【突然の依頼その5】

ほぼ暗殺者だと確定した男を“トラッキング”で追跡してすぐ、男は館内のひと気のないフロアで外に通じる窓を開けた。何か荷物を取り出している最中だった。


出てきたのはプレゼントのような箱が2つ。それとカバンである。

警備の荷物検査に引っ掛からない為だろう。わざわざあんな場所から出した時点で、どう見ても怪しい物だ。


カバンそうだが、箱からも悪意な光が漏れ出ていた。出来れば触りたくない。

念の為その物の情報を探り、スキル“アナライズ”を使用してカバンを盗み見てみる。


「っ……」


見てすぐに驚きの声を出しそうになったが、咄嗟に口を詰む。冗談かと思ったが、アレは心臓に悪いぞ、オイ……!


2つの箱の中にはダイナマイト爆弾が入っていた。

タイプは遠隔式で外部の魔法起動によって爆破されるのであろう。


カバンの中にも爆弾があるが、これは少々特殊なようだ。

遠隔式なのは変わりないが、花束で覆われている。


気配を殺して接近する“無殺”で、男の側まで近付くとポンと肩を叩いて呼びかけた。


「すみません、ちょっといいですか? 警備の者です」

「っ!?」


アレで仕留めるのだと理解したところで、男に近付いて声をかけることにした。

もうアレだけで現行犯だな、うん。まったく気付かなかった男は慌てて振り返り、俺の顔を見て驚きのあまり目を剥いていた。


すぐに捕らえても良かったが、言い逃れられるリスクもある。投降を促がす為にも声をかけたが……まぁ、後者は無意味な予感しかしない。


「け、警備の人ですか?」

「はい、突然呼び止めて申し訳ありませんが……」


動揺の色がハッキリと視えるので、気配を消して近付いて正解だった。咄嗟にカバンを俺の視界から隠すように後ろに回したが、当然見過ごさないわけで……。

隠されているが、既に中身は把握できている。それを理由に問い詰めることにした。


「そのカバンの中にある物について、少々お伺いしたいのですが?」

「こ、これは……!」


爆発物とは告げなくとも、こちらの言葉で既にバレていると思ったか。表面上は焦っているが、能力で視える男から出ている悪意のオーラは鋭くなっていた。


隠しているが、臨戦状態に入ったようだ。

その証拠にバレてないと思っているのか、背後に隠し持っているカバンではない片方の手で、腰に忍ばせいる鋭利なタクティカルナイフを掴み取っていた。分析できる“アナライズ”でナイフの情報は把握できていた。


マジックアイテムではないが、ナイフには魔法式は書かれている。魔法関係は専門外なのでよくは分からないが、恐らく接触によって発動するタイプであろう。

斬られた瞬間、毒でも撒いてくるかもしれないので、受けないように準備しておく。


「ち、違うんですっ! これはそのです…………ねッ!!」


何気なく近付いて来て低姿勢のまま、俺の間合いまで迫ったところで奇襲の一振り。逆持ちで腰から引き抜かれたナイフは弧を描くように、俺の腹を切り裂こうとした。


「……!」

「なっ!?」


だが、とうに把握していた俺は慌てずに一閃を上体を下げて躱し、ナイフを持つ腕を掴んで捻るように肘を押さえる。そこから膝を蹴り相手の体を前へと倒してみせた。

倒れた奴の背中に片膝を乗せて起き上がれないようにする。取っている腕にさらに捻って関節を曲げる。……このまま捻折ってしまうか?


「ッうぉ!? ぐ!?」

「大人しくしてもらおうか?」


こうも簡単に対応されるとは思ってなかったのか、反応し切れず慌てる男だが、一目散に組み敷かれた状態から脱しようとする。取られている腕が折れない程度に暴れ出すが、これは陽動であるのは気付いていた。


「っ!」


死角となっている後ろから足を蹴って、仕込みナイフを踵から出した。男は暴れるフリをして俺の背中にナイフを突き刺そうと、足を曲げて踵蹴りをしようとした。


「だから、大人しくしろって」

「グ、グッ!?」


もちろん食らうつもりはない。男が足を上げたタイミングを見計らって、押さえている手で後ろを見ずに、足首を掴んで抑え込んでみせる。もともと背中に膝を乗せているので、手を空けても問題なかった。


男は悔しげに歯切りをしているが、気にせず掴んでいる手に力を込めた───────密かに鍛えている筋力と煌気で強化された人間離れした握力で。


容赦なく片手で足首の腱を捻切りように、一気に力を強めて捻り切った。


────ブチブチブチチチチッ!!


