第100話 気が付いたら告白していた

 長々しい閉会式が滞りなく過ぎ、選手達の首には優勝・準優勝メダル、主将の手には優勝旗・準優勝旗、他に賞状と盾を持っていた。


 新聞社社長や実行委員長の話、国旗の掲揚と続く。



 結果的に真白はこの甲子園で、自責点ところか失点すら0で抑えた。


 これにより6試合合計11イニングを投げて防御率が0.00という前代未聞の成績となっていた。


 打撃の方も31打数14安打、2盗塁、6試合で3本のホームランでタイ記録ではあるが、ホームラン王にもなっている。


 まさしく明日死ぬのではないかという程の成績を残していた。


 なお、同数でホームラン王は、チームメイトで後輩の壇ノ浦と、準優勝である九州黒彩大附の4番とで3人である。


 特に賞が貰えるというわけではないが、かなりの個人成績も桜高校は残していたのである。


 盗塁王も7つで白銀が、最多安打も白銀が、チームとしては全試合ノーエラーを達成していた。



 宿舎に戻り、入浴、夕飯を済ませた一同は部屋に戻って自由な時間を過ごしていた。


 一日の疲れから早めに就寝する者、クールダウンで軽く運動をする者、大会も終わったのだからと、同じ宿舎にいる他校と軽く交流する者と様々だった。


 真白はラウンジでコーヒーを手に取ると、先日膝枕ふーふーした横長のソファに腰を掛ける。


 3口程口を付けたところで、真白のソファの隣が一部沈んだ。


「隣、良いか?」

 

 言葉だけ聞くと部員の誰か、または同じ宿舎に宿泊している九州黒彩大附の誰かかと間違えてしまいそうだが、その声は男性のものではなかった。


 真白が聞きなれた、鬼マネージャーこと種田恵であった。


「ダメって言っても既に座ってるじゃんか。」


 館内だからか、備え付けの浴衣を身に着けている真白と恵。


 普通こういう時は学校指定のジャージじゃないのかというところだが、滞在日数が嵩んだせいで洗濯が間に合っていないのである。



「散々触ったり掴んだり揉んだり、良くもやってくれたな。」



「でも良い想い出になったろ。正直恵がいなけりゃこんな事達成出来てなかったし、そもそも本気で甲子園目指そうとさえしてなかったと思う。」


「お、おう。」


「一人じゃ野球は出来ないし、チームが一丸とならないと無理な事だし。感謝してるんだよ。だから一緒に喜びも分かち合いたかったんだ。男じゃないからって一緒に喜べないとか不公平だろ?だからちょっと恥ずかしいのは置いておいて、あの余韻のまま抱き合いたかったんだよ。」



「うわぁ……」


 なお、このうわぁは偶然聞き耳を立てていた澪であった。


 二人からは一度も視界に入っていないのか、後方にある別のソファに座っていた。


「バッティングセンターでホームランの的を当てるのを張り合ったり、ノックで落としてなるものかと死に物狂いになったり、一つ釜の飯を食ったり、一緒に風呂入ったり……」


「いや、一緒に風呂は入ってないぞ。」


 恵が冷静なツッコミをする。ラウンジに掛かっている時計は21時を回っていた。


「なぁ、膝枕って気持ち良いのか?」


「なんだよ、藪から棒に。」


「してるこっちは恥ずかしくてしかたなかったんだが、約束だったしなこないだのは。」


「じゃぁ、恵もやってみるか?」


「うわぁ……」


 このうわぁも澪である。隣には当然八百の姿もある。


 目が押し倒せと物語っていたが、ここは宿舎だ。部活の一環として参加した野球大会だ。


 家に帰るまでが甲子園である。つまり、まだ学校行事中である。


 八百の期待する事は、優勝剥奪行為にまで発展しかねない事なので、不純異性交遊はよろしくない。


 

「じゃぁちょっとだけ……」


 ふわっと、恵の長い髪からシャンプーの匂いが、真白の顔周辺を漂っていった。


 その刺激が真白の何かを刺激していった。


 更には恵の横顔が太腿に当たる感触が、違う何かを更に刺激していく。


 ソファが長椅子だからこそ出来る事。他に利用者がいないから出来る事。


 そしていつの間にかギャラリーは増えていた。九州黒彩大附の生徒である。


 八百は口に指を立てて「シィィ」と静かにしろと合図を出す。


 直接会話を交わしたことはなくとも、こういう時の意思疎通は男子高校生同士であれば可能であった。


 ただし、九州黒彩大附の生徒も女子と一緒なので、マネージャーか彼女かのどちらかであろう。



「ん?なんか頭に当たるんだが……」


 その言葉を聞いた真白は一瞬たじろぐ。


「あ……」


 あ、と声を上げたのは八百であり、八百にはそれが何を意味するかが直ぐに理解出来ていた。


 

