【悲報】勇者さん、魔王をおっさんと呼んでしまう

だいたいの事情を理解したアリエーネ。


だがその千里眼は

まだ全てが終わっていないことを告げていた。


「天我くん、魔王が、

まだ生き残っているみたいなんだけど……」


「あぁ、あれか、

この世界のラスボスみたいな奴か」


  ――あぁ、

  ラスボスは通じるんだぁ


「そうだな、

せっかくだから

俺も一度魔王とやらを

見てみたかったしな」



アリエーネの案内で魔王の居城である

魔王城へと辿り着いた勇者天我てんが


道中では凍死している

魔族や魔獣、魔物の姿で溢れていた。


試しに天我が凍った魔物を蹴飛ばすと、

見事にパリンと砕け散る。


「おぉ、

やっぱり効果あんじゃん」


  ――あぁ、どうしよう

  勇者のはずなのに

  物凄く嫌な奴に見えてしまうんだけど



魔王城もすでに静まり返っており、

一応警戒しながら侵入して行ったが、

そこにはただ凍りついた屍があるだけ。


魔王が座する玉座まで

楽々と進むことが出来た。


今、天我達の目の前に居るのは

重厚な鎧を着込み、仮面を被った、

昔ながらの伝統的な装いの魔王。


鎧の表面はすでに凍結をはじめている。


「へぇ、あんたが魔王か?」


魔王はシールドを張って

この寒さを凌いでいたようだが、

もうすでに動くだけの

体力も気力も残っていない、

それぐらいに疲弊して見える。


「誰だ、貴様は?」


「いや、顔見えないけど、

声とかめっちゃおっさんじゃん

これからはおっさんって呼ばせてもらうわ」


「まぁ、あんたのトドメを刺しに来た

勇者?って奴らしいぜ」


  ――ちょっと、

  何挑発してんのよっ!?


  しかし、

  人をイラッとさせることに関しては、

  この子、かなり天才的よね?


「貴様か?

この世界をこんな氷河期にして

数多あまたの命を奪った外道は?」


  ――あぁ、どうしよう

  魔王の方が正しいことを言っているような、

  そんな気がしてならないんだけど


「どうする気なの? 天我くん!


いくら魔王が弱っているからって言っても、

今のあなたじゃ、剣でも魔法でも、

攻撃が通用するような相手じゃないわよっ!?」


アリエーネは

とんでもない勘違いをしていた。


そもそもこの勇者に、

正攻法で魔王とまともに戦う気などは

さらさらなかった。


この勇者はそういう勇者だということを

まだ理解していなかったのだ。


「そうかぁ?

今にも死にそうなおっさん、

というか動けない爺さんみたいだけどなぁ」


「何言ってるの?

この世界の魔王と言えば、

防御力とかすごいんだからっ!

あんな風に見えてもすごいんだからっ!」


  ――あぁ、どうしよう

  なんで私は魔王の擁護をしているのだろう


これまで何人も

勇者が倒されて来た魔王を前に、

舐め切っている天我の態度が、

アリエーネの間に触ったようだ。



「とりあえずさぁ?


一回目にあいつが

出て来なかったってことは、

いくら魔王でも

核ミサイル喰らったら

さすがに死ぬってことだよな?」


  ――えっ!? 


「じゃぁ、まぁ、

やることは一つ、

決まってるんじゃね?」


天我は拳を天高く突き上げる。


転移強奪てんいごうだつ


魔王城の上空に浮かび上がる紋様。


  ――いやぁ! ちょっとちょっと

  核ミサイルを必殺技扱いするのやめてぇー!


「じゃぁ、ババァ

俺は瞬間移動で逃げるから」


核ミサイルの落下は

すでにはじまっている。


「ババァも早く逃げないと

巻き添え食らうよ?」


  ――えっ!? エェッ!?

  それ、早く言ってよぉ!?


動けなくなっている魔王に

容赦なく核ミサイルは落下し、

魔王城もろとも大爆発を起こす。



  ――今、あたし死にかけたっ!

  女神なのに二度も死にかけたっ!!


数十キロ離れた地点に

瞬間移動した勇者は

魔王の最期を見届ける。


  ――ちょっと、この子

  いつの間に瞬間移動とか

  出来るようになったのよっ!?


この先、勇者天我と魔王は

時を替え、場所を替え、

幾度となく顔を合わせ

対戦することになる。


そして、その結果はすべて勇者の勝利。


だが、毎回リセットが繰り返される為

魔王は一切そのことを知らない。

その記憶を持ち続けているのは勇者だけ。


何とも奇妙な

勇者と魔王の関係だけが残ることになる。



今回はこれで

ミッションクリアかと思われたが、

意外なところから綻びが出ることになった。


「天我くん、

さすがに地上を冷やし過ぎたわ……


地下に避難していた人間達に

続々と死者が出ているみたい」


いくら地中の方が

地上よりも温度が高いと言っても

ものには限度と言うものがある。


地上が冷え過ぎてしまえば、

地中も相応に温度が下がる。


「おい、クソババァ、ふざけんなよっ!

俺は暖房使えって言っといたぜ」


「使ったみたいなんだけどね、

それが逆に不味かったようで……


あなた達の世界で言う

一酸化炭素中毒、

二酸化炭素中毒などによる死因も

多かったみたいね……」


東京の地下街をシェルター代わりに使っても

当然電気もガスもない訳で、

暖をとろうとすれば火を使わざるを得ない。


換気能力の低い所で火を使えば、

空気中の一酸化炭素や二酸化炭素の濃度が

高くなるのは当然だろう。


「ちっ!

これだから原始時代の人間はっ!

火の使い方も分からねえのかよ」


「まぁ、でも

今回結構面白かったし、

もう一回ぐらい

付き合ってやってもいいかもな」


  ――前回よりは大分マシになったけど

  この子、本当は魔王よりもよっぽど

  ヤベエ奴なんじゃないかしら……




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