第72話 余興
「次はねえぜ。玉藻前さん」
磐船が言いながらMDRXを発砲した。口調には少し怒りが
「その武器はもう通じぬよ」
玉藻前が余裕の表情で言い放った。再び、手を顎に当てたまま立っているポーズだ。
磐船が発砲した5.56ミリ弾は全て玉藻前の体の前で停止した。もはや当然のように、何らかの動作すら起こすことなく弾丸を止めている。
磐船は引き続きMDRXの引き金を引きながら、玉藻前に向かって歩みを進めた。歩きながらの銃撃ではあっても、狙いがブレることはない。
「どれだけやっても同じことだ」
玉藻前が吐き捨てるように言いながら、顎に当てた手を外し、軽く振るような素振りを見せた。玉藻前に止められていた銃弾が方向を変え、磐船に向かって飛ぶ。
それと同時に、磐船は発砲することをやめ、プレートキャリアに取り付けたM67破片手榴弾を手に取った。刑部に対して一つは使用したので、最後の一つだ。撃ち返された5.56ミリ弾を避けるべく、横に跳び、半身に体捌きを行いながらそれを玉藻前に投げ付ける。
しかし、人間が銃弾を避けきることは不可能だ。多くは当たることなく後方に逸れたが、何発かは磐船に命中した。プレートキャリアにめり込み、腕や脚を掠める。致命傷を与える弾丸が無かったのは、玉藻前がこれを遊びだと捉えているからか。
磐船は銃弾を受けて後ろに尻餅をつくように倒れた。完全に倒れ込むことは、受け身の要領で両手を地面に着く形で、何とか耐える。
手榴弾は放物線を描いて飛び、玉藻前の足元に転がった。玉藻前はそれに目をやる。慌てるような素振りは見せない。先ほど刑部に使用されたのを目撃したことで、玉藻前もその武器が爆発を起こすものだと理解していた。
銃弾を止める時と同じように、玉藻前が手を手榴弾に向かってかざした。手榴弾に何かが巻き付けられていると、玉藻前が認識したその瞬間、手榴弾が爆発した。
空気が震え、濁った煙が玉藻前を中心に立ちのぼった。
磐船が先ほど取った行動は、
当の磐船は、上体だけを起こした格好でMDRXを構え、その様子を注視していた。
「
玉藻前の声が響いた。玉藻前を包むように立ちのぼっていた煙が薄くなっていく。
玉藻前が、怪我を負っていた。真っ白な小袖の
玉藻前にとっては決して重症ではない。しかし、初めて玉藻前に傷を負わせることができた。
「いいぞいいぞ。その武力、霊力。かつて戦った
一行がほんの一瞬でも活路を見出したのも束の間、玉藻前が滑るように歩きながら、磐船に近づいた。
磐船が上体を起こした体勢のまま、MDRXを発砲した。だが、手榴弾とは違い、その攻撃は意味をなさない。銃弾は玉藻前の目の前で静止し、地面にポトポトと落ちていく。
「お前は、直接手を下してやろう」
難なく磐船の目の前まで来た玉藻前が、しゃがむようにしながらその細い手を磐船の首元へ伸ばす。
発砲音が響いた。玉藻前が興味もなさげにそちらへ目をやると、現が発砲しながらこちらへ走ってきているのが見えた。スカーではなく、ハンドガンのベレッタAPX。スカーは再び源に手渡してあった。その目つきは殺意や怒りで満ちていた。
「邪魔立てしないでおくれ」
.40S&W弾も全てが防がれる。それでも尚、現は駆け寄りながらAPXを連射した。
「こいつの始末が終わったら――」
玉藻前が磐船の方へ向き直った時、そこに磐船はいなかった。
玉藻前が表情を変えず、現へ視線を戻す。やや離れた場所に現と磐船が立っていた。負傷した磐船に肩を貸すようにしながら、現は片手でAPXを玉藻前に向けている。
玉藻前は一瞬で、それが現の術だと判断した。
「ふふふ。そうかそうか。幻術を使うのか、お前も。油断したよ」
楽しそうな玉藻前の言葉に、現は返事をしなかった。効果が無いと分かっていても、APXの銃口は逸らさない。
「人間の使う術が、この
玉藻前が品定めでもするように現を眺めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます