悪夢の始まり?2

  空が橙色に染まり始めた頃、静かな研究室に携帯の着信音が響いた。

ポケットから慌てて携帯を出す。何度か携帯を落としそうになるのをなんとか持ちこたえる。液晶画面は”母”の文字。買い物か?と呑気に考えながら通話ボタンを押す。

「もしもしどうしたの?」

「どうしたもこうもないでしょ!!今日から家庭教師のバイトって言ったでしょ!!早く家に帰ってきなさい!!生徒さんが待ってるわよ」

 キーンと耳につく怒鳴り声と、言いたいことを全て言い終わると通話はブツっと切れた。ツーツーと電子音が響く。詩織が終了ボタンを押すと急いで研究室を出た。

 今日の朝、母がいっていた事を思い出す。

「知り合いの息子さんが大学生になるそうなの。勉強や、学校の様子など教えて欲しいんですって」

「今から?センター試験までそんなに時間ないよね?」

「学校でもかなり優秀みたいだけど、やっぱり受験に不安があるみたいで」

「ふーん。私でよければ教えるけど役に立たないかもよ」

「大丈夫よ、じゃ今日から宜しくね。17時に帰ってきてちょうだい」


 そんな会話っしたなと詩織は考えながら急いで帰る。

 大学から家までは約1時間。急いで帰っても18時を過ぎてしまう。

初日から印象悪くしてしまった事と受験生にとって貴重な1時間を無駄にしてしまった事に罪悪感を覚えた。


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