【悲報】異世界を知らない勇者さん、うっかり何度も異世界を滅ぼしてしまう

【悲報】勇者さん、異世界をとんでもない姿に変えてしまう

空は澄み渡り晴れて、

果てしなく青い。

「ババァ、

本当にこっからやり直しなのかよ……

クソだりぃな」

この世界を核まみれにしてしまった為、

リセットして

新たにやり直すことになった天我（てんが）。

空高く天に拳を突き上げる。

『転移強奪（てんいごうだつ）』

ここまでは前回と変わらないが、

さすがにまた核ミサイルの雨を降らす

という訳にはいかない。

「まぁ、俺も

一晩考えた作戦があるからよ」

前回と大きく違うのは、

空に紋様は浮かんでいない。

「この原始時代に

成層圏とか大気圏とか、

宇宙の概念があるのか

よく分からねえけどな」

異なる世界をつなぐゲートは

空よりさらに高度がある

大気圏外にその姿を現していた、

それも無数に。

しばらくすると空には

巨大な隕石が視認出来るようになり、

その姿は次第に大きくなっていく。

空は巨大な隕石群に埋め尽くされ、

やがて地上に激震が走る。

最初の隕石が地上に衝突したのだ。

さらにその衝撃は止むことなくいつまでも続く、

果てがないのではないかと思われるぐらいに。

その衝突によって、大地はえぐれ、

膨大な量の粉塵が空を舞い、

すぐに空は埃まみれになった。

この世界でも

禁忌の術とされているメテオストライク。

広範囲に地形すら激変させ

この世界すら滅ぼしかねない、

その脅威的な破壊力を恐れた

人間そして魔族達ですらも、

その術を禁忌としたのだ。

だが今、それと同等の現象が

この異世界で起こっている。

それも絶え間なく、

天我の『転移強奪（てんいごうだつ）』の能力によって。

世界中の空が粉塵にまみれ

呼吸すらも困難な状態。

大気中を漂う微細な漂流物は

微小粒子状物質のカーテンとなって

太陽光を遮断する。

地上にはすざましく

甚大な被害が出ているが、

まだ今の段階で人類は滅んではいない。

一部人間の居住エリアには

隕石を落とさないように、

天我が調整しているというのもある。

そして勇者天我の作戦というのも

これで終わりという訳ではなかった。

–

　　――ちょっと、なんで、

　　なんで私の千里眼でも

　　見られないっていうのよ

天我を再度異世界に送り出してから、

転生の女神アリエーネは、

千里眼を使って

行動を監視しようと思っていたのだが。

その意に反して、あれ以来、

まったくあの世界を見ることは出来なかった。

ずっと気になっていて、

事あるごとに千里眼を試してみたが、

その都度エラーで接続が出来ない。

　　――これって、

　　放っておけということなのかしら？

　　上司なのか、誰なのかは分からないけど

　　しばらく様子見する、

　　そういう意思があるっていうこと？

数か月の間、

我慢に我慢を重ねて来たアリエーネ。

しかしついに、我慢も限界を迎え、

じっとして居られなくなった。

　　――こうなったら仕方ないわ

　　私があの世界に降臨して

　　直接この目で

　　確かめて来るしかないわ

　　まさしく女神降臨よっ！

−

　　――エェッ！？

　　どういうこと！？

　　なんでこんなことになってるの！？

意気込んで来たはいいが、

そのあまりの環境の変化に

アリエーネは目を丸くするしかなかった。

雪と氷が覆い尽くす極寒の大地。

猛り狂ったかのような吹雪の中には、

見渡す限りの雪原、氷原。

雪山も存在していたが、

標高はそれほど高くない。

巨大隕石群の衝突によって

すべて削られていた為だ。

空はほとんどが暗雲で覆われており、

未だ微小粒子状物質が舞い続けている。

この世界に太陽の光が指すことは無く、

常に陰鬱とした暗さが覆っていた。

「寒っ！！」

一瞬で体は芯まで冷えて、

体表は瞬く間に凍りつこうとしている。

アリエーネはすぐにシールドを張った。

