一人目 千里Ⅳ

 少し低めの鼻歌がリビングに流れている。

 上機嫌であることを隠すつもりはないようで、千里はにこにこしながらテレビを眺めていた。


 休日の午後、この日も暖かな陽光がリビングに降り注いだ。雲が緩やかに空を泳ぎ、穏やかな時間が流れていた。

 

 何年も前に作られたような古い映画は、思いの外面白かった。吹き替えの日本語は少し違和感はあったが、それでも楽しく見ていられる。

 一方で悠一は、最早定位置となりつつある千里の胡坐の上で、ぬいぐるみのように抱き抱えられていた。

 背後から腰に回された腕によって逃げることも出来ず、諦めて映画に集中し出したのが三十分前。

 最初は背中でぐにぐにと形を変える双丘が気になっていたものの、いつしか映画の世界へ引き込まれていた。


 傍から見れば、休日を過ごす恋人同士のよう。違和感もなく、ましてや監禁している側とされている側とは思えない。

 それ程までに、二人を包む空気は一夜にして劇的に変化していた。

 

 一線を越えたことで、千里の精神は安定に向かっていたように見えた。

 彼を狙う女性たちへの劣等感から生まれる焦りも、今では優越感で満たされている。今この世界で悠一を自由にできる唯一の女性という肩書きが、今までの不安や焦りを一掃したのだ。


 とはいえ、全てが順風満帆というわけでもない。

 自身の口調など、女らしさに欠ける部分については未だにコンプレックスであるし、悠一が今どんな気持ちなのかなど、新たな不安が生まれ始めている。

 そんな暗雲立ち込める気分も、結局悠一に触れるだけで吹き飛んでしまうのだ。

 甘い香り立つ髪、柔らかな唇、蕩けるような声。麻薬のような少年に、少女が溺れるのに時間は要らなかった。

 あまり溺れすぎないようにと自制すべきか悩んでいるが、気付けばいつも少年のことを考えている。

 

 こうして映画をみている時ですら、意識の半分は彼に注がれていた。

 意識的に胸を押し付けては、少年の反応を楽しむ。わざと深く息を吐いて、少年の耳元を擽る。さり気無く腰に回した手をシャツの中に滑り込ませたりする。

 逐一期待以上の反応を示す少年が、今は彼女の全てになっていた。

 

 やがてテレビ画面にエンドロールが流れ始めた頃、すっかり出来上がった千里は即座にテレビを消した。

 悠一が抗議の声を上げる前に、その唇を塞ぐ。口内を蹂躙して、抵抗など無駄だと解らせる。

 しつこく、力が抜けるまで舌を絡ませれば、悠一は諦めた表情で抵抗を止める。一晩かけて学んだ、千里にとっての大事な知識。

 撫でる手は優しく、胸の突起を摘んでやれば体が跳ねる。

 耳孔に舌を差し込んで、嫌がる頭を押さえつける。口から漏れる悲鳴に似た嬌声は、千里がこの世で一番好きな音だった。

 ここまですれば、少年は潤んだ目を見せ始めるのだ。非難めいた視線も、欲情を煽るだけだということに気付かないのだろうか。

 

 そっとソファへ悠一を押し倒し、ズボンへと手を掛ける。

 涙目の少年が目を閉じたのを見て、我慢の限界は訪れた。

 一切の思考を止めて、少女はそのまま溺れていくことにしたのだった。

 

 

                    

 

 


 自室を半壊させた姉を宥め、灯はリビングで夕食を取っていた。

 警察への連絡も済ませ、一人を除き、連絡が出来る人間全てに彼を探すようお願いもした。

 ふらっと帰宅する可能性も考えて、自分は家で待つことにした。それが間違いだったと気付くのに二日かかったが。

 外の捜索を任せた真夜は全て空振りで、一樹の証言から一度町まで戻ってきたことまでは分かった。

 それ以降の足取りは全くの不明。今ではもうお手上げ状態に近い。

 悠一は無断で外泊をして、音信普通になるような人間ではない。彼の過去を考えれば、家族を蔑ろにするなど有り得ないのだ。

 この現状は誰かが彼を誑かしたか、もしくは無理矢理連れて行ってしまったかに他ならないと確信していた。


 サラダを弄んでいたスプーンを止め、灯は天井を仰いだ。

 状況を考えるだけで、自分の限界が近いことが良く分かった。

 何を目にしても怒りを煽るものにしかならず、鳥の囀りや車の走行音の度に頭が沸騰しそうになる。

 歯軋りが止まらず、そんなことを考えている自分に苛立って、突発的にサラダを皿ごと壁に叩きつけた。

 砕けた陶器とサラダが床に広がり、それを見て少しだけ気分が晴れる。

 これが愛しい少年を誑かす雌猫だとしたら、どれほど気分が良いのだろうか。

 体中の骨を砕いて、その顔をぐちゃぐちゃに切り裂いてやる。

 死にたいと一万回言わせたところで、首の骨を折って殺してやる。

 そこまで考えて、頭を振った。物騒な思考を振り切って、冷静になれと自分を言い聞かせた。

 

 ふう、と一息ついて、自分の携帯を手に取る。

 メッセージアプリを起動させて、目当ての人物へただ一言を送る。眉を顰めて送信ボタンをタップ。

 間の抜けた音を立てて送信されるメッセージ。程なくして、灯と同じく一言で返信が帰って来た。

 

『知ってたら?』


 その一言を見て、すぐさま灯は身支度を整え始めた。

 鍵は掛けずとも問題はないだろう。何せ、今は狂犬のような姉が家にいるのだから。

 メッセージを返信することなく、灯はその相手の家へと向かっていった。


                   





 ソファでぐったりしている少年を寝かせたまま、千里は熱めのシャワーを浴びた。


 刺激を感じる程の熱湯が肌を刺し、心地よい倦怠感を全身に感じながら、少年との残骸を洗い流す。

 床に落ちては流れていく白い残骸を見て、素直に勿体無いと思った。どうせなら、ずっと体内の残っていてくれたほうがいい。

 ピルはしっかり飲んでいるし、避妊はちゃんと出来ている。今妊娠することのほうが、今後を考えたときにリスクは高いのだ。

 いずれは悠一の子を宿して、こんな田舎くさいところからは出て行ってやる。

 卒業したら、遠く離れた地で二人仲良く暮らせばいい。それまでは、あのイカれた人形女だろうがなんだろうが利用してやる。

 

(アタシのもんだ……)


 握った手が軋む。

 彼を抱いて、彼に抱かれて、存在がその度に大きくなっていく。

 少年のいない日々など、恐ろしくて考えられなくなっている。

 

(アタシのもんなんだよっ……!)

 

 握った手を壁に叩きつける。建物中に鈍い音が響いて、その音で我に返った。


 一人になると、自分の精神が壊れていくのを感じるようなったのはいつからだろう。

 彼といるときには溢れる自信も、鏡を見ればその醜さを突きつけられる。


 その鏡に映る自分を見て、千里は笑った。


 幽鬼のような、人とも鬼ともつかない化け物。角や牙でも生えてきそうだ。

 こんな自分を悠一には見せられない。鬼みたいな女など、きっと彼でも嫌うだろう。

 それだけはだめだ。そんなことになれば、心が壊れてしまう。

 彼を攫うと決めたとき、嫌われようがどうしようが関係ないと思っていた。

 たとえ心の奥底で侮蔑されようとも、彼を独占できればいいと。

 それが一人きりではどうしたことか。

 その覚悟は露と消え、まるで乙女のような心情になる。

 

 彼に嫌われたくない。

 

 自分を好きになって欲しい。

 

