第32話 手懸り
駐車場に停めたバンから降りて雑居ビルに入った三人は、エレベーターに乗って四階にある颯の事務所まで戻った。面談スペースのソファに先ほどと同じように座る。颯は、また緑茶を淹れなおしてくると、皆の前に湯飲みを置いた。
「さて、じゃあこれから調べようと思ってることなんですが……」
席に着いた颯が切り出した。
「ああ。颯は他の地域で、似たような事が起きてないか調べてくれ」
「分かりました。同じことを言おうと思ってたんですよ」
「頼もしいな。俺はこの街を中心に調べてみる」
源も、現と行動を共にすることになるだろうと考えていた。手分けをして颯により広い範囲を調べてもらうのは良い考えだ。非常事態が起きているときは、その問題が発生している範囲を絞っていくのが重要だ。この街だけの異変なのか、それとも県か、国全体か。それが分かるだけである程度事件の概要が掴めてくることもある。
その後、三人はそれぞれが今持っている情報や今後の段取りを話し合った。源も詳細を知らない颯に、廃病院で起きた事件の一部始終を伝えた。現と颯も、テーブルの上に地図を広げ、この頃近隣で妖怪が出没したスポットの説明をしてくれた。源にとっては普通がどの程度かは分からなかったが、その頻度が確実に増えていることは二人の説明から重々理解できた。辛うじて一般人が被害に遭う前に防げているといった感じだ。廃病院で、運悪く源たちが事件に巻き込まれてしまったのも仕方がないとすら思えた。
「……ではそれぞれ調査を始めよう。颯、よく気を付けろよ」
「ええ。現さんと源さんも」
「ああ。何かあったらすぐ連絡をくれ」
話の一区切りがついた頃合いで現が切り出し、そのままソファから立ち上がる。現に続いて、源もソファから立ち上がった。現はそのまま事務所のドアを開けて出て行った。源もその後に続けてドアから出て行くが、その前に颯の方へ軽くお辞儀をしてから退出する。颯も微笑を浮かべたまま、お辞儀を返した。
「ここから先は地道な仕事になるかもしれないぞ」
「大丈夫です。慣れてますから」
「そりゃそうだよな、刑事さん」
一階へ降りるエレベーターの中で、現が源に話しかけた。源も一介の刑事だ。聞き込み等の地道で地味な仕事は、慣れたものだ。妖怪については門外漢だが、何かについて調査する事においては、源も現たちの大きな手助けになれるかもしれないと思った。
エレベーターが一階に到着し、ドアが開いた。黙って歩き出した現の横に並ぶようにして源も歩いた。二人ともそのままバンまで歩き、運転席と助手席にそれぞれ乗り込んだ。
「じゃあ行くとするか。こんな場合の定石は……」
「はい。まずは最近妖怪が出没した場所を、改めて念入りに調べるのが良いかと。見落としが無いか」
「そうだな。まさに虱潰しと言った感じになるが」
現がスマートフォンを取り出し、画面を確認しながら言った。妖怪の活動が活発になっているのはある意味、その分だけ何かしらの証拠を残している可能性が高いということでもある。
「さっき連絡がきていたんだが、どうやら別の場所でも妖怪が現れていたらしい。俺らが工場の方を対処している間にな。まずはそっちへ向かおう。もうそっちも片付けちまっているみたいだが」
あちらもこちらも大忙しだ。これでは退治屋たちの手が足りない理由も分かる。
「そちらはどなたが対応していたんですか?」
「印付と、辰宮だ」
現が、バンを走り出させながら答えた。
辰宮。その名前に源は少々驚いた。印付が退治屋だというのは見た目や雰囲気から分かる。辰宮は、先日の晩、あのバーで美味しい食事と飲み物を提供してくれたバーテンダーの女性。どうもイメージできないが、あの美しい女性も、退治屋だったのか。
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