7:ANOTHER SURVIVOR

 僕、透野明っていうんだ。君は?

 ……へえ、変わった名前だね、君も。

 あっ、いやっ、別に悪口じゃないよ。だって、かっこいいじゃん。ダークヒーローみたいでさ。

 はは、その言い方は厨二病過ぎるけど……。

 いたっ、ちょ、ちょっと、やめてよ。ごめんごめん。やめてったら、ふふっ。

 ……君も、ヒーローが好きなの?

 ね、ねえ、君はどんなヒーローが好き?僕はね———。




 ―――目を覚ました。

 視界が白くぼやけている。遠くの方でセミが鳴いている。また嫌な夢を見た気がする。

 ああ、起きて歯を磨かないと。それから、寝癖を直して……。

「……っ!」

 ガバッと身を起こす。

 すべて思い出した。ここは保健室だ。世界が終わって、ゾンビだらけになって、僕だけが生き残って、それで―――、

「ヴぁあああ」

「……っ!?」

 血の気が引いて、咄嗟に枕元に置いていた金属バットを握った。今のはゾンビの声だ。どこだ、まさか、侵入されたのか?

 恐る恐る、仕切りのカーテンを開けた。が、誰の姿も無く――と、入り口の扉の向こう、明かり窓の磨りガラス越しに、ゾンビがいるのが見えた。

 あれは……養護教諭の中泉なかいずみだ。中に入ろうとしているのか、扉に身体をバタバタとぶつけさせている。

 ほっと息をついた。鍵を掛けているから入って来れないし、仮に鍵を持っていても、あの様子では使う知恵は無いだろう。一安心しながら、ベッドに腰を下ろす。

 外に面している窓を塞いでいたせいか、部屋の中は薄暗かった。が、セミが鳴いているということは……。

 壁掛け時計を見ると、針は十時過ぎを指していた。

 どうやらいつの間にか深い眠りに落ちていたようだった。僕はこんな時間まで寝ることは滅多にないのだが、昨日は一睡もしていなかったし、無理もないだろうか。

 そういえばと、枕元に置いていた懐中電灯を確認すると、電池が切れてしまったのか、光が消えていた。が、ウォークマンの方は眠りに落ちる前に再生を止めていたのか、まだ充電を保っていた。

 ああ、良かったと、ウォークマンをポケットにしまうと、とりあえず朝の支度を始めることにした。流し台に向かい、顔を洗おうと蛇口を捻る――が、出ない。ああ、そうだ。水は止まっているのだった。

 仕方なく、机の上に置いてあったウェットティッシュで顔を拭った。鏡で自分の姿を確認してみると、寝癖がついていた。直したいが、水が無いので直しようがない。

 まあ、いいや。誰に見られるわけでもないし。

 開き直ると、朝食代わりにリュックからブドウ味のキャンディを取り出し、口に放り込んだ。僕にとっての朝の味が、舌の上で溶けていく。

 一晩ぐっすりと寝て落ち着いたのか、昨日の夜よりも僕の気分は軽くなっていた。景気付けに、ウォークマンで一曲だけロックを聴く。

 さあ、動き出そう。今日こそ、林田さんを見つけるんだ。




 装備を整えた僕は、渡り廊下へと続く玄関の扉の前に立っていた。

 あれから、役に立ちそうな消毒薬や絆創膏なんかをリュックに詰めて、保健室を出た。邪魔だったので、中泉ゾンビは撲殺した。

 その後も、色んな教室を巡って役に立ちそうな物を調達した。役に立つかは分からないが、無いよりはマシであろう物をリュックに詰めて、全身にも武装を施した。

 まず、腕にサッカー部の連中のカバンから持ってきたすね当てをメッシュテープでグルグル巻きにして固定した。もし外部のゾンビが襲ってきても、これでガードすれば噛まれない。少々臭いが、強度があるし、何よりアーマーみたいで格好いい。

