第21話 出現

 「初めまして。源明香里と申します。浦松中央警察署刑事一課の所属ですが、今は訳あって現さんたちと一緒に捜査をしています」

 源は軽く会釈をしながら挨拶を返した。

 

 「刑事さんだったんですか。刑事一課ということは御伽さんのところですよね?」

 「はい」

 どうやら、颯も色々と知っているようだ。そうは見えないが、本人が言う通り、彼も現たちと同業者――、つまり妖怪退治を生業としている人物なのだろう。


 「この前の夜、偶然事件に巻き込まれちまってな。ほら、あの廃病院で。それから、捜査に協力してもらうことになったんだ」

 「ああ、あの最近ちょっと噂が立っていた」

 「そうだ」

 「それは可哀そうに」

 現と颯が慣れた調子で喋った。


 「立ち話も何なので、こちらへどうぞ」

 颯に案内されるままに、二人はパーテーションの裏の面談スペースへ入り、ソファに腰かけた。颯はソファに座る前に、面談スペース横にあった小さな給湯室へ入っていった。間もなく三人分の緑茶が入った湯飲みを持って出てくると、皆の前にそれらを置きながら、現たちに向き合う形で腰を下ろした。


 「それで今回のご依頼と言うのは?」

 「ああ、廃病院での件も絡んでいるんだが、最近どうもバケモノ共の様子がおかしい。出没の頻度も高すぎるし、出てくる場所も変だ。俺たちの手が回らなくなってきてるほどに」

 「やっぱり。僕も最近気になっていたんですよ」

 「それなら話が早い。何が起きているのか、調べてもらえるか?」

 「はい。少々お時間を頂ければ」

 「助かる。こちらはこちらで、色々調べてみる」

 現と颯が話し合っている最中さなか、両者のスマートフォンが鳴った。どうやら、同じタイミングでメールが届いたようだ。颯は即座に、現は緑茶に一口つけてから、スマートフォンを取り出した。


 二人ともスマートフォンの画面を確認すると、手早くしまった。


 現と颯が源の方を見ながら話しかけた。

 「中途半端なタイミングで申し訳ないが、一旦出なければならなくなった。どうやら周辺に、妖気が濃くなっているスポットがあるらしい」

 「簡単に言えば、また妖怪が出そうだということです。この近くで」


 源は体に緊張が走るのが分かった。いずれこのような場面に出くわすことは覚悟の上であったが、思っていたよりも早かった。廃病院での一件からまだ数日だと言うのに、再び怪物たちと相まみえることになるとは。


 「大丈夫です。源さんは僕たちが守ります」

 颯が捉え方によっては気障なセリフを言ったが、颯が言うと不思議と違和感が無い。


 「今回は磐船も来てくれるらしい。現地で合流だ」

 「なら、より安心ですね」

 現が残った緑茶を飲み干すとソファから立ち上がった。源と颯も準じて立ち上がる。


 「先に車で待っていてください。準備してから行きますので」

 颯が言ったので、現と源は先に事務所から出ると、エレベーターで一階まで降り、駐車場の車へ戻った。


 席へ座る前に、現がバンのバックドアを開けて源へ問いかけた。

 「今日は銃は持ってきてるか?」


 源は頷くと、ショルダーホルスターから拳銃を抜き出した。スミス&ウェッソン モデル360 SAKURA。刑部が使用しているのと同じタイプ。日本警察の標準装備だ。


 「他の銃はいらないか?」

 源はバンの荷室に積まれている銃器の数々を見たが、首を横に振った。多弾数のオートマティックと比べれば心許ない拳銃かもしれないが、使い慣れていない銃器を使用するよりは良い選択だと思えた。もっとも源自身も、訓練以外で発砲した経験は無かったが。


 「そうか。ならこいつを」

 現はそう言うと、ラックに置いてあった小さな物品を四つほど源に手渡した。


 源が手渡されたものを見ると、スピードローダーだった。リボルバーの弾を素早く再装填リロードする為の道具だ。蓮根のような形状のパーツに五発分の.38スペシャル弾の実包が装着されており、裏側にはつまみが取り付けられている。そのつまみを捻ると装着された実包がまとめて解放される為、一発一発弾を込めるより素早く全弾のリロードが行えるという仕組みだ。


 「バケモノ共とやり合うときはそれが必要だ。清めてある」

 「ありがとうございます」

  装着された実包を見ても、通常の物との違いは分からなかったが、源は礼を言いながらスピードローダーをジャケットのポケットへ仕舞った。

 

 その後、二人はそれぞれ運転席と助手席に乗り込み、颯を待った。


 程なく、颯もビルから出てきて、バンの後部座席に乗り込んだ。先ほどは着ていなかったモッズコートを羽織っているが、銃器などの武器の類は持っていないように見える。


 現はエンジンを始動させると、車を発進させた。

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