第28話 問い

 「源さん、申し訳ありませんでした。大丈夫ですか?」

 颯が源に問いかけた。


 「は、はい。大丈夫です」

 源は混乱しながらも答えた。まだ耳鳴りはするし、眼も完全には元に戻っていない。だが、爆発を直視はしていなかったし耳も塞ぎかけていた為、少しずつ回復してきた。少し離れたところには、四肢を撃ちぬかれ身動ぎする妖怪の姿が見えた。


 「さて、じゃあ聞いてみるか。『ぬえ』ほどの奴なら、何か知っているかもしれない」

 現が言いながら妖怪の元へ向かった。磐船と颯もその後に続く。源も視界をはっきりさせるように頭を振りながら、その後ろへ続いた。


 四人が近くへ立つと、妖怪は仰向けで息も絶え絶えと言った様子ながら、四人を睨みつけた。猿の顔の黄色く光る眼は、殺意で溢れている。四人はそれぞれの武器をいつでも使用できるよう構えている。


 「おいエテ公。聞こえるか? 聞きたいことがある」

 フラッシュバンで麻痺した感覚が戻るのを待つように、現がスカーのマガジンをゆっくりと新しい物と入れ替え、銃口を突き付けながら言った。


 「……死ね、人間め」

 その妖怪――鵺が喋った。顔には出さなかったが、源はそのことに驚いた。妖怪の中には、人語を解する者もいるのか。最も、その声はザラザラとしていて、まるで臓腑の奥から絞り出すような、固い物を引っ掻くような、決して聞き心地が良いものでは無かった。


 途端、現がスカーを発砲した。弾丸は仰向けに横たわる鵺の、脇腹辺りを抉るように撃ち抜いた。血肉が工場の床に飛ぶ。


 甲高い悲鳴を上げる鵺を意に介さず、現が冷徹な声で言った。

 「このマガジンに入っているのは清めていない銃弾だ、楽には死ねんぞ。お前は質問にだけ答えろ。不要な言葉は一切喋るな」


 源は妖怪と言えど、少しだけ痛ましく、気の毒だと感じた。勿論、表情や態度には表さない。しかし、無抵抗な者が痛めつけられるのを見るのは、決して心地良いとは感じなかった。人語を理解する者ならなおさらだ。源もリボルバーを妖怪に向けているが、可能なら目を背けてしまいたいとさえ思った。


 「それで質問だが、近頃妖怪たちの動向がおかしい。例えばここも、やたらと妖怪の数が多かった。そういった事例が増えてきているんだ。何故だ?」

 現が仕切り直すように、鵺に問いかけた。


 「……知っていても教える訳も無い」

 鵺相変わらずの不快な声色で答えた。そればかりか、猿の顔を歪ませ、笑みを見せた。口からはヒョウヒョウと不気味な笑い声が漏れた。思わずゾッとするような笑みだ。


 「そうかい」

 現がスカーを突き付けたまま、妖怪にさらに一歩近づいた。


 「なら、仕方がない」

 鵺のすぐ傍らまで近づいた現が、その双眸を覗き込むようにしながら呟いた。


 立ち所に、鵺が苦しみ始めた。ただの苦しみ方では無い。何もしていないのに、先ほど体を撃ち抜かれたときとは比較にならないほどの苦悶の様子だ。身を捩り、酷く苦しみだす。四肢をバタつかせ、虚空を蹴るように暴れた。


 動揺する源をはじめ、四人はその様子をしばらく見つめていたが、不意に現が指を鳴らした。まるで催眠術師が催眠を解くときのようだ。パチンと乾いた音が、廃工場の建物内に響いた。


 その瞬間、鵺がのたうつのを止めた。焦点が合わない眼で辺りを確認するように見渡す。鵺は、信じられないと言った表情で現を見つめた。


 「今、何をした?」

 鵺が言った。ざらついた不気味な声の中に、恐怖や驚愕の声色が混じっている。青息吐息といった様相だ。


 現が冷淡な声で、その問いに返した。

 「何をしたかって? ちょいとだけ能力を使っただけだ。まるででも見たような顔だな」


 「……今のが……夢?」

 鵺が呟いた。もはや完全に恐怖に取り込まれた表情をしている。


 現が、そんな様子の鵺を見下ろしながら喋った。その言葉からは、不気味さすら漂っていた。

 「そうだ。初めて味わう感覚だろう? ただの霊力を使った技や術とも違う。妖怪の力を使ったモンだからだ。

 


 

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