第84話 金星、インタビュー、水泳授業、元ヤンのスク水
9回裏のマウンドには、そのまま真白が入った。
3年の朱堂と卯月はここまで出番がない。
二人とも、守備時のキャッチボールには交代で参加している。
3塁側ベンチであるため、投手の投球練習中にレフトの選手と数球のキャッチボールをしている。
9回裏、真白は気を取り直してピッチングに集中していた。
先頭バッターは変化球を引っ掛け、先ほどの回から入っている奥津へのサードゴロでワンアウト。
次バッターを内角低めのストレートで三振に切って取った。
ラストバッターを、8回の最後に見せたシンカーが左打者のインコースから真ん中付近へと入り、見事に捉えられるも真白の絶妙なフィールディングでピッチャーライナーとなりスリーアウト。
真白はその勢いのまま後方に倒れこみ、抜かるんだマウンドに大の字に天を仰いだ。
金星を挙げた桜高校ナインは、ベンチからも併せて13人が真白の元へ走り寄ってきていた。
「いい加減立てよ。」
「いや、打球が怖かった。」
天を仰いでいたのは、金星を挙げた感涙に臥せったわけではなく、切れるように向かってきた打球に恐怖しての事だった。
その後、整列をし礼をした後、桜高校の校歌が浦宮公園球場に流れた。
何年か前に、埼玉県でも一回戦から校歌が流れるようになっていた。
それまでは優勝を決めた学校の校歌しか流れない。
近隣の千葉大会などは初戦から流れていたのだが……
これでウチは弱いからどうせ校歌なんて流れないと諦めていた学校にも、俄然としてやる気が出るものである。
9回裏の守備についた、最終的な桜高校ナイン及び投手リレーは以下である。
1番二塁 白銀(4) 3年
2番左翼 村山
3番捕手 八百(2) 3年
4番遊撃 壇之浦(6) 2年
5番投手 柊真白(5) 3年
6番一塁 小倉(3) 2年
7番中堅 小峰(8) 3年
8番三塁 奥津(13) 1年
9番右翼 朝倉(12) 1年
投手
塩原ー朝倉ー村山磊ー村山翔ー山田ー柊
残り控えメンバー
朱堂(7) 3年 外野手
卯月(9) 3年 投手・外野手
インターネットにある、ナビスポのエキサイティングプレイヤーは……
白銀 3打数3安打 1HR 1打点 四球1 犠打1
柊 4打数3安打 3打点 四球1
この二人で分かれていた。
ただ、この二人で合わせてサイクルヒットとなっていた事を、スコアブックを付けていた澪以外は気付いていなかった。
ダグアウト裏へと移動した桜高校のメンバーをいくつかの取材陣が囲う。
勝利監督インタビューの他に、活躍した選手にいくつかの質問をする。
インタビューにて柊真白。
「最後の打席、一瞬ヒヤっとした場面もありましたが……」
なんとかファールにはしたものの、それは避けた時にバットに当たってしまっただけのファールである。
上手く見逃せていればボールだった投球の事を指している。
「避けてなければ顔面でしたね。でもウチのマネージャーの回し蹴りに比べたら……と思ったら反応出来ました。」
インタビューにて白銀真希。
「度肝を抜いてやろう!って事で、どんな球がきても普段はしない大振りフルスイングをしました。結果的に公式戦初ホームランとなりました。」
インタビューにて吉田監督。
「投手リレーは最初から考えてました。ただ、塩原が想定より良くやってくれたので3イニング行きました。そのおかげで卯月を出すタイミングがなくなりましたが。」
「それでも結果的に1枚残せる結果となりましたし、次に続く投手の幅が広がりました。」
「これで昨年に続き2度目のAシード(第一シード、第二シードの事)を撃破となりますが……」
インタビュアーの言葉に、吉田は平然とした顔で答える。
「そういうのは意識してません。強いて言うなら春の敗戦に対する雪辱を果たせる事が出来てホッとしてます、でしょうか。同じ高校生なんだし、様々な組み合わせめぐり合わせで、諦めなければ勝利を掴むことが出来るという、見本になってれば良いなと思います。」
「とはいえ、我々は強豪ではないので、一つでも多くの試合をする事で今後の人生の糧となってくれれば良いと考えております。」
一度学校へ戻ると30分程ミーティングを行い解散した。
次の試合は平日であるため、授業を欠席する必要がある。
尤も、時期的に午後まで授業のある日は少なく、大きなマイナスとまではならない。
そしてその次の試合の前には桜高校にとっての一大イベントが待っていた。
「そういや今年からプール授業があるんだっけ。」
ちょうど6月末に完成し、7月から体育の授業の中でプールが使われる。
「なぁ、なんでスク水なんだ?」
ぼんきゅっぼん……ではない種田恵のスク水姿が柊真白の前に姿を現していた。
決まった指定水着はないものの、あまり派手や露出が多くない事を条件に自由であった。
「すっかり忘れてた……」
中学時代ほとんど使用していない、中学時代に購入させられた学校指定の水着だと言う。
中学時代はサボったりもしていたため、着る機会はなかったようである。
「それより真白、良い筋肉だな。」
ダボっとした水着を着用している真白であるが、上半身は裸である。
普段はユニフォームに隠れたその内側が、今は衆人の眼に晒されているわけである。
恵は真白の脇、腕、胸……と揉みながら筋肉を確認していた。
「ヲイ、流石に胸は揉むなよ。」
「ひゃっ!?」
言われて意識をしたのか、恵は顔を赤らめ後ろを向く。
元ヤンとは思えない程可愛い声である。
後ろを向いたからか、ぴっちりとした水着でうまい具合に水着に乗った尻肉が真白の眼に入る。
「ぶふぉっ」
中学時代に購入した水着である。
高校生となった今着用すれば、サイズが合わないのは当然でもあった。
動いたからと破れるわけではないだろうが、ぴちぴち感は否めない。
男女が合流する少し前、女子更衣室では……
「めぐめぐ、なにしてんの。」
「ん?あぁ、ちょっとした詰め物をな。」
そう言って恵は水着の中に何かを押し込もうとしていた。
「パッド長とでも呼ばれたいの?無駄な努力はするだけ無駄よ。」
辛辣な澪の言葉であるが、それはブーメランでもある。
とはいえ、澪は諦めてパッドなどは入れていない。
その代わり、胸元にヒラヒラとしたものがついており、貧乳をごまかそうという努力は見てとれた。
「あーあーーー、せ、せめて1枚くらいは入れさせてくれ。」
「だぁめだって。そもそも元ヤンなのに体育の授業でスク水って何なのよ。」
「いや、だって見られるだろーが。ぺったん娘って言われるだろーが。それにプールがある事すっかり忘れてて家中探したらコレしかなかったんだって。」
「一度着てみたら入ったし、まぁ良いかなって。水に入ったらどうせ対して見えないし。」
「去年体育祭でおんぶされてる時に胸の事はバレてるでしょ。」
この瞬間、恵は全てを諦めた。
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