 一度寝ただけでこんなになるなんて、こんなチョロい女だったのか。

 この状況が自分で望んだ事とはいえ、今さらとてつもない恐怖が襲い掛かる。


 彼に嫌われて捨てられる。


 夢に出るくらい、何度も想像したシチュエーション。悪夢よりも最悪な、千里の地獄。

 痛みからか恐怖からなのか、じんじんと痛んだ手が震えている。

 

 きっともう遅い。彼はきっと自分を許さない。

 自分を拉致してレイプするような女を好きになれるわけがない。

 

(ありえねぇ、よな……)


 そういえばここに来てから、悠一の笑った顔を見ていない。

 丸二日間も一緒にいて、くすりともしてくれない。思い出すのは、行為に耐える顔や暗い表情ばかりだった。

 時折見せる、哀れむような、嘲笑するようなあの視線。気持ちの悪い女だと思われているに違いない。

 今度は歯が鳴る。かたかたと、凍えているかのようだ。

 自分で止める事もできずに、その場で座り込んだ。頭からお湯を被る。

 

 恐怖と不安に押しつぶされそうになって、千里はまた子供のように泣き始めた。


                  





 千里が浴室へ向かった頃、悠一は息を潜めながら身を起こした。

 千里の入浴時間は長いのだ。少なくとも三十分は出てこないはず。

 それだけあれば、彼女を放すくらい造作も無いことだった。

 

「リリィ、いるんでしょ?」


 夕闇から月明かりへ移り行く部屋の中、悠一は誰とも向けずに話しかけた。目には見えなくとも、そこにいると知っているのだ。


 少し間が空いて、床に伸びた影から女性が現れる。

 いつも通りの黒いドレスに、金色のロングヘアー。赤い瞳が妖しく光っている。

 リリィはくすくすと笑うだけで、返事すらしなかった。

 

「楽しそうなところ悪いんだけど、これは全部リリィの仕業?」


 悠一の言葉に、リリィの笑い声が強まった。どうやらハズレらしい。

 

「そうだよね、君にとってはゲームみたいなもんだろうし」


 軽蔑の意味を込めて、悠一はリリィを睨み付ける。とはいえ、それすら可愛らしく見えてしまっては効果がなかった。

 リスの威嚇のような視線を受けて、リリィの笑みは益々深くなる。

 ここでやっと、悪魔が声を発した。

 

「監禁されたことを言っているのかしら。それなら、私はなにもしてないわ」

「原因を作ったのはリリィでしょう」

「原因?なんのことかしら」

「リリィが千里ちゃんに手を出さなきゃ、彼女はこんなことはしなかった。こんな監禁ごっこなんて何時までも続くわけないんだ。警察に知れれば、千里ちゃんは犯罪者になる」

「そうね、拉致監禁に暴行、強姦。立派な悪党ね」


 残念ね、と嗤う悪魔。それが少年の逆鱗に触れた。


「じゃあなんで笑ってられるんだよッ!」


 咆哮。

 笑い続けるリリィに、悠一が牙を剥く。

 少年の突然の反撃に、リリィの綺麗な眉が反応する。

 それでも笑みは止まらず、それが悠一の神経を逆撫でしていく。

 

「何度も言ったわ。私はただ後押ししただけ。彼女の中にあった欲望や想いを、ただ強くする。こうなった結果は、それこそ彼女自身の奥底に眠ってた欲望が形になっただけの話よ」

「これが千里ちゃんが望んでたことだって言いたいの?」


 そういうこと、と悪魔は頷く。

 薄ら笑いを浮かべて、目の前の悪魔は言い放った。

 千里を馬鹿にされたような気がして、悠一の胸が熱くなる。

 

