第22話 合流
源たちを乗せたバンは、目的地までの道のりを順調に走っていた。皆、無言だ。
助手席に座っている源が、先ほど現から渡されたスピードローダーを取り出した。黒いスピードローダーに、鈍く輝く実包が咥え込まれている。弾頭はセミジャケッテッドソフトポイントという種類の物だ。鉛で出来たコアを銅合金のジャケットで覆った物だが、先端は鉛が剝き出しのままだ。それにより、標的へ銃弾が命中した際、マッシュルーミングと言う銃弾が変形する現象が起きやすくなる。銃弾は真っすぐ貫通するよりも、変形して標的を穿つ方がより大きなダメージを与える。日本警察が通常使用している物は、コアが完全に銅合金で覆われたフルメタルジャケット弾だ。ソフトポイント弾の方が、より凶悪な代物と言える。ただし、現が先ほど言っていた清めてあるという意味は、見た感じでは分からなかった。
源はリボルバーを取り出すと、
「少しずつで良いが、バケモノ共との戦い方を学ばないといけないな。あの廃病院ではバケモノを一体仕留めていたが、簡単では無かったんじゃないか?」
運転席の現が、前を見たまま源に話しかけた。確かに、あの廃病院で刑部が倒した怪物は、首や胸部と言った急所を撃たれたにも関わらず、刑部に重傷を負わせるだけの力を残していた。
「はい。と言っても、何をすれば良いのか……」
「まずは、霊力を身に着けていくべきだろう。この生業にとっては、必須だ」
「霊力……ですか? そんなことが私にもできるでしょうか?」
源はつい数日までは、まったくの一般人であったと言っていい。これまで心霊的な体験などしたことが無い。むしろ、オカルトには懐疑的な方であった。
「大丈夫ですよ。霊力とか法力とか、オーラだとか、色々な名前で呼ばれていますが、かいつまんで言えば人が持っている生命力みたいなものをちょっと別の力に変えるだけです。やろうと思えば、誰でも出来ます」
後部座席に座っている颯が言った。
「勿論、向き不向きはあるし、レベルの違いは出てくる。個々人、それぞれの素質もあるしな。そこは他のスポーツなんかと一緒だ」
現が颯の言葉に付け加えるように言った。
何であれ、必要ならばやるしかない。源は現と颯の言葉を噛み締めるように、一人思った。
その内に目的地へ到着した。颯の探偵事務所から、さらに郊外へと外れた場所にある工場だった。そこそこの面積を誇っている大きな工場だが、現在は使われていない場所のようだった。工場の敷地内への入り口となるゲートには、おそらく自動車部品工場であったであろう会社名がペイントされているようだが、経年劣化によりだいぶ薄れている。
その横に黒のSUVが停められており、傍に磐船が立っていた。現はその近くに三人が乗ったバンを停めた。
「来たか」
「ああ、準備は何処まで進んでる?」
車を降りた現に磐船が話しかけ、現が工場の方を眺めながら返した。源と颯もバンから降りた。
「『結界』は一帯に張っておいた。人が好き好んで来る場所じゃあないとは思うが、一応な。これで怪物共は出られないし、俺らが中で何をしても人には気が付かれない」
「準備が早くて助かる」
現と磐船の会話に、普通に『結界』という現実離れした単語が出てくることにも、源は少しずつ慣れてきていた。その結界を張ると言うのも、先ほど現が言っていた霊力によるものなのだろう。
「楽に終わる仕事なら良いけどねぇ」
磐船が気の張らないような口調で言いながら、SUVのトランクを開け、中から大きな銃を取り出した。軽機関銃だった。
IMIネゲヴNG5。イスラエル・ミリタリー・ インダストリーズ社にて設計された軽機関銃だ。外見は、洋画でアクションスターが乱射しているような、オーソドックスなスタイルの軽機関銃だ。イスラエル軍が元々運用していた他国の軽機関銃に比べて軽量で、歩兵が携行・使用し易くなっている。さらに、磐船が持って来ていた物はネゲヴの中でも
軽量な軽機関銃とは言っても、そこそこの重量はありそうなその銃を、磐船は軽々取り扱っていた。スリングベルトを肩から掛け、まるで普通のボストンバッグか何かを持つように身に着けた。
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