第4話 廃病院より

 その後、刑部と源は現場検証を行い、現場を後にした。その時にはすっかり夜も更けていた。どうやら本格的な現場検証は明日からになりそうだ。あの現場は場所が場所だけに非常に暗い。仮設の照明器具だけでは心もとない。手元もよく見えない状況では逆に証拠を荒らしてしまう恐れもあった。明日、日が昇ってから改めて現場検証へ赴くことになるだろう。


 他の警察官や火車を含めた鑑識官たちも撤収を始めているようだ。再び現場検証が始まるまでは、数名の警察官で現場を封鎖し、見張ることになっている。


 パトカーに乗り込み廃病院を去る際、源は改めて建物を見た。深い闇の中の建物が、来る時よりもずっと不気味に見えた。


 二人が所属する浦松中央警察署に向かう間の車内は、無言の時間が長かった。恐らく二人とも、今回の事件について考え事をしているのだろう。


 浦松市は、日本のどこにでもあるようなごく普通の地方都市だ。今まで今回のような猟奇的な殺人が起こったことはあるのだろうか?少なくとも、刑事になってまだ数年の源の記憶には無かった。血だまりに沈んだ、あの遺体の映像がフラッシュバックする。


 その内、浦松市中央警察署へ到着した。そのまま二人が籍を置く刑事一課室へ移動する。


 「源どうする? 一度家に帰るか? 明日は忙しくなるぞ」

 刑部がコートを脱ぎながら話しかけた。


 「いえ。今日は仮眠室で休ませてもらおうと思います。家に帰る気にもちょっとなりませんので」


 「そうか。無理はするなよ。無理ってのは絶対に続かないもんだからな」

 刑部が答えながら自身のデスクに座り、パソコンを立ち上げた。

 

 「刑部さんこそ。コーヒー淹れますね」

 源は刑部の言葉に少々微笑みながら、部屋の窓際に置かれたコーヒーマシンに向かった。


 刑部は刑事として非常にタフな人間だ。源が刑事になってから必要なことは、基本刑部から教わったような気がする。


 源が出来上がったコーヒーを刑部に渡す。刑部は何時でもブラックだ。


 二人がコーヒーを飲みながら一息入れていると、鑑識官の火車が部屋に入ってきた。ただし少々様子がおかしい。慌てた様子で、手には透明な袋に入れられたスマートフォンを持っている。間違いなく、先ほどの男性の遺体の手に握られていた物だ。


 「大変です。今僕も到着して、色々調べようと思ってたとこだったんですけど」

 火車の額に、冷や汗が浮かんでいる。


 「着信がありました。一緒に亡くなってた、恋人のスマートフォンからです」


 

 

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