追記の章

その後の話

【不知火 白夜】

 本編当時二十四歳。男性。

 享年四十二歳。独身。

 蓮角の里にて紅道場の師範代となり弟子に囲まれて死去。人助けを多くし、自らの身体を消費しながら生きた。

 結果、軽度の風邪を拗らせ肺炎に罹患。そのまま亡くなる。死後、彼は蓮角の里にて本物の英雄のように語り継がれることとなる。


【愛野 鈴音】

 本編当時十八歳。女性。

 享年三十六歳。独身。

 天寿の能力の多用の結果、元々病弱だった身体を酷使することとなり、白夜に看取られて死去。最期まで明るく振る舞い人々を慰め続けた。愛刀は紅の手に渡ることとなる。


【千寿 千夏】

 本編当時二十二歳。女性。

 享年八十九歳。

 響と共に白夜亡き後の紅道場を経営。響に看取られて眠るように亡くなる。長生きをした。最後の日も元気に竹刀を振り回す様子が確認されていた。


【篠森 響】

 本編当時十六歳。女性。

 推定寿命二百歳。健在。

 千夏を看取った後、蓮角の里にて紅道場の維持を行う。千夏のために長生きすることを決意。千夏の遺産を片手にあちらこちらへ放浪することもある。土蜘蛛の血のせいで老化が遅いことでの肉体への負担を心配している。


【紅 輝夜】

 本編当時年齢不明。少なくとも千五百年は生きている。女性。不死者。

 本編後も庵と道場をいったりきたりふらふらと生活。星の終わるその日まで彼女は死ぬことはなく、永遠に自らの死を斬りつつ、キーマスターとして隠居生活を行うことになる。


【愛野 燐兎】

 本編開始時十四歳。男性。

 享年六十三歳。

 鈴音と改めて出会い、家族の一員として迎え入れられる。天寿は全て喪失していた。道場で剣術を学び、白夜に弟子入りする。


【篠森 ナル】

 響の姉であり奏の妹である少女の存在が篠森家の焼失したはずの書類より発見された。彼女の存在は〈検閲済み〉により保護されており、現在はアゲハの元で働いている。

 姉の訃報にも動じなかったことから、姉妹仲はよくはなかったようである。


 以上が先の事件の報告書であり、二度と起こることのない事件の報告書でもある。


***


 もう長いこと歩いてきた。

 あの人を看取り、私たちはとうとう最後の一人になった。私はまだ死ぬつもりはない。この力はありとあらゆる未来を見透かす事ができる。だから死が見えないうちは、まだ。


 多くの人の死を見てきました。

 それが避けられないものになるのにそう時間はかかりませんでした。


 それでも今、その日々に後悔していないのは。


『――さん。これ以上は体に触ります。わかりますか!? 貴方の体は先の戦いで消耗しすぎました!!』

『うん。でもこれくらい平気だよ。これが、これだけが、償いでもなんでもない、僕の罪の証明なんだから』


 そう笑った人がいたから?

 それとも、その死を受け入れられるようになったから?

 回避できないと、諦めているから?


 無理に笑うことをやめて、ただ真っ直ぐに生きてからは、心が楽になった。

 天寿。その意味を私たちはようやく知ります。


 もはやかつて願いの叶う浄土ではなく。

 天命の寿ぐ春はなく。


 私たちはかつて望みました、願いました、祈りました。

 祈ることで明日が切り開かれると知っていたからです。


 この天寿花咲く土地では、誰もが己のために戦うのです。そういうのも、もしかしたら存外悪くないと、思える日が来るのかもしれません。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天寿 《紅月の極夜》 ぱんのみみ @saitou-hight777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