 そして、恵は身体、正確には顔を動かした。


 普通なら顔を上に向けるように上げるのだろうけれど、何を思ったのかうつ伏せになる方向に顔を動かしたのである。


 それはつまり、恵の唇が真白の腿に触れるような形となり……


 二人の衣装は現在宿備え付けの浴衣である。



「は?」


 恵の視線の先……


 浴衣の一部がテントを張っている……であればそこまでの問題はない。


 反応してしまうのは男だから仕方がないともとれる。


 しかし、浴衣である事がまずかった。


 ややはだけかけていた浴衣の隙間から……その下に本来隠れているべきものが垣間見えてしまったのである。


 いや、本来ならばそれでもその下は布……下着が見えてしまうだけであるが。



 どういう理屈か、どういう原理か、どうしてこうなったのか。


 はみ〇ンしてしまっていたのである。



 恵が膝枕をしてもらおうと、頭をグリグリしてしまった事により、試合も全て終わって緊張感も全て失った真白の下半身も油断をしていたのかも知れない。


 見事に反応してしまい、マウント富士状態になってしまっていたのであった。


 それが下着の隙間からちょうどこんにちはする形となってしまっていたため、顔を動かした恵の眼前に聳え立ってしまっていたのだ。


 巨大きのこ、世界樹、魔王、形容すべき擬音や隠語は様々なれど、真白の真白ジュニアは恵の視界に突然現れてしまったのである。


「ぎ、ぎにゃぁぁあぁあくぁwせdrftgyふじこlp」


 本日二度目である。


 さっと恵が立ち退くと、真白はさっとそれを隠した。


「い、いや。態とじゃなくてだな。恵の頭がちょうど色々刺激してきて、そのな……」


「責任……責任取りやがれ。」


「お?」


 澪が何かを期待するまなざしで凝視している。



「どういう事?」



「そんなモン見せやがって。こちとら元ヤンでも乙女だぞ。責任取れって言ってんの!」


 

「なんか変な雲行きね。」



「じゃぁ恵も見せろ。それでおあいこだ。それに今だから言うけど、さっきお前のもちらりと胸のあたり見え掛けてたからな。思春期男子高校生舐めんな。」



「そーじゃねー!そういう責任じゃねー。」


「そういやどうせ見るなら……とか整列の時言ってたわね。」


「そうだな。俺にも聞こえてた。」 



「まぁ、見られたのが恵で良かったし、他の誰かのを見たいってわけでもねぇ。シャンプーの良い匂いがしたとか頭の刺激がとか……」


「それってどういう事だ。わかるように言わないと全然わからねぇぞ。」


「お前以外の奴に見せる気が無ければお前以外のを見たいわけでもねぇって言ってんの。」


「いや、だからそれってどういう意味だって。」



「だから好きじゃなきゃそんな事思わねぇだろって話だ。」



「ん……?お、おう。」


「それなら同じ理屈だな。」


 鳩が豆鉄砲を食ったような表情で、恵の毒気が一気に抜けていく。



「それでお前はどうなんだよ。」


 真白は開き直ったかのように聞き返した。


 自分が何を口にしたのかわかっているせいか、照れ隠しの意味が強かった。



「つ、月が綺麗ですね。」


 唇を尖らせながら、物凄く照れている事がわかる表情と真っ赤な顔で答えていた。

 


 恵はひゅーひゅーと、全然吹けていない口笛で誤魔化している。



「恵の口から文豪みたいなセリフが出てくるとは思わなかった。そんなんじゃわかんねぇ好きか嫌いか、LOVEかLIKEで答えやがれ。」


「なななぁっ、お前の方が頭良いんだからわかるだろーが。」



「それこそそういう問題じゃねぇ。俺は好きだと言った。じゃぁ恵、お前はどうなんだ。」


「あ、あ、あぅ、す、好きに決まってんじゃねーか。」


 ハァハァと全力疾走したかのような荒々しい呼吸。言い切ってやったぞ感を出していた。


 なんとも締まらない、売り言葉に買い言葉感がたっぷりな告白であった。


 ただ、真っ赤な顔の二人の感情は、嘘偽りのないものだという事を証明していた。


 怒りからくる赤ではなく、恥ずかしさからくる赤だからである。



「あの、お客様。他のお客様ギャラリーの迷惑となりますが面白がって見てますので、そろそろお静かに願います。」


「あと、おめでとうございます。」


 このおめでとうが、甲子園優勝おめでとうなのか、カップル成立おめでとうなのかわからない恵と真白であった。








 一方その頃、後ろのソファで見ていた澪と八百のカップルと九州黒彩大附のカップルは……



 気が付いたら告白していた。


 良いか、ありのまま起こった事を伝えるぜ。


 柊が種田を膝枕していたら、微妙な刺激で勃起してしまった柊のあそこを種田が凝視してしまい


 責任を取れと言及した種田に対して、柊が意味不明な言い訳をしていたら、いつのまにか告白していた。


 一体何を言ってるのかわからねーと思うが、恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。



 その場を目撃していた八百は、後にそう語っていた。


 偶然居合わせた九州黒彩大附のカップルもまた、「ごちそさま」と語っていたという。





「な、なぁ。こんな事言うのもなんなんだけどさ。学校戻ったらもう一回良いか?」


「な、なんだよ。何をだよ。」


「あたしはこれでも女子なんだよ、乙女なんだよ。だからもう一回、出来れば学校にあるあの木でもう一回……」



 それを聞いて真白は思い出す。自分の学校に伝わる七不思議を。


 

「もう一回告白しろと?」


 恵はコクコクと頷く。その様子だけを見れば元ヤン係数はかなり低い。ちょっと背の高い女の子という感じであった。


「お前は耐えられるのか?あの恥ずかしさに。さっきは売り言葉に買い言葉感があったからお互い言えたんじゃねぇか。」



「それでもだな……」


「まぁ良いけどな。確かにロマンチックの欠片もなかったし。そういや親父達もどっかのゲームみたいにあの木の下で告白したとか言ってたしな。」


「ん?真白んちもそうなんか。実はうちの両親もそうみたいだ。桜高校受験する時にそんな事カミングアウトされた。」



 どうやら告白アゲインのようである。



 後日、日本代表U-18のメンバーには桜高校からは真白、白銀の二人が選出された。


 UNDER18は16歳以上18歳以下。高校生である必要はないけれど、大会の時期によっては大学一年生の早生まれが参加出来ないわけではない。


 甲子園未出場組からは、同じ埼玉県から水凪が2年生でありながら選出されていた。

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