　　――今、あたし死にかけたっ！

　　女神なのに死にかけたっ！！

女神さえ凍死する寒さ

なのかどうかは分からないが

それはまるで人間世界における

氷河期時代のようでもあった。

−

「天我くんっ！

これは一体どういうことなのっ！？」

ようやくアリエーネが

天我を見つけた時、当の本人は

アイスドラゴンの群れを

『ドラゴンテイマー』能力で使役して、

絶対零度のコールドブレスで

地上寒冷化作戦を推し進めていた。

やはりシールドを張っている為、

寒さは感じていないようだ。

「なんだ、ババァか

随分と久しぶりだなぁ、おい」

　　――いい加減、ババァはやめてっ！

　　あぁ、そこじゃなかった

久しぶりにババァ呼ばわりされて

動揺を隠せないアリエーネ。

「ババァはいいよな、

俺にはこんなことさせといて、

自分は天界でのんびり

お茶とか飲んでんだからな」

　　――女神批判キター！

　　って言うか、それもう

　　ババァって言うよりおばあちゃんだから

「ババァと別れてから俺は

風呂に入って考えた……

ここがアニメや漫画、ゲームが大好きな奴等、

いわゆるオタクという連中が好む

異世界と言う場所であるならば

俺が見たことのある

唯一のアニメを参考にしてみたらどうか？

そこに異世界とやらを

攻略するヒントがあるんじゃあないか？

確か、俺が見たアニメは

地球に隕石を落として、

氷河期時代にしようという

赤い人の話だったな、と」

　　――なんでそんな割と古いアニメ

　　参考にしようと思ったしぃ

　　唯一見たことあるアニメがそれって

　　むしろすごくない！？

　　どういう流れでそれ見たのか

　　ものすごく気になるわ

「やっぱ、風呂入ると

いいアイデアが浮かぶな

ホント、風呂最高だわ」

　　――風呂、ロクデモネー

「でも、それだけで、

急にこんな寒冷化しないでしょ？」

「あぁ、それな！

めっちゃ時間かかりそうだったから、

とりあえず『転移強奪（てんいごうだつ）』で

北極と南極の氷、全部強奪して来たわ」

　　――人間世界にも

　　まぁまぁのダメージ出てるっ！？

「それでも足りなそうだったから、

他の異世界にあった氷も

全部強奪して集めといたわ」

　　――えっ！？　エェッ！？

　　『転移強奪（てんいごうだつ）』って

　　そんなことも出来るの！？

　　他の異世界って

　　氷だけの世界もあるんだよ？

　　その世界ごと強奪して来ちゃったっ！？

「あとは、

ここにいる氷のスゲエ竜とか

雪の精霊とか氷の精霊とか捕まえて、

地上を凍らせるだけの簡単なお仕事を

ずっとやらせてる、ってとこだな」

　　――この世界では

　　まぁまぁの大精霊様だからね、その方

天我の荒唐無稽な

異世界氷河期作戦を聞いたアリエーネは

しばらく呆然としていたが、

肝心なことを思い出した。

「……で、天我くん、

人間は、どうなったのかな？

……また全滅させちゃった？」

「おい、クソババァ

馬鹿にしてんのかっ？

いくら俺でも

またそんなことはやらかさないぜ」

「ちゃんと、地下に避難させてある

東京の地下街を丸ごと強奪して来たからな」

　　――東京、めっちゃ被害出てるっ！

「向こうの世界中の缶詰工場から

缶詰をごっそり強奪して来たし、

当分食料にも困らないだろうな」

　　――缶詰工場、めっちゃ可哀想っ！

「……で、でも避難出来たのって

一部の人間だけでしょ？」

「はぁ？

何言ってんだ、クソババァ

お前『滅ぼすな』としか

言ってねーだろうが

だから、一人でも生き残ってたら

滅んだことにはならねえだろ」

「…………。」

　　――やだぁ、どうしよう

　　この子、賢いんですけど

　　やり方はめちゃくちゃなんだけど

　　ミッションクリアのポイントは

　　ちゃんと抑えてあるし……

　　これ、もしかして

　　クリアなんじゃないの？

　　え？　私、感化されてる？

　　この子に感化されてるのかしら？　やっだぁ