 足には、家庭科室から持ってきた鞘付きの果物ナイフをメッシュテープで仕込んだ。緊急時に、いつでも鞘から引き抜ける。特殊部隊さながらだ。

 背中のリュックには、理科準備室にあった超強力マグネットを縦に二つ、内側から仕込んだ。金属バットを外側から押し当てると、ガチンとくっついてホールドできる仕組みだ。我ながら、凄い発明だと思う。これでいつでも収納できるし、咄嗟に抜刀するように振り下ろすこともできる。

 準備万端だ。美術準備室の時とは違う。あの時とは、覚悟が違うのだ。

 扉の向こうを見る。体育館まで続く渡り廊下は、およそ二十メートルほど。短い距離だが、外は安全の保障がない終末世界だ。

 ダッシュで体育館を目指す。扉に鍵は掛かっていないはずなので、玄関の中に入り込んだら、すぐに閉める。その後、警戒を怠らないようにしながら、体育館内を探索する。林田さんを見つける為に。ただそれだけだ。

 外の様子を窺う。ゾンビは不自然なほどに見当たらない。見晴らしは良いが、植え込みや花壇などによる物陰が多いので、どこからゾンビが現れるか分からない。

 目を閉じて耳を澄ました。校舎の方からゾンビの呻き声が聴こえる。相変わらず、セミが鳴いている。

 目を開けて、深呼吸した。初めて、外界へ繰り出すのだ。ここから、僕の本当のサバイバルライフが始まると言ってもいい。

 靴紐を締め直し、ゆっくりと音を立てないように扉を開けた。ふわりと、風が顔を撫ぜる。


 ———行くぞっ。


 渡り廊下のタイルを蹴って、勢いよく飛び出した。全力で駆ける。リュックの中の荷物が暴れる。前髪が捲れて風を切っていく。

 半分まで来た、もうちょっと、あと少しでっ———。

 入り口の扉をこじ開けると、するりと中に入りこんでガチャンと閉め、鍵を掛けて外の安全を確保した。咄嗟に振り返りながら、今度は中の安全を確保するために、背負っていた金属バットを取り出して構える。

 人影は――無かった。下駄箱が設置されているだけの、簡素な造りの玄関は静寂に包まれていて、僕の心臓だけが場違いのようにバクバクとうるさく鳴っていた。

「……はあっ」

 止めていた息を、ドッと吐いた。どうにか無事に突っ切れた。多分、ここは安全だ。考えてみれば、体育館なのだから人がいるはずがない。ゾンビ・パンデミックが起こったのは昼休みのことなのだから。いつも開放はされているが、みんなスマホにご執心で、ここで遊んでいる者をほとんど見たことがない。

 息を整えながら、装備を確認した。油断はできない。どこにゾンビが潜んでいるか分からないのだから。気を抜くわけには———、


 ———ダンッ


 と、くぐもった鈍い音が聴こえた。

 ……この音は、聞き覚えが、


 ———ダンッ、ダンッ


 また聴こえた。そうだ、これは、体育館でよく聴く音。


 ———ダンッ


 ……バスケットボールが跳ねる音だ。

 どういうことだ?ゾンビがバスケをしているのか?いや、違う。

 他に生存者がいるのか?

 逸る気持ちを抑えながら、体育館の中へ続く扉へ歩み寄ると、鍵が掛かっていた。

 いつも開放されているはずの扉に鍵が掛かっている。つまり、誰かが中にいて……閉じ籠っている?

 ……まさか、林田さんが?

 金属バットを背負い直すと、ポケットの中からマスターキーを取り出した。鍵を開け、重たい扉をゴリゴリと開くと、そこには——―。




 バスケットボールをゴールに向かって投げている人がいた。弧を描いて放たれたバスケットボールが、中へと入らずに弾かれ、ダムダムと僕の方へと転がってくる。

「あん?」

 その人は僕を見るなり、素っ頓狂な声を上げて驚いていた。

 僕はというと、初めて見る自分以外の生存者の存在に喜びつつも――がっくりと、落胆していた。

「おおっ。俺以外にも生き残ってる奴がいたのか」

 そこにいたのは林田さんではなく、同じクラスのヤンキーグループのリーダー的存在、井之内いのうちりょうくんだった。遠目からでも分かるほど、ツーブロックの黒い短髪がワックスでテカテカと光っている。

