【突然の依頼その8】

やはりというか、やっぱ魔力持ちだったな。こいつは。


通信機からの会話からして、こっちの男の方が強いのは薄々予想はしていた。

あちらの男も実戦経験はあるようだが、それでも見劣りするものがあった。不意打ちのような感じで仕留めたが、アイツが主力側とは思えず、サポート側だと予想を立てていた。


その考えの中にも当然、魔法使いの可能性も含まれて考慮してなかった訳でもない。カインたちはともかく、少なくともアーバンさんを連れて来るべきだった。冒険者ではないが、見た限りAランク相当のあの人と組んで戦えば、さらに勝率は上がっていたはずだ。


心の片隅でやはり断ってアリサさんとイチャイチャしていたかったと、ほんの少しだけ後悔しているが、カインやリアナちゃんのことを思い浮かべて、すぐ余計な振り切って向き直る。

名からして剣使いと思われる相手だが、俺は敢えて素手で迎え撃つことにした。


「暗殺者退治、始めようか」

「面白い」


ついつい嘆息をする俺と違って、頰を緩ませて嬉しげな笑みを浮かべている男……剣殺。

避けられる可能性はないこともなかったが、最小限の動きで躱されたことに喜びを覚えているようだ。……こっちはちっとも嬉しくないがな。


アレで仕留めれば良かった。能力を使って警戒が緩んだ隙を狙った煌気術───“無殺”の戦法だったが、相手は思った以上にやるようだ。


「楽しみはまだ先だと思っていたが、実に面白いぞ!! 邪魔者!!」


嬉しそうに言うとさらに懐からもう1本、剣殺はサバイバルナイフを取り出した。……魔力のない俺にも見える。そちらのナイフにも雷が付与されて黄色の雷を帯びていた。


そして左右の手でナイフを弄びながら、剣殺は不規則に振るって迫ってきた。


「フッ!」

「シーーラァ!」


雷光を纏っている刃を前に、俺は相手の刃に触れないように手や腕の部分を叩いて逸らし直撃を避ける。殺傷能力の判断がつかない以上、不用意に触れるわけにはいかない。捌き切れないナイフの時はしゃがんだり、横に素早く動くことで躱してみせる。


「おおっ!? 追ってこれるのか!? こちらは強化を使っているんだぞ!?」


そうして次々と迫ってくる雷光の刃を捌き続けていると、剣殺から動揺の気配が走る。ナイフを振り続けているが、驚きの顔で楽しそうに声を上げてきた。


「───って嬉しそうに言うなっ! こっちは必死なんだよっ!」


“アクセル”という身体強化のうちの1つで加速の魔法が存在する。筋力などは強化されていないが、代わりとして敏捷性や反射能力、脚力など速さが強化される魔法だ。


そして驚く剣殺が言うように、奴は先程からスピード強化でアクセルを使用して、ナイフを高速で振るっていた。俺はどうにか魔法無しで捌いているが、まぁ普通に考えたら信じられない光景であった。


「クククっ!」


そこから剣殺はスピードをさらに上げて攻め立てて来る。さっきまでがお遊びだったかのように、動きに鋭さが増してナイフに付与された雷光も変化させた。


「纏えよ雷剣!」


剣殺が唱えると刃に魔力が流れ、雷の刃先がさらに伸びる。通常の剣と同じくらいの長さまで伸び切り、完全な二刀流となって襲いかかって来た。


「っ! そォォォォらァっ!」


危険度が上がったのは魔力持ちでない俺でもハッキリ理解できた。さらに刃がこちらに向かわないように、腕で弾き逸らしていく。避ける際も先ほど以上に大袈裟に。


「フッ! ハッ! ハ!」

「……!」


刃渡りが魔法で自在に変化させれる以上、もう普通な躱し方では限界がある。

相手がそれほどまで変幻自在に雷剣を扱えれるか分からないが、どっちにしても長引かせるのはマズイと判断した。


攻防の状態から数歩ほど後ろに退がって息を吐くと、一緒に全身の煌気を活性化させた。


煌気術────“神威”


