第78話 夏予選決定と新名物、桜高校3大地獄
「台湾4000年の由緒正しきトレーニングと肉体改造です。」
「いやいや、台湾にそこまで長い歴史ないし。」
「そもそも中国3000年だか4000年だかも、何かの漫画でネタとして使われたものが勝手に浸透しただけだし。」
オウカたん……新マネージャーである王が怪しいドリンクを部員全員に配る。
その激まず……独特な味をするドリンクは、様々な滋養強壮とか筋肉向上とかの成分が入っていると力説して、とりあえず渋々と部員達は飲んでいた。
王がマネージャーとして参加する日は毎日である。
そして、どこぞのダイエットCMも顔負けの筋トレが練習に加算されれいた。
「中学バスケ部時代、これで私達の筋力とか運動能力は向上してます。ちゃんと効果は実証済です。」
事実、中学時代には万年弱小と言われていた地元中学が、県大会上位に食い込むまでに成長していた。
ただし、それがドリンクとトレーニングの効果であると立証するにはサンプルが少ない。
監督やコーチが変わらず、生徒も3年が抜け1年が入りと、他校と同じように選手が入れ替わってるだけであるため、それらの効果であるかもしれないとも、生徒達は思っていた。
「大丈夫です。綾しい……怪しい成分とか、非合法なものは全然含まれてませんので。」
そうして新たに加わったやべぇドリンクときっついトレーニングにより、6月上旬から個人の底上げが進行していた。
恐らくは上位強豪校であれば、当たり前のように行われているこのなのかもしれないが、弱小校であればそれは画期的な事なのかもしれない。
「まぁ、たった一ヶ月足らずだけど、握力が少し上がった気がする。」
「そういえば、少しだけ足が速くなったような?」
病は気からともいうように、それは微々たる効果かもしれないが、個人の肉体レベルの向上はちょっとしたところで現れていた。
6月下旬、この日は部活動は早々に切り上げられた。
午後1時から夏の予選、組み合わせ抽選会が行われるからである。
そのため午前中に軽く2時間程の練習を終えたのち、監督である吉田と部長、それから首相である八百が会場である浦宮市へと向かわなければならない。
残された部員達は、教師の了承の元視聴覚室にあるテレビにて、組み合わせ抽選会の模様を見学する。
そして組み合わせが決定した瞬間様々な声が漏れだした。
それから2時間もしないうちに八百達は学校へと戻ってくる。
結果を報告するためである。
「なぁ、八百……お前くじ運無さ過ぎだろう。将来絶対にギャンブルはするなよ?」
「仕方ないだろ、くじを引くのはキャプテンなんだから。だったら文句を言ったお前らがキャプテンやれば良いだろう。ほら、選手宣誓も出来るかも知れんぞ。」
「それなー。」
「遠慮しておく。なんせその選手宣誓もお前だもんなー。」
「結婚式の挨拶より緊張するっ!結婚してないけどっ。」
学校へ戻った八百と監督である吉田は、組み合わせ抽選の結果を報告した。
尤も、抽選会の様子は、地元テレビ局によって生中継されているため、他部員達も初戦の相手等は既に知っているのだが。
「しっかし、まさか春の地区予選と同じになるなんてなー。」
「白丘や河口みたいに金星キラーになろうぜ。」
「いや、日本語として金星キラーはおかしい。金星取った相手を倒しまくってるなら別だけど。」
【大会四日目 7月×日(土)県営浦宮球場 第二試合 華咲徳春(第二シード) 対 桜 10時30分開始予定 サイタマテレビ放送予定】
「サイテレ君はたまごだぞ♪」
部員の誰かが笑うしかないといった感じで漏らした。
サイタマテレビではお馴染みの、サイテレ君の歌である。
「現実逃避してんじゃねー。これから地獄の特訓だー!」
最後に種田恵の怒号があたりに響いた。
組み合わせ決定の瞬間よりビビった様子の野球部員一同であった。
「今日の練習は午前で終わりのはずじゃ……」
「諦めろ。」
「実はこの部で一番熱いのは、あのマネージャー様だ。」
「いや、本当。女子も一緒に大会に参加出来るか種田が男だったらなぁ。カブレラ・ブライアント・ローズのような最恐のクリーンアップが形成できるのに。」
「いや、アレはガルベスだろ。ピッチャーだけど。」
「おまっ、聞こえてたら殺されるぞ。」
「それに、種田が男だったら最初から野球やってないって。」
「どゆこと?」
「そりゃ、
その言葉には語弊があり、マネージャーをやる事になったのは確かに柊真白がいるからではあるが、マネージャーをやるにあたって猛勉強していたのである。
運動能力は持ち前のものであるが、ノック等の猛シゴキは、その勉強の成果であるのだが……
1年生や、野球部に属さない他の生徒が知る由もなかった。
そしてそれらの勉強は、旦那と称される柊真白や、今や親友とも言っていい朝倉澪達のおかげでもあった。
「ん?俺は別に練習構わないぞ。先に戦うか後に戦うかの違いだろ?水凪とやりたければ決勝に行くしかないんだし。」
「確かにそうですね。昨夏の借りを返すにはそこまでいかなければいけませんし。」
壇ノ浦が真白に続いた。昨年抑えられた悔しさは何も柊真白だけのものではない。
弱小には弱小なりに悔しさや後悔、次こそはという発奮は存在する。
それが、ポッと出のラッキーパンチで勝ち進んだと思われていても。
「それじゃ、ノック組は種田先輩、筋トレ組はオウカたん、奪取……ダッシュ組は私、塩田が担当します。」
種田恵の地獄のノック以外に、毒ドリンクと筋トレのオウザップ、ダッシュ地獄巡りの塩田として3大地獄巡りが桜高校には存在していた。
本人に野球経験はなくとも、父から受け継いだ知識と、コスプレのために原作をと読んできた野球漫画の知識の総動員。
塩田糖子は知識と指導の鬼後輩と化していた。
「お、俺の出番と威厳は……」
吉田監督がさんさんと照らす太陽を夕日に見立てて、寂しそうに呟いた。
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