「お前……ゾンビじゃねえよな?」

 大柄な身体を揺らしながらヘラヘラと近寄って来た井之内くんは、僕が黙り込んでいることに不満を覚えたのか、薄く剃られた眉をひそめて怪訝な表情を浮かべた。

「ちっ、違うよ。噛まれてない」

 慌てて弁明すると、

「なんだよ、喋れるんじゃねえか。で、何だよ、そのカッコ」

 井之内くんは、僕が全身に施した装備を不思議そうに眺めた。

「あっ、こっ、これは、ゾンビから身を守る為のやつで……」

「ハッ、何だそれ!バカみてえだな!ハハハハッ!」

 渾身の装備を馬鹿にされ、悔しくなった。これでも、僕はあのゾンビだらけの学校を生き抜いたんだぞっ、と言ってやりたかったが、そんな度胸はなかった。

「まあ、いーや。お前さ、なんか食い物持ってねえ?俺、昨日からこれしか食ってないんだわ」

 井之内くんはポケットから、くしゃくしゃの煙草の箱を取り出してチラつかせた。

「ああ、え、えっと、こんなのでいいなら……」

 煙草は食べるものじゃないだろと思いつつ、リュックのポケットからキャンディやガムを取り出した。

「おおっ、イイの持ってるじゃんよ」

 井之内くんは僕の手からガムを奪うと口の中に放り込み、クチャクチャと噛みながら包み紙をポイとその辺に捨てて、代わりに足元に転がっていたバスケットボールを拾い上げた。

「お前、みんなから無視されてた奴だったよな?」

 バスケットボールを指先でクルクルと回しながら、井之内くんは平然と僕の痛いところを突いてきた。

「え?……あ、ああ、え、えっと……うん、そうだよ」

 僕は、しどろもどろになりながら答えた。今まで、面と向かってそんなことを言われたことはなかったが、いざ言われると、割と傷付くことが分かった。

 でも、いつぶりだろう。こうして、人と会話をするなんて。それも、同じクラスとはいえ、自分とは程遠い領域にいる人と。

 でも、今は生き残っている者として、対等に話せて―――、

「やっと生き残ってた奴がいたと思ったら、よりにもよってお前なのかよ」

「……っ」

 僕は、忘れかけていたことを思い出した。

 自分は、格下の人間なのだと、邪険に扱われていた除け者なのだと、底辺の日陰者なのだということを。

「ま、お前みたいな奴でもいないよりはマシだな。ゾンビじゃねえまともな奴がよ」

 その井之内くんの言葉に憤りながらも、心のどこかで上流階級の人に必要とされて喜んでいる自分が、たまらなく嫌だった。

 井之内くんは、またゴールに向かってバスケットボールを放つと、

「で、外はどうなってんだ?俺、パニックが起きた時からずっとここに立て籠もってたから、よく知らねえんだ」

 と、訊いてきた。バスケットボールはまたゴールに入らず、明後日の方向へダムダムと転がっていった。




 それから、僕は井之内くんに、ありのままの状況を伝えた。学校中ゾンビだらけになっていること。生存者は僕以外にいないこと。外を見ていたが、自衛隊やヘリコプターなどは一向に現れず、助けが来る望みは薄いだろうということ。分かっている限りのゾンビのルール、習性、殺し方。

 井之内くんはステージに腰掛けて僕の話を聞いていたが、助けが来そうにないということが分かった途端、無気力になってしまったのか、「……ふーん」と呟き、気怠そうに寝転がって、煙草をふかしたり、スマートフォンをいじったりし始めた。が、僕がゾンビを殺したと言うと、急にガバッと起き上がって顔をしかめた。