基本となる煌気の身体強化技だ。

通常の身体強化魔法と違い目立つような変化ない強化だが、実はかなり変わっている。これなら目の前の男とも張り合えるはずだ。


「───む!」


その変化に気付いたか、剣殺は雷剣を前にして様子を窺ってくる。奴では魔力は感じ取れても煌気は感じ取れない。どれほど変化したか予想ができない剣殺に、俺は逆襲の嵐とばかりに仕掛けた。


煌気術────“疾脚”


煌気による走法によって数メートルの距離を、立ったの2歩の進みと1秒の間で詰めてみせた。


「っ、速い!!」


不意を突いて剣殺の懐に入る。片方の腕を組むよう自身の肘にかけて、片足を蹴ってバランスを崩し、強引な投げ飛ばして地面へと叩きつける。剣殺も抵抗しようとしたが、それよりも素早く奴を軸に駒のように回って投げ飛ばした。


「っく、放たれよ雷剣っ!」


しかし、投げ飛ばれた剣殺は転がるように威力を押し殺し、すぐに立ち上がると剣となったナイフに魔力を込めて、左右の剣から雷の刃を無数に放ち出した。


「動きがいいな」


すぐに切り替えてくるこの無駄のない動き、奴の対応の速さに俺は冷静に分析する。

先ほどの投げ技でもそうだった。あれは本来は相手の腕や足など巻き込み、関節を曲げて砕きに行って投げる技であった。


さっきも最低でも腕の1本は取っておこうとしたが、あの男は直前で身体に反発が起きないように、抵抗しようとしたのをやめて、自分から流れるように俺に投げられたんだ。

素早く投げたとはいえ、あまりに軽く出来て不思議でだったが、あとあと考えるとそう感じずにはいられなかった。


「先読みもいいようだな」


しかし、俺も遅れるつもりはない。相手が魔法使いだったことなんて、この仕事に入ってから何度もあったからなっ!


「上等だ」


まるで花びらのような迫ってくる刃の舞だが、迷わず両手に煌気を込めて迎撃体勢に入る。

煌気は強化しての基本は、筋力などのアップや脚力アップを始めとして、反射神経、視覚、聴覚などの拡張もあり、そのうちに身体の強度アップも含まれていた。


「ふっ!」


両手の強度を上げる。今まではただの活性で力を上げる程度であったが、これで────


「はぁああああああーー!!」

「なんとっ!?」


普通なら避けなければならない。奴が思っていないであろう方法に打って出る。


「はぁああああーーー!!」


連続で向かってくる鋭利な雷の刃を素手で叩いて破壊していく。足も強化して足蹴りも加えて、舞って迫ってくるすべての刃を破壊して行き、剣殺が攻撃を止めるまで一撃も受けない。


「舐めるなよ!」


今の俺はただの刃は当然であるが、魔力の帯びた刃でも簡単には傷付けられたりはしない。数年前から出ている魔銃の弾丸でも耐え切れる。……たぶんだが。


「っ! ぬぉおおおおおお!」


思わぬ反撃に剣殺は驚きを一切隠さず叫んできた。手こそ止めてはないが、無意識に威力は落ちていた。


「どうなっている!? 魔力を感じないが、ぬしも魔法使いなのか!?」

「感じ取れているんだろう? 俺は魔力無しゼロだ」

「く!」


放ち続ける雷の刃ではラチがあかないと剣殺は判断したんだろう。刃を撃つのをやめて、強化された脚力によるスピードで詰めて来た。


その際、1本の雷剣をこちらに投げてくる。

鋭い突きのような雷剣だが、俺はとくに慌てず手で払ってみせると……


「ならば───!!」


駆けながら剣殺は懐からさらにナイフを数本、空いている手で取り出して、すべて雷剣へと変えてみせる。指と指の間に挟んで構えてこちらに向かって投げてきたっ!


「ハッ!」


円のように回転して迫ってくる雷剣だが、強化された脚で横に飛んで躱した。他にも俺の動きを予想して狙ってきた雷剣はあったが、それもすべて躱した時には剣殺との距離は、ほぼなくなっていた。

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