第77話 新入部員と新マネージャーの入部時の話

 

 5月の合宿が終わり、GWという大型連休が明けると、野球部に新たな仲間が加わった。


「神奈川の中学出身で奥津道吾おくつ どうご、経験は部活程度です。主にセカンドとショートでした。たまにピッチャーもやりましたが、威張れるようなものはありません。」


 中学時代には3年間の部活動の公式戦だけで30本のホームランを放っており、壇ノ浦同様大型のスラッガータイプであり、守備位置が被っていたりするが得点力向上が見込めるタイプだった。


塩原春乃しおばら はるのです。母がイタリア人でハーフで栃木の温泉地が実家です。小中とピッチャーやってました。青八木選手が理想です。」


 塩原の言う青八木選手とは、38年振りにAREのAREを達成した関西球団のサイドスローの投手で、塩原自身打たせて捕るような軟投派である。



 2ヶ月で急に投手経験がある新入部員が増えた桜高校。


 単純に真白達3年が抜けても来年のメンバーとしてはどうにかなりそうなところまで来ていた。


 二人の入部が遅れたのには理由がある。


 当初自分の実力では甲子園は無理だろうと、そもそも高校での野球は諦めて桜高校に入学していた。


 しかし、1年生という事もあり、春の地区予選を半ば強制で応援へと駆り出された際に、野球部の姿を見て自分達の野球熱が再燃したのである。


 口には出さないが、【俺達が野球部を強くする】の闘志を、遅れながらも表に出してきたという事だった。


 なお、今年度からは時代の変化もあって、必ずしも何かしらの部活動に入らなければならないという事はなくなっている。


 


 そして新部員に二人は恒例の種田恵の鬼ノックで地獄を見る事となる。



「俺達も先月通って来た道だ。」


「お前らも頑張れ、いつかこれが普通のノックに感じる……らしいぞ。」


「あと、マネージャー二人には手を出すなよ?片方は元ヤン、片方は既に彼氏ありだ。」


 村山の兄、弟、朝倉と順にアドバイスを施していた。


 


 そしてさらに約1ヶ月が過ぎ、最初の中間テストを乗り切った6月の中旬。


 半月と少しもすれば夏の大会を控えるというこの時期に更なる新部員……正確には新たなマネージャーが二人入部してくる。


 一人は元バスケ部で、そのバスケ部を辞めて野球部のマネージャーとして入部してきていた。


 虐めや乱痴気騒ぎ等不名誉な事があって辞めたわけではなく、単純に自分の限界を感じたからバスケ部は辞めたとの事だった。


 身長があまりにも低く、体力的にはともかく、続けていくのは無理と判断したとの事だった。


「元バスケ部、地元桜東中出身で台湾人の母を持つハーフの王香丹おう かたんです。萌えキャラっぽく【オウカたん】とか【ワンたん】とか渾名を付けられてます。野球経験はありませんが、父が野球をやっていたのでルールとかは知ってます。」



塩田糖子しおた とうこです。砂糖と塩みたいな名前で申し訳ありません。漫画研究部との兼部となりますが、よろしくお願いします。」


 塩田は中学時代から同人活動をしており、JCコスプレイヤーからJKコスプレイヤーへと変身を遂げている。


 ただし、その事は同級生始め学校には内緒にしている。あくまで漫画研究部としての活動しか表に出してはいない。


 野球の経験はないが、父親がやはり野球経験者であり、同人活動という面からも野球系BL漫画も嗜んでいる。そのため知識はそこそこに持っていた。


 動機は夏の即売会のネタ集め……とも言えないが、強制的に参加させられた春の地区予選を見ていて野球部の近くで見ていたいと思ったからであった。


 しかし、脳内で部員の誰と誰が……なんて妄想もしており、本命の動機が何かなんて事は周囲は知らぬが仏であった。



「夏の予選までは時間が少ない。これ以上のメンバー変更はチームとして機能しないだろうし、この14人で戦い抜けるようやってくぞ!」


 出番の少なかった吉田監督が檄を入れた。



「私らのマスコット度がこれで分散されるね。」


 澪がボソッと漏らした。

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