第25話 殲滅

 その後、しばらく戦闘が続いたが、やがて静かになった。現が撃ち倒した最後の一体の土蜘蛛も、ボロボロと灰のように崩れ去り、吹き抜けた風に飛ばされていった。


 駆け寄ってくる土蜘蛛も、飛び寄ってくる野衾ももういない。


 廃タイヤの山やコンテナの陰から応戦していた四人は、徐々にその背後から出てくると、前進し始めた。


 先頭の現と磐船は銃口を左右に向けつつ、あらゆる方位を警戒している。颯も右手の指の間にナイフを挟んだまま、殿しんがりを務めている。


 源もリボルバーを保持し、その間を歩いていた。グリップを握る手に力が入ってしまってるのが分かった。せめて誤射はしないよう、銃口は地面に向けている。


 四人は先ほど妖怪たちが出てきていた建物を目指している。まだ、その建物の中には残党がいるかもしれない。


 ゆっくりとした慎重な行動だったが、四人は問題なく建物の入り口まで辿り着くことができた。四人は覗き込むように、建物の中を見渡した。


 打ち捨てられた建物の中には、見る限り動いている者はいなかった。トタン製の屋根は、いくつか大きな穴が開いており、そこから日光が差し込んでいた。具体的に何を行う機械なのかは分からないが、大きな工業機械とそこから続くコンベア等がそのまま放置されている。錆びついた鉄骨の柱脚が等間隔で並び、天井までそびえている。どこもかしこも埃だらけで、屋根の穴から差し込む日光が舞い上がる埃を照らしていた。


 変わらず現が先頭になり、建物の中へ入っていった。四人は気を張り巡らし、四方を警戒する。地面に落ちている金属やプラスチックの欠片を踏み、パキパキと乾いた音を立てる。高い天井からぶら下がっている水銀灯は当然ながら点いていなかった。昼間でも少々薄暗い。


 室内では、当然死角が多くなる。こんな工場のように、構造物が多い場所ならなおさらだ。おまけに相手は人間ではなく妖怪。様々な陰や隙間から飛び出してきても不思議ではない。


 そこかしこに妖怪が潜んでいそうで、源も疑心暗鬼になりかけていたその時だった。


 「上です!」

 最後尾の颯が四人に言った。皆、すぐさま視線を天井に向けた。銃口も合わせてそちらへ向ける。


 屋根に空いた穴から、何か人型のようなものが飛び降りて来ていた。逆光になっている為、シルエットしか分からない。


 最初に発砲したのは現だった。颯が言うや否や、ダットサイトで照準を定めセミオートで三発、素早く連射した。建物内に銃声が木霊する。


 相手も発砲してくるのは想定内のようだった。近くに合った鉄骨を蹴り、身軽にも別の柱へ飛び移った。5.56ミリ弾は鉄骨を削るだけに終わった。耳障りな音と共に火花が散る。


 飛び移る一瞬のうちに見えたその輪郭は、大きな猿のように見えた。


 颯も避けたその先を狙う。手にした三本のナイフを投擲した。猛烈なスピードでそちらへ飛んでいくが、その妖怪も柱にしがみつき、盾にするように身を隠す。ナイフは柱に突き刺さるが、相手には届かない。


 磐船が陰に隠れた妖怪をいぶり出す様に銃を乱射した。建物内で聞く軽機関銃の発砲音は、耳を聾しそうになるほどの騒音だ。


 放たれたいくつもの銃弾は、妖怪が隠れている辺りに命中するが、やはり本命の妖怪自身には当たらない。柱に隠れたまま、正に猿が木を降りるかのように、頭を下にしてスルスルと柱を降りていく。柱に隠れている為分かりにくいが、普通の猿などよりも非常に大柄だ。


 銃弾が妖怪の後を追うように柱を穿っていく。


 妖怪が地面に降り切る前に、柱を蹴って身を翻し、建物の最奥あたりにある機械の後ろに隠れるように飛んだ。磐船も発砲を止める。


 辺りに廃墟ならではの静けさが戻った。しんと張りつめた空気の中には、妖怪が移動する音も何も聞こえなかった。


 四人の間に緊張が走る。皆装備を改めて構え直すと、妖怪が逃げ込んだ辺りに向けて進みだした。

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