「じゃあなんで千里ちゃんが泣いてるんだ……!」


 静かな、二度目の激昂。

 女性と間違われる程の可愛らしい顔が、だんだんと怒りに歪んでいく。

 彼がここまで怒りを露にするのは珍しかった。生まれたときから見ていたリリィでも、ここまで怒った悠一は知らない。

 搾り出した声で、悠一は悪魔を追い立てる。


「今だって僕に見せたくないから、彼女は一人で浴室に篭って泣いてるんだ」


 千里は入浴時だけは一人がいいと言っていた。最初のシャワーのときだけで、後は頑なに別々であろうとする。

 終始べったりと傍にいたがる彼女だからこそ、違和感は拭えなかった。

 彼女の入浴中、シャワーの音に紛れて微かに聞こえた嗚咽。

 やるせない気持ちと、胸を締め付けられるような感覚を覚えた。


 慕ってくれる、本当は心優しい大事な後輩。

 そんな大事な子が泣いているのに、ただ黙っているだけにはいられなかった。

 

「呪いのせいだと言うなら、今すぐ彼女を解放してほしい」


 真っ直ぐと悪魔を見据えて、悠一は力強く言い放った。

 誤解されがちだが、他人を優先ばかりする悠一も、自分の意見を通そうとするときは多々ある。

 友人や身内のためなら、自身の犠牲だって厭わないくらいの正義感と勇気は持ち合わせているのだ。

 だからこそ、千里が自分の呪いのせいで追い詰められる様は見たくなかった。

 彼女は悪くないのだと、気付かせてやりたい。

 

 それが自分の命を削ることになろうとも。

 

「どうすれば、彼女は解放され―――」

「勘違いしているようなのだけれど」


 リリィが悠一の言葉を遮る。

 これ以上は聞いてられないとばかりに、冷たく言葉を吐き捨てた。

 

「彼女を助けたいのは分かったわ。でも、それが出来るのは私じゃないの」


 ロングドレスが舞って、白い指が悠一を指す。

 真っ直ぐと刺された指が、まるでナイフでも突きつけられているかのような錯覚に陥った。

 ごくりと喉を鳴らす少年に、悪魔は言葉を重ねていく。

 

「君が彼女を選ばなければ、それで終わり。ただ一人の運命の伴侶たるファム・ファタールではないと、そう言えばいいのよ」


 それに、と悪魔は言葉を続ける。

 

「あの子を追い詰めているのは呪いでも私でもなく、君だってこと」

「……どういうことさ」

「優しいだけで女が救われると思ってるのかしら。君のその態度で、苦しむ子もいるって気付かないのね」


 苦しむ?誰が?自分のせいで?

 戸惑いを見せた悠一に、リリィは余裕の笑みを以って答える。

 掌をぱん、と叩いて、この話はお終いであると言外に告げた。

 突然の破裂音が、宙に浮いた意識を引き戻す切欠となった。悟られないよう、冷静に悪魔を見つめ返す。

 

「で、どうするの?君が私に彼女を選ばないと言えば、それで終わりよ?結果がどうあれ、ね」

「千里ちゃんが違った場合は、彼女はどうなるの」

「さぁ、どうなるのかしらね」


 悪魔は大げさに肩をすくめた。

 芝居がかった態度だが、目は至って真剣そのものだ。恐らく、これ以上は答えられないのだろう。

 リリィは嘘が言えないのであると、悠一は気付いていた。

 契約を重んじる悪魔として、虚偽は許されないのだ。だから答えられないことは言わないし、こうしてふざけた態度を取って避ける。

 であれば、これ以上の問答は無用だった。

 彼女のペースに巻き込まれる前に、彼女から主導権を奪い取ってしまえばいい。

 そのための一言を、悠一は言い放った。

 

「いや、まだ言わないことにするよ」


 へ、とリリィは意外そうな表情をした。てっきり、この場で彼女を解放するのだと思っていたのだ。

 その表情が、悠一の予想を確信に近づけた。

 攻めるなら今だと、悠一は悪魔へ駆け引きを続ける。

 

「なんだかんだで居心地良いしね。それとも、今言わなきゃいけないようなものなの?」

「そうではないのだけれど……つまらないわね、もう」


 冷たい笑みが、拗ねた少女のような雰囲気を帯びていく。

 頬を膨らませた美女というもの悪くない。が、手を緩めるつもりもない。

 緩んだ空気の中、悠一はリリィの油断を見逃さずに攻めた。

 

