幕間
幕間 / リリィⅠ
夜空に浮かぶ月を背に、金髪の悪魔は優雅に空を泳いでいた。
彼女は悪魔らしい羽なんて持ち合わせていない。その代わり黒いロングドレスが翼のように靡いている。
ふわりふわりと中を舞っては、子供のように無邪気に笑った。
「本当に、本当に面白い子ね」
とても上機嫌だった。
彼は予想以上に人間らしく、もがき苦しんでくれた。彼を取り巻く女性たちもまた同じだ。
夢の中で少し話をしただけで、ああまで欲望のままに動いてくれるなんて、なんて素晴らしい逸材なのだろう。そのくせ、彼に嫌われたくないなんて願っているのだから、可笑しくて仕方なかった。
つくづく人間の愚かさを感じられる、とても充実した時間だった。悪魔としてこれ程喜ばしいことはない。
もちろん悪魔としてだけではない。
一人の女性としても、欲求の満たされるいい時間だった。
少年のことは嫌いではない。彼を呪っているとはいえ、それは自分の意思ではないのだ。
多少の小細工は弄したものの、彼自身のことはむしろ愛していると言ってもいいくらいだ。決して憎んでなどいない。
それは自分が悪魔だからで、愛を囁き合うだけの関係など全く魅力を感じないからだ。
愛しい者を傷つけ、踏み躙る事が愛情表現であり、悪魔としての常識である。
悠一が傷付いていく様を見るだけで、自分の女としての部分が刺激されていく。
流れた血を啜って、溢れる涙を舐めとってあげたかった。どうせ彼は嫌がるのだから、動けなくしてから存分に楽しみたい。
でもそれはまだ時期尚早だ。彼が人間のままである限り、自ら手を出すことはできない。
彼が自分の手に落ちたとき、思う存分愛でればいい。時間はいくらでもあるのだから慌てる必要なはい。
少年が呪いに負け、自分の物となった時のことを想像する。身震いして悪魔は顔を赤らめた。
「それにしても……ふふ、人間にもああいう子はいるのね」
人間と悪魔の感覚は違うと思っていたが、存外似通っている部分はあるようだ。
大半の人間たちは、愛する人に対しては優しさを以って行動する者がほとんどだと思っていた。
甘い言葉を囁いたり、寄り添い合って愛を交わしたり、悪魔としてはあまり面白くないものばかりだ。
かと思えば、千里のような欲望に忠実な人間もいる。
束縛し、傷つけ、壊してまで手に入れようとする。心をずたずたに引き裂こうがお構いなしだった。
「ふふふ……あははははっ」
なんて楽しいのだろう。
大切なものを壊してしまいたがるなんて、本当に人間って可笑しな生き物だ。
どちらかと言えば、千里は悪魔に向いている。彼女が死んだら悪魔にしてしまおうかと考えた。
リリィはかつての自分を思い出して、また嗤った。
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