第73話 先輩達の卒業・春休み
3年である安堂、片岡、小泉、小山の4人が引退した。
部活動としては秋の大会の出場が叶わなかった時点で事実上の引退であったのだが、不完全燃焼ということもあり、またマネージャーでもある種田恵の言葉もあり、練習は3学期になっても付き合ってくれていた。
そして世間がチョコで甘々な時期を送ったであろう14日の後、日曜日を利用して近隣の学校と引退試合を行った。
普段は控えに甘んじていた片岡も先発メンバーとして出場した。
引退試合に応じてくれたのは、同じ町にある昨年まで同じように万年初戦敗退してしまう程で強豪というわけではないが、これまた同じように最後にもう1試合出来るからと喜んで引き受けた。
試合結果は桜高校の圧勝と終わったが、両校の3年は笑顔で試合終了の礼をする事が出来た。
桜高校が急激に強くなったのは、現在の1・2年生だという事は3年もわかっていた。
そして一番の理由は他にあった。
柊真白が連れてきた逸材……この夏の大会ノーエラーで終わる事が出来た立役者、鬼ノッカーこと種田恵の存在である。
「先輩達の悔しさも、楽しさも来年俺達が、新しく入って来る新1年達と共に生かして大きな目標に向かいますっ!」
新キャプテンとなった八百が去り行く3年生達に向かって叫んだ。それに続いて在校生達も深々と頭を下げた。
「気にするなよ。お前らも楽しんで野球をやれ。今年いくつか勝った事は糧にもなるし慢心にもなる。次の1年間はお前達のもんだ。」
3年生はとても晴れやかな表情をしていた。それは3年間やりきったというとても清々しいものであった。
「一つ残念なのは、せっかく女子マネージャーが出来たのに、誰とも良い関係になれなかった事かな。」
去り際に本気か冗談かわからない言葉を残してグラウンドを去っていった。
そんな3年生を在校生達はただ見送っていた。良い事言った後なのに台無しにして……ではなく。
回れ右をした3年達の肩が震えていたのが目に見えていたからだ。
真白達からは見えないが、4人の3年生達は皆、先程の笑顔とは真逆に涙を流して悔しがっていた。
半年以上が経過しても悔しさは残り、3年間の想い出が脳裏を過ぎっていたからだ。
弱小校として直ぐに終わってしまっていたこれまでの全ての大会。
それを今のメンバーで漸く勝つ喜びを覚えて、一つでも多く試合をしたいという欲。
もうこのメンバーで試合をする事が出来ない事。
大学へ進む者、社会に出る者、様々であるが、同じユニフォームを着て同じ白球を追う事はもう終わってしまったんだという虚無感。
分かっているからこそ、背中に向かってかける言葉が見つからない。
だからこそ最後にもう一度……
「3年間お疲れさまでしたッ。1年間・2年間、ありがとうございましたッ!」
在校生達は、4人の3年生の背中に向かって大きな声でお礼を伝えた。
こんなどこにでもあるような、ただの引退試合を見ていた中学生が数人いた。
近所の中学の生徒だろうか、試合も最後の挨拶もただ黙ってその様子を眺めていた。
3年生が卒業式を終え、2週間もすると在校生達も終業式を迎える。
そして2週間の春休みを経て、それぞれが新しい学年、クラスへと進む。
学年が変わるとクラスも変わるため、多くの宿題が出される事はない。
軽く復習をする程度の量であり、その気になれば1日で終わってしまう。
野球浸けだった真白は、最初の1日を完全休養に当て、3日で宿題を終わらせた。
「で、なんで俺の家に集まってるんだ?」
声の主は八百である。そしてその周辺には真白と恵、澪、白銀が集まっていた。
「ん?冷房が効いていて、大きなテレビがあって、親が寛大なのが八百の家ってだけだ。」
答えたのは真白である。そしてテレビ画面には開会式を終え、センバツ高校野球大会の大会初日第一試合がまもなく始まろうとしていた。
「だからってなんで澪以外が……」
「甲子園に偵察に行くだけのお金はないから、画面を通して研究しようかと思って、めぐを呼んだの。」
「さささ、流石に男子の家に行くのに女だけってのは問題があああ、あるだろ。だだ、だから真白も呼んだ。」
「久しぶりに聞いたな。恵のどもり口調。」
「なんだテメー。やんのかコラァ!」
直ぐに最近の口調に戻っていた。野球部の一員となり真白始め様々な男子と会話をした事で、恵の真白に対する口調はかなり改善していたのである。
澪が見るに、恵がどもってしまうのは対真白だけなので、口には出さないが理由は直ぐに分かっていた。
「ほらほら、試合始まっちゃうよ。夫婦喧嘩は後にして、
「誰が夫婦喧嘩だー!」×2
試合開始のサイレンが鳴り響く中、夏の大会決勝戦で桜高校を破った宿敵、山神学園の試合が始まった。
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