「どうせ、選んだ後はリリィが全部無かったことにするんでしょう?」


 したり顔で、彼女を刺す。

 リリィは嘘をつけないだけではないのだ。

 彼の質問に対して答えられないのであれば、それに気付くように振舞う。まるで彼に助言するかのように。


 彼女の言動には、前から違和感があった。

 自分を苦しめるために動いているかと言うわりには、肝心なところで甘くなる。

 千里や真夜に襲われたときも、ギリギリのところで、彼女は悠一を助ける。

 今だってそうだ。姿は見えなかったが、ずっとどこかで見られているような感覚は消えなかった。

 

 悠一は確信した。結局のところ、本当に彼に何かあっては困るのは彼女なのだ。

 それがリリィの気分によるものなのか、悪魔の呪いによるものなのかは分からない。

 だが、それを利用しない手はなかった。

 

「もし千里ちゃんに何かあれば、僕その場で自殺するからね」


 止めの一言。

 リリィの顔が一瞬歪み、すぐに諦めたように息を吐いた。

 そして今度こそつまらなさそうな顔で答える。

 

「まぁいいわ。私が約束できるのは、彼女がしてきた行動をなかったことにするだけ」


 珍しく真剣に、リリィは悠一と向き合った。

 赤く光る目が剣呑さを帯び、この言葉が嘘でないことを証明する。

 

「でも、あの子の心まではなかったことにはできない。あなたに選ばれなかった彼女が、どうなるかは私にも保障はできないわ」


 監禁した事実は消える。きっと、何事も無かったかのように日々は続いていく。

 が、彼女の想いまでは消すことはできない。

 リリィはできないとハッキリ言った。しないのではなく、不可能だということだ。

 心の中で顔を顰める。想いは消せないのは誤算だ。

 追い討ちを掛けるように、リリィの言葉は続いていく。


「あの子とは夢の中で約束したもの」


 聞き捨てなら無い言葉だった。

 夢で千里と会って話したかのような、そんな一言。

 悠一は慌ててリリィに問い質した。せっかく弱みを見せまいと振舞っていたのに、結局最後には崩れてしまった。

 

「待って、約束ってなに?千里ちゃんと何か話したの?」

「ええ。でも、何を約束したかまでは言えない。あぁ、女の子には秘密がいっぱいあるのだから、詮索してはだめよ?」


 ふっとおどけて、リリィは宙を舞う。

 制止する悠一を無視して、リリィはそのまま窓を通り抜けていった。程なくして、浴室のドアが開く音。

 まだまだ言いたいことはあったが、これ以上は時間が足りない。

 リリィが応じてくれるとも思えないし、今日はもう手詰まりだった。

 

 今日はもう諦めよう。ほんの少し彼女と対峙しただけで、一気に疲労感が襲ってきた。

 力を抜いて、ベッドへと身を任せる。空気の抜けた音と共に、体が沈み込んでいった。

 ぐったりとした体で、リリィの言葉を思い起こす。

 自分の態度が、彼女を傷つけている。優しいだけでは救われない。

 まだ十七年しか生きていない彼にとって、かなり難解な問題にぶち当たってしまったようだ。


(女心って難しい……)


 もちろんそれだけの問題ではないのだが、詰まるところ女性問題で苦しんでいるということは同じだ。

 はぁと溜息を吐いて、枕に顔を埋める。千里の足音が近づいて、寝室のドアが開けられた。

 まだ寝ていると思ったのか、千里は悠一の隣へ寝転んだ。そのまま悠一を抱き締める。

 寝たふりを続ける悠一の耳元で、千里は精一杯の想いを込めて呟く。

 

「先輩、大好きだ」


 赤くなった悠一が起きていると知り、千里は涙目で布団を被った。

 

 やはり女心は難しいと、悠一は飛んできた枕を顔を受け止めた。

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