「殺したって、お前が、か?」

「……うん」

「どうやって?」

「これで」

 僕はリュックを下ろすと、マグネットで引っ付けていた金属バットを取り外して井之内くんの前に掲げた。

「あっ!それ、俺らのじゃねえかっ!」

 井之内くんは急に顔色を変えて、僕の手から金属バットを奪うと、感慨深そうにグリップを撫でた。

「俺らのバットでやったのかよ。ってか、ホントに殺したのか?」

「うん。ほら、それ」

 本来は野球部のものだろ、と思いつつ、僕は金属バットの先端を指差した。今朝殺した中泉ゾンビの血が付いている。まだ乾いていないのか、表面はぬらぬらとしていた。

 それを見るなり、井之内くんは僕のことを蔑むような目で睨んできた。

「……嘘つくなよ。お前みたいな奴に殺せるわけないだろ」

 どうやら信じられないらしく、僕が粋がっているだけだと思われたようだった。言い返したかったが、バットの血以外に証拠がないし、厳密に言えば、これも別に殺した証拠にはならない。

 言い返せずに、黙りこくることしかできなかった。

「ふん、イキってんじゃねえよ。陰キャの分際でよ」

 ……僕が殺したんだ。君とよく話していた橋本はしもとくんも、坂田さかたくんも、阿部あべくんも、みんなヴあヴあ呻くだけのゾンビになっていたから、僕が殺してやったんだ、という言葉を呑み込んだ。

「不思議でしょうがねえよ。何でお前みたいな雑魚が生き残れたんだ?」

 井之内くんはまた寝転がると、すっかり火の消えた煙草を咥えてスマートフォンをいじり始めた。電波なんてもうとっくに通じていないだろうに、何をしているんだろう。

「あのパニックが起きた時、僕、美術準備室に閉じ込め……閉じ籠ってたんだ。だから、無事で済んで、それから……」

 言いかけて、ふと躊躇った。

 僕って、ゾンビからも無視されてるんだ。だから、学校で無敵だったんだ。

 それは紛れもなく真実だけど、言ったらまた馬鹿にされるのだろうか。イキってんじゃねえよ、陰キャ如きが。またそう言われるのだろうか。

「……ゾンビがいない瞬間を見計らって、こっそり逃げてきたんだ」

 嘘をついた。

「ハッ、ダッサ。お前、卑怯な奴だな。ゾンビから逃げるなんてよ」

 井之内くんは僕の情けなさをご所望だったのか、満足そうに笑った。ゾンビから逃げることが、どうして卑怯なんだ。

 その後も、井之内くんはスマートフォンをいじりながら、あれこれと質問しては、僕のことをニヤニヤと小馬鹿にしてきた。陰キャだの、雑魚だの、ビビリだの、卑怯者だのと。

 僕はきちんと質問に答えていたが、馬鹿にされている間は、ずっと唇を噛んでいた。

 ……どうして、こんなことになった?

 僕は、無敵だったはずだ。ゾンビ・パンデミックが起きて、世界と一緒に学校も――スクールカーストも崩壊して、先生も生徒も関係無くなって、ピラミッドは僕とゾンビだけの二段構成になった。僕は奴等を、普段は僕のことを無視して見向きもしなかった奴等をぶち殺して、座作市立砂井田第二中学校の頂点に立ったはずなんだ。

 なのに、どうして元通りになってるんだ?

 ステージの上で悠々と寝転がる井之内くんに対して、下でポツンと立ち尽くしている僕。格上と格下。上流階級と下流階級。王様と下僕。頂点と底辺。

 井之内くんに出会うまでは、僕がこの学校で一番の存在だったはずなのに。

 ……やっぱり、僕は僕のままなのだろうか?

 所詮、僕は誰からも無視されていた底辺の日陰者で、ステージの上で脚光を浴びるのは、井之内くんみたいな陽が当たる場所にいる人間で、それは世界が崩壊しようとしまいと変わらなくて、僕みたいな奴は結局、どこまでいってもどうしようもなくて、でも、でも、だとしても、なんで、よりにもよって―――、

「どうして井之内くんが生き残ったの?」

 気が付くと、無意識に口から言葉が出ていた。




「ああ?」

 しまった、と思った瞬間には遅かった。井之内くんは、むくりと起き上がって僕を睨みつけてきた。

「どういう意味だよ、コラ」

「ちっ、違うよ。どうやって生き残ったのかなって思って……」

 咄嗟に誤魔化したが、井之内くんは僕の方を睨んだまま、微動だにしなかった。ステージはそこまで高くないし、僕も突っ立っているというのに、なぜか遥か真上から見下されているようだった。

