一報。


 心に深く、深く、滲みる。

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