「ガァ、アアアアアアアアアアッ!?」

「うるさい」

「────ゴブっっ!?」


腱をねじ切られた痛みで叫ぶ男を黙らせるつもりで後頭部に一発入れる。

ゴツッと鈍い音と共に男の顔は床に伏せさせて意識を刈り取った。





─────忍び込んでいるのが、1人だけじゃないと気付いたのは、その持ち物を調べている最中であった。


『ご苦労だったヴィット! 今からそっちに部下と共に向かう!』

「了解です。その間に持ち物とか調べておきますね」


アーバンさんとの通信を切るとうつ伏せで後ろに手錠をはめられている男の持ち物を調べてみる。手錠は街の警備隊が愛用している特殊合金で出来た銀色の手錠。こういった特殊な依頼くるため特別に支給されていた。


ただおれの手錠に対してだけは少しだけ、他とは異なっている。

頑丈なのはもちろんだが、実は改良が施されており魔力を封印する機能も搭載されている。言うなら手錠のマジックアイテムであった。

この手錠をはめれば相手が魔法使いの場合は、魔力を封じことができるので、いざという時に非常にいいアイテムなのだ。


……まぁ便利ではあるが、悪用した場合は酷い目に遭うらしいから、仕事以外では使わない。アーバンさんに教わった際にもキツく言われていた、それは置いておいて、カバンや懐から色々と持ち物を確かめる。


「思ったより色々持ち込まれてるし……」


カバンの方は能力で調べていたので、爆発物がメインのは明らかであるが、他にも館の地図なども隠れていた。事前に館内の死角でも探っていたのだろうか? もしかしたらだいぶ前から潜入されてたかも。


「……あれ?」


ふと男のポケットを探っていると通信機の石を見つけた。

一応先程の“アナライズ”で把握はしていたが、うーーん。


……念のために、能力で石自体を調べてみることにした。


“アナライズ”を使うと通信機の石から光が螺旋状に出てくる。それを俺は手に取り込んで視た。


魔法は使えないが、裏技がない訳ではない。こうして能力で情報を読み取りながら、中身を調べれる。


──────基本情報を取得──────通信履歴を取得。

──────通信先の情報を取得──────対象の情報を整理。

──────製造元を素材から検索──────製造元ーーーー国。


様々な情報が頭の中で流れて整理される。この後アーバンさんに報告する際に利用するため、じっくりと調べていく。こういった情報は相手が黙秘して得られない場合が多いため、依頼達成の際の評価がかなり高くなる。

その分、報酬もいい。



──────会話記録を取得。


そうして調べている中、ふいに通信機から会話情報を聞けれるようになった。記録からして20分程前である。


貴重な情報になると通信機に残っている音声を聞いてみた。ノイズもあってキチンと音声が再生されてる訳でないが、ある程度は聞こえてくる。


『───では、手筈通りこっちは2箇所に仕掛けておく。それと予定時間になってもこちらに動きがない時は……』

『ああ、そちらの爆破が失敗に終わった場合は、速やかにオレが直接仕留める。……幸い相手の周りの警備は弱い。オレなら余裕だ』

『クククっ頼んだぞ、剣殺』


「───っ!? 二つ名持ち!!」


会話を聞いている中、目の前の男が口にしたであろう二つ名を聞いて、慌てて立ち上がる。さすがに二つ名持ちは予想外だった!

急いで残りの記録を読み終えると、立ち上がってその場から駆け出した。


「アーバンさん! アーバンさん聞こえますかっ!?」


その場に男を残して行くのは心配だったが、間もなくアーバンさんと警備の人達がやって来るのを感じ取ったので、急いで通信機で呼び掛けながら、護衛対象がいるフロアへ駆け出した。





「……どうやら気付かれたようだな」


男は四十代くらいの白髪の中年男性、痩せ型でスーツを着ている男性の側には杖が置かれていた。もう1人の暗殺者はトイレの個室便座に座って待機したまま、起きるはずであった爆発を待っていた。


今回の仕事は対立派閥から依頼で内容は、この館の主人の暗殺であった。


現在はそこまで脅威ではないが、対象の貴族は市民にも慕われ始めている。少々厄介な相手であるそうだ。時間をかければ別の派閥の貴族達にとって、よろしくない事態に発展してしまう可能性が極めて高い。


そして今回の暗殺に動き出したのは2名。どちらも同じ組織のメンバーで貴族に裏で雇われては日々、色んな暗殺を行なっているコンビだ。


手順は大体二段階であり、今まさに一段階目が失敗に終わったと思われたため、二段階目に移ろうとしていた。今回はおまけも用意する予定であるが、男はそれまで長引かせるつもりはなかった。


「ふぅ……さて、いくか」


もう一方がやられたかもしれないのに、男は一切気にした様子をみせない。

コンと杖で小突くと便座から立ち上がり、標的がいるフロアへと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る