妖怪殺したち

第18話 寄道

 明くる日、源は病院の駐車場にいた。刑部を搬送した、浦松市内にある総合病院だ。その病院の駐車場に停められた、ワンボックスバンの助手席に座っている。


 源は左腕に着けた腕時計を見た。針は午後一時十分を指している。この総合病院の面会時間は午後一時からなので、もう頃合いだ。


 「では、行ってきます」

 「ああ、ゆっくりしてきてくれ」

 源が運転席に座る現に話しかけた。現は軽く手を掲げて合図しながら返事を返す。後部座席には誰も座っておらず、車内にいるのは源と現の二人だけだった。


 このワンボックスバンは現の所有車輌だ。源は、あの廃病院で遠目にこの車を見た時のことを思い出した。


 御伽にも言われた通り、この日から源は現たちと共に捜査を始めることにした。今までと異なることは、人が起こしている事件を捜査する訳ではないという事だ。俄かには信じがたい話だが、人々を襲うという妖怪たちが、近頃不穏な動きを見せているという。


 この日も源が浦松駅まで行き、そこで現と合流する形で彼のバンに乗り込んだ。現はそのままある目的の場所へ行こうとしたようだが、刑部への見舞いの為、源が頼んでこの総合病院まで連れてきてもらったのだ。


 源はドアを開け、地面に降りた。そのままバンの後方へ回るとバックドアを開けた。手前に置いた、黄色の花をメインにしたフラワーアレンジメントが目に入る。


 このフラワーアレンジメントは刑部への見舞いとして、源が現と合流する前に浦松駅のそばの花屋で購入したものだ。見舞いには何が良いかと悩んだが、結局無難な花にした。


 そのフラワーアレンジメントを手に取る前に、何気なくバンの荷室を見た。ワンボックスバンだけあってかなりスペースがあり、さらにはより効率よく積載できるようラックやサイドバーも取り付けられていた。


 ただし、そこに置かれているものは銃器弾薬やナイフ類、爆発物の数々だった。通常であれば工具やアウトドアグッズが並べられているであろう場所に、ハンドガン、ショットガン、アサルトライフル、それらのマガジン、弾薬箱、防弾ベスト、手榴弾――。

とにかくありとあらゆる剣呑な装備が綺麗に並べられている。


 後部の窓は濃い目のスモークガラスが付けられているため外からは見え辛いが、職務質問でもされたら一発でアウトだろう。勿論、そうならない為に源のような警察関係者が必要なのだろうが。


 源は、形を崩さないように優しくフラワーアレンジメントを手に取った。花のすぐ横のラックには指向性対人地雷まで置かれている。外見はただの湾曲した鉄の箱だが、中にはプラスチック爆弾と鉄球が詰め込まれている。爆発すると前方に何百もの鉄球がばら撒かれてありとあらゆるものを薙ぎ倒す、危険極まりない代物だ。


 可愛らしいフラワーアレンジメントと無骨な兵器の取り合わせに、源は思わず苦笑いを浮かべた。


 フラワーアレンジメントを小脇に抱えたまま、源は病院の中へ入っていった。病院特有の匂いが鼻腔を刺激する。清潔感溢れる院内はそこそこの人がいる。お年寄りの姿が目立つが、老若男女問わず様々だ。源のように見舞いに来ている者も多いのだろう。医師や看護師、理学療法士、病院に勤務している各職員たちも皆、慌ただしく働いている様子だ。


 源は入り口から入ってすぐ正面にある総合案内へ向かった。

 「すみません。先日入院した刑部オサカベ景雄カゲオの病室なんですが――」


 源はそのままエレベーターに乗ると、刑部の病室がある五階へ向かった。エレベーターの中は源一人だ。


 源は、まず刑部とどのような話から始めようか、と何度も頭の中で考えたが、結局良いアイデアなど浮かばないまま、エレベーターが目的の五階へ到着した。


 エレベーターを降りた源はそのまま廊下を歩き、刑部の病室の前に立った。ドア横のネームプレートを確認する。


 源は軽く深呼吸をするとドアをノックし、扉を開けた。

 

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