第85話 水着購入と準決勝前……
「なぁ。なんで俺が買い物に付き合わなければならないんだ?」
更衣室の近くで真白は両脇にいる数人の友人達に向かって呟く。
真白の近辺には、マネージャーの澪、バッテリーを組む八百、セカンドの白銀、元ヤンの一人小倉七虹と弟の小倉。
「俺なんてこないだ姉ちゃんのに付き添ったばかりですよ。」
この中で唯一の2年生、小倉が口を尖らせて呟いた。
「うるさいよ。どこの家庭も弟は舎弟なんだよ。」
買い物に付き添った礼にと、野球グッズ(グローブやバットのケア用品)を七虹は弟に購入してあげている。
「まぁ、その場に僕もいたんだけどね。」
「なんだ、お前らそういう関係か?」
八百がニヤニヤしながらおちょくるように言った。
「そういうのは黙っておきなさい。」
いつかのバレンタインを思い出せと言わんばかりの澪の言葉に、「あーなるほど。」と納得する八百であった。
「あのスク水は色々まずいでしょう。ピッチピチではないけど、色々はみ出てしまいそうだったし、元ヤン云々を除いても男子の変な視線集めそうでしょ。実際集まってたし。」
「だいたい高校生にもなって男女で一緒に体育の授業ってのが間違ってると思うのだが……」
真白が冷静に返す。桜高校でも基本的には保険や体育の授業は男女別々である。
しかし、ジェンダーについて世の中が騒いでいる時代に、性別でわけるのは後の事を考えたらよろしくないという結果だった。
暫く問答していると、更衣室のカーテンが少しだけ開いて、恵が顔と身体の一部を表した。
「な、なぁ。一応着てみたけどさ。澪、七虹、これで授業受けられるのか?」
「ぶほっ」
真白が吹き飛んだ。
「おっと。」
八百が真白を倒れる前に受け止めた。
「おまっそれっ。」
更衣室のカーテンから少しだけ覗かせた恵の姿は……
「紐じゃねーか、」
「だよなー。ほぼ紐だよなー。で、なんで男子どもががっつりと見てんだ、回れ右しろー!」
結局無難な水着に落ち着いた。
それでも引き締まった恵の身体は、客観的に扇情的な水着姿となっていた。
「なんだかんだでもう夏休みだなー。」
桜高校は初戦で金星を挙げたあとも、勝ち続けていた。
2回戦では初のコールド勝利を収めた。
先発で朝倉が3回、村山兄弟が1回ずつで見事0点に抑え、攻撃陣が奮起し12点を挙げてのコールド勝ちである。
爪の治療を優先させ、山田は代打での起用やファーストでの起用で、試合感覚だけは養っていた。
3回戦、4回戦は3年の卯月が先発で投げ、1年生が繋いで先行逃げ切り、7回コールドも経験していた。
そして準々決勝、近年実力を上げており、サッカーやラグビーでは全国まで行ってるが、野球はあと一歩まできている実力校、晶平高校と対戦。
山田のリハビリも兼ねて2回を投げ、違和感なく後続に繋げた。
試合は最終的に8-6で桜高校が逃げ切ってベスト4入りが決定した。
そして7月も後半となり、埼玉県大会はあとは準決勝と決勝を残すだけとなった。
水凪のいる山神学園対隈谷商、桜高校対浦宮学院。
どちらのカードも新進気鋭対古豪である。そして桜高校以外は甲子園出場経験のある学校。
桜高校としては、昨夏以来の対戦。
昨夏は浦宮側が桜高校を弱小と侮ってくれたところがゼロとはいえなかった。
しかし昨夏の奇跡のような試合、そして近夏のこれまでの戦いを知っている。
昨年のような油断は皆無といって良いだろう。
実際山神以上の激戦となるかもしれない。
山神も新興勢力の一つであるため、ベスト4に残った中では浦宮学院が全国的には知られている。
「なぁ、初戦同様度肝を抜くようなオーダーにしていい?」
吉田監督が前々日のミーティングで爆弾発言をする。
「いや、俺は絶対先発なんてやりませんよ。八百がいくら投手向きの指してるとか言ってもやりませんよ。」
真白は監督の言う度肝を抜くオーダーに想像がついていた。
まだやってない事といえば、抑えである真白が最初から投げる事くらいしか想像つかなかったからである。
「えぇ~。俺の秘蔵のテラベッピンとアットーテキとかつけるからさー。」
監督が賄賂として贈ろうとしたのは、1990年代に売っていたエロ本である。
「そんな昔のエロ本なんていりませんよ。というかよくとっておきましたね。」
「俺が中学生の時こっそり読むのがささやかな楽しみだったんだよ。」
「色々と中古じゃないですか。」
「う~ん、じゃぁ柊、1番打ってみるか?」
「それも遠慮します。1番白銀と4番壇ノ浦だけは何があっても変更すべきではありませんよ。」
リードオフマンと主砲は変えるべきではない。
近年2番バッターの在り方が変わってきているとはいっても、やはりそれぞれの打順には求められるものが存在する。
何でもかんでもメジャーリーグスタイルに変えていく必要はないのだ。
人間には得手不得手があるため、みんながみんなホームランを打てるわけではない。
小技が巧い者、足が速い者、長距離に飛ばせる者等様々である。
「じゃぁ仕方ないか。」
流石にサイコロを転がして決めようと言わないだけ、まだマシであった。
研究されているのは間違いない。昨年とは違った内容と結果を想定しなければならないのである。
試合が明日に迫り、帰路につく真白達。
校門に向かう道すがら、澪が立ち止まり口を開いた。
他の部活の生徒達も下校する最中のため、周辺の人はまばらである。
「明日勝って決勝に行ったら、
澪が突拍子もない事を真白に向かって
「( ゚Д゚)ハァ?なななっなに言ってくれちゃってんの!」
その言葉に驚いた恵は、耳まで真っ赤になって大声を出した。
元ヤンなのに、男女の憂い等には縁が遠いのか、超初心な反応だった。
「いや、それで喜ぶのは八百だろ。お前ら突き合っ……付き合ってるんだし。」
意味深な真白の言葉は、八百と澪の関係をどこまでか知っているかのようなものだった。
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