第76話 春季地区予選と新部員と新マネージャー
四月末、早々に春季高校野球大会は始まった。
新部員が入り、正真正銘新チームとしての初めての大会である。
結果だけ見れば、優勝は水凪を中心に更なる纏まりを得た山神学園が、準優勝には優勝候補No1の前評判通りの浦宮学院。
ベスト4には初戦で真白達の桜高校を破った華咲徳春と古豪の所澤商業だった。
なお、桜高校の対華咲徳春戦の開幕オーダーはこうである。
1番二塁 白銀 3年 右両
2番左翼 朱堂 3年 右右
3番捕手 八百 3年 右右
4番遊撃 壇之浦 2年 右右
5番三塁 柊真白 3年 右右
6番一塁 小倉 2年 右右
7番中堅 村山兄 1年 右右
8番右翼 卯月 3年 左左
9番投手 村山弟 1年 左左
投手リレーは村山弟(2)→村山兄(2)→朝倉(2)→卯月(2)→山田(1)と山田は9回1イニングだが他は2イニングずつの交代だった。
1年に高校の大会慣れをさせるという意味で、途中出場の朝倉こそ全イニングではないが、投手交代の折りでも他の守備位置に残り9回まで戦っている。
試合結果は2-6。壇ノ浦のソロホームランと真白のタイムリーヒットの1点である。
例年であれば5回コールド負けを喫するカードだけに、善戦した事は見て取れた。
新聞やニュースで結果だけしか見ない人にはわからない好ゲームだった事も証明出来ている。
しかし初戦敗退という事で、昨夏の結果がまぐれなのか実力なのかラッキーパンチなのかは判断つき辛い結果でもあった。
ダークホースなるか?という見出しを冠するには、相手が華咲徳春とはいえ判断に困る初戦敗退。
ただし、試合を生で見ていれば数字以上のものがある事があった。
両チームノーエラーは数字として表れている。
桜高校との初戦は調整登板と取られなくはないが、プロのスカウトも注目されている華咲徳春のエースから2点を取っている。
「試合には負けたけど、仮想水凪としては良かったな。」
昨夏とはフォームを変えた水凪。出所がわかり辛い変則スリークォーターからノーワインドのややオーバースロー気味になっていた。
速度は上がり、右打者の内側に切れ込むクロスファイヤーはさらにえぐいものとなっていた。
左打者も対角に突き刺さる真っ直ぐや、逃げるように曲がるカーブやスライダーは簡単には捉えられそうにない。
そんな水凪を見据えた華咲徳春のエースは、仮想水凪を体現するかのようなフォームと球種だった。
「まだ色々足りてないって事がわかったしな。」
夏の大会に向けての仮想水凪はチーム内にも存在していた。
新入部員の村山磊砥である。卯月はスリークオーターからややサイド気味なので少し違う。
制球力や球速は劣るものの、フォームや変化球に関しては似たものを持っていた。
鋭いスライダーにタイミングを逸らすチェンジアップ、突き刺さるようなクロスファイヤーは似て非なるものだった。
真っ直ぐの球速こそ5~10Km/h程の差異があるため、完全再現とまではいかない。
それでも、昨年の仮を返すには村山磊砥の加入は大きな前進であった。
4月は守備力強化のため、恵による鬼ノックと体力作りが中心だった。
それに合わせて内野の守備や、外野からの連携を強化。
そして早々に負けたため、5月初旬が空いたのである。
つまりは野球部最初の合宿が……
4泊5日で行われたのである。
流石に遠出するわけにもいかず、同じ関東地区が集まる合同練習と練習試合。
春季大会に残るような強豪はそうそう集まらないが、中堅ところの学校は参加しているので、夏に向けた良い訓練となる。
上だけを見ていると足を掬われる。
高校野球はプロ以上に何が起こるかわからない。
強豪ばかりに目が行くと、目の前の試合を落とすなんて事は良くある話でもあった。
山神学園をはじめ、各都道府県で優勝準優勝のチームは関東大会に出場している。
その間に、他校は夏へ向けての各校は始動しているのだった。
「あいつらの恋愛事情は始まってるのかわからないけどな。」
八百がぽろりと漏らす。
端から見ているとやきもきするのだろう。
夏は悔しさから胸元に頭を擦り付けて涙を流した柊真白と、いつのまにかどもり癖の治っていた元ヤン種田恵の関係は一向に進んでいない。
「我が校に伝わる伝説でも、あの二人には足りないというのかしらね。」
八百の呟きに返す、彼女である澪の言葉。
「後は最後の伝説の樹の下で告白するだけだっけ、あの二人。」
「そうね。元々知らずに伝説の6つをこなしてただけって説もあるけど。」
「元ヤンの種田が図書室で勉強なんてハードル高い内容なんだけどなぁ。」
「かなり早い段階でクリアしてるんだよね、その伝説。確か1年の時だっけ、めぐめぐから聞いてはいるけど。」
落第も視野に入っていた1年の初旬、柊真白は種田恵に勉強を教える事になった事件がある。
半ば冤罪というかとばっちりだった恵は、中学時代の元ヤン事情のため勘違いされる事が多かった。
それは親友の小倉七虹にも同じ事は言えるのだが、恵よりは七虹の方が世渡りは上手だった。
テストを乗り切るために、偶然真白が恵を教える機会があった。
その時の縁が図書室での勉強だった。
「そういう事を友人に話せるのに、なんで自分の恋心には気付かないんだろうな、あの元ヤン……」
「そういうのを本人の前で話したら、あんた釘バットでケツバット喰らうと思うよ?」
「女の子がケツバットとか言わない!」
ノックを打つ恵とそれを受ける真白の練習を、遠巻きに見ているキャプテンの八百とマネージャーの澪の二人だった。
「柊と種田のラブコメ、最近全然見てないよな。」
最後に漏らした八百の言葉が、澪には面白おかしく聞こえていた。
そしてGW明けに新たに二人の新入部員が入部、さらには6月中旬には最初の中間テストを終えた桜高校野球部に新たな激震が走る。
なんと、二人の女子マネージャーが入部をしてきたのである。
台湾とのハーフでる元女子バスケ部の
特に後者はこういうシリアスになりかけた野球部には不要と思われる女子マネージャー達は、真白達最後の夏にどういう影響を与えるのか。
なお、相性はオウカたん、ワンたんという、一時期ヲタク達が可愛い娘に〇〇たんと付けていたようなものであった。
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