第10話 謎の男

 その男は源たちの横を通り過ぎると、ショットガンを怪物たちに向けたまま躊躇なく廊下を進んでいく。


 眩い光を当てられて一瞬ひるんだように見えた怪物たちも、その男に向かって走り出した。


 その男もすかさずショットガンを発砲した。


 拳銃とは比較にならない轟音が廊下を震わせる。


 手前にいた怪物の左腕に被弾。左腕を付け根から吹き飛ばした。怪物が甲高い悲鳴をあげる。


 男は一瞬の間にフォアエンドを前後させるとプラスチック製の薬莢を排出し、次弾を薬室へ送り込んだ。廊下に落ちた薬莢がカラカラと軽い音をたてる。


 歩きながら再び引き金を引く。今度は怪物の首から上を完全に消し飛ばした。


 とてつもない威力だ。


 モスバーグ モデル590。それがこの男が使用している銃の名前だ。アメリカのモスバーグ社が開発したショットガンで、装弾数は八発。様々な軍・警察関係の組織で幅広く使用されている銃だ。ベースであるモスバーグ モデル500という銃を元に、より堅牢さ、使いやすさを求め改良が施された代物だ。男はその銃に、弾薬ごとに小さな鉛弾の粒が9発ずつ込められた、OOダブルオーバック弾という弾を込めて使用していた。更に銃床の横には弾薬シェルホルダーが装着され、リロードも容易に行えるようにされていた。


 その銃をその男は完璧に使いこなしていた。銃の方は見向きもせず、怪物に向けて突き進みながら発砲した分の弾薬をホルダーから装填する。


 怪物も気圧けおされてか、身を低くしながら後ずさりをしていた。


 弾薬を込め終えた男が改めて怪物に狙いをつけた。


 最後の一体の怪物も同じ目に合うかと思われた瞬間。


 男の横に合った病室のドアが叩き壊されるかのように開けられた。先ほど、まだ刑部も調べていなかったであろう位置にある病室だ。


 男も思わず後ろへ下がった。


 病室から、新たに何かが飛び出してきた。またもや怪物だ。否、これまでが可愛く思えるほど奇怪な姿をしていた。


 今までの一部始終を見ていた源も目を疑った。


 背丈は高く、二メートル近く。ただし、その脚は一本しかなかった。腕は二本あるが、楕円形のような丸みを帯びた大きな体から生えた太い脚は一本のみ。さらに体の上部には、皿のようなとてつもなく大きな目が一つだけ付いており、その下には大きく裂けた口があった。牙が生えそろい、人間の上半身であれば一口ですっぱりと齧り取られてしまいそうだ。全身には、猪のような剛毛がびっしりと生えていた。


 そのグロテスクな容姿の怪物が、器用にも一本の脚だけで跳躍して男に襲い掛かった。毛むくじゃらなその腕を男に向けて振り下ろす。


 男は辛うじて身を躱すと、その怪物に向けて突進した。


 怪物も次の行動を起こそうとするが、男の方が幾分か速い。


 突進する勢いのまま、ショットガンの銃床を怪物に叩きつけた。何かが砕けるような鈍い音がする。


 何やら怪物が叫んだようだが、ショットガンの銃声がそれをかき消した。


 男が即座にショットガンを構え、怪物の一本しかない脚に向けて発砲したからだ。


 至近距離のOOダブルオーバック弾の威力は凄まじい。怪物の太い脚を粉微塵に破壊した。


 脚を破壊された怪物は、たまらずその場に仰向けに倒れた。


 男はその体を跨ぐと、怪物の大きな目へショットガンの銃口を突き付けた。


 怪物が身じろぎをする暇もなく撃つ。フォアエンドを素早く動かし、二度、三度と続けざまに発砲。


 耳を劈くような轟音がするたびに、辺り一面に怪物の残骸が飛び散った。


 息絶えた怪物の体を乗り越えると、男は最後に残った先ほどの怪物の方に銃口を向けた。


 躊躇なくショットガンを放つ。


 謎の男は、たちまちの内に四体もの怪物を倒していた。


 


 

 


 



 


 

 

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