 何秒間そうしていたのか分からないが、やがて井之内くんはフンと鼻を鳴らして、火の消えた煙草の先を見つめながら、

「俺は、そこの放送室でたむろってたんだよ。杉原すぎはらと、千葉ちばと、木村きむらと一緒にな」

 自分が束ねていたヤンキーグループの面々の名前を挙げて、ステージ横に設けられている放送設備室の方を指した。

 と、その時、井之内くんが持っているスマートフォンの画面が目に入った。どうやら、カメラアプリの画像フォルダを見ていたようだった。

「お前みてえな陰キャは知らねえだろうけど、放送室は俺らにとって絶好の溜まり場だったんだ。鍵は掛かってねえし、ただでさえ人が来ねえ体育館の、奥の奥だからな。人目に付かねえし、壁が防音だから騒いだっていいし、煙草も吸える。だから、俺らはほぼ毎日、そこで昼休みを過ごしてたんだ」

 井之内くんの説明を聞きながら、僕はスマートフォンの画面を見入っていた。

 画像フォルダはそういう仕様なのか、数秒おきに画像が切り替わっていく。まるで、アルバムのページを捲っているように。

「あのパニックが起きた時もそうだった。俺らはいつもみたいに煙草を吸いながら、カモが来るのを待ってた」

「カモ?」

 訊きながら、切り替わっていく画像を眺める。教室で楽しそうに笑う井之内くんたちの写真。ファミレスらしきところで、みんなで一緒に何かを食べている写真。女子生徒とのツーショット写真。僕には手が届かない、いかにも華やかな青春って感じの写真集。

「ほら、杉原ってイケメンだろ?性格は最悪だけどな。顔が良いからか、昔っから女子と仲が良いんだよ。部活やってっから顔も広いしな。それで、色んな女子から話を聞いて、何されても黙ってるような都合のいいカモを見つけてくるのさ」

 さらに、画像が切り替わっていく。薄暗い場所で女子が壁にもたれて俯いている写真。女子の泣き顔のアップ写真。下着姿で床に転がる女子の写真。

「俺らは楽しみに、杉原がカモを連れてくるのを待ってた。そしたら、外が妙に騒がしくなって、なんだなんだって思ってたら、杉原がカモ連れて駆け込んできて、ゾンビがどうだのこうだのギャアギャア言いやがる。わけ分かんねえこと言ってんじゃねえっつってたら、急にカモがビクビク震え出してよ」

 髪の乱れたあられもない姿の女子の写真。その腕を押さえつけているのは、杉原くんと千葉くんで、木村くんがその様子をスマホで撮っている。

「ゲロでも吐くのかと思ったら、杉原に飛び掛かって噛みつきやがった。助けようとした千葉も木村も、巻き込まれて噛まれちまってよ。俺は危ねえから近付くんじゃねえっつったのに、バカ共が」

 また画像が切り替わった。画角からして、さっきの写真の、木村くんのスマホによって撮られたものだろう。床に押さえつけられている女子に、誰かが跨っている。それは―――、

「……なんで俺が生き残れたのかって言ったな」

 気味の悪い薄ら笑いを浮かべる、井之内くんだった。

「俺はなぜか、奴等に襲われなかったんだよ。近寄んじゃねえ!って怒鳴りつけたら、素直に言う事聞きやがったんだ。ゾンビのくせに」

 井之内くんは不意に、ステージ横の放送室に向かって、

「おら、出て来いよ!」

 と、叫んだ。すると、ガチャリと扉が開いて、

「ヴあああっ」

「ヴあううっ」

 中から呻き声を上げながらヨタヨタと現れたのは、制服が血だらけの杉原くんと、千葉くんと、木村くんと、

「こいつら、臭えから閉じ込めてたんだ。不思議なもんだよな。ゾンビになっても、まともだった頃の通り、俺の命令には逆らわねえんだぜ」

 変わり果てた姿の、林田さんのゾンビだった。

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