第70話 初詣
(甲子園に優勝できますように。)
二礼二拍手一礼している最中、真白は住所と名前とお礼を3回心の中で願った後、最後に希望をお願いした。
その横では同じ動作をしている恵の姿もあった。
真白と恵の初詣デート……というわけではない。
八百と白銀、澪と七虹もこの場には存在した。
4人1列になってくださいという事だったので、他の4人は先にお参りを済ませていたのである。
なお、ここに至るまでにはい色々と修羅場のようなものがあった。
まずはこの6人で初詣をするに至ったのは……
「よし、初詣に行って昨年のお礼と来年の抱負を神様に伝えよう!もちろん女子は巫女服……じゃない、着物で!」
という、マネージャ―である朝倉澪からの連絡でこのメンバーが集められた。
「なお、断ると恥ずかしいクリスマスの事を周囲に言いふらします。」という澪からの脅迫付きで。
真白はどの事を指しているのかは判断出来なかったが、思い当たる節がないわけでもないのでその言葉に従った。
そして集まったメンバーがこの6人というわけである。
一見関係の薄そうな七虹と白銀であるが、七虹は先日の買出しや合宿の件もあり二つ返事で承諾。
白銀は無害そうという事で澪によって声をかけられ、あっさりと承諾したというわけである。
当人同士は否定をするだろうけれど、真白と恵はカップル扱い、八百と澪はカップル、七虹一人をあぶらせるのも悪いと思った澪の配慮である。
ちなみに偶然であるが、合宿の時七虹が用意したプレゼントは白銀の元へ行っている。
合流した時に白銀から七虹に質問があった。
「このマッサージ券10枚って……」
「ボディとフット40分・20分のコースのみだけど、練習や試合のケアってやつだな。」
マネージャーではないが、合宿の時は臨時マネージャーとして帯同していた七虹である。
七虹なりに野球部の力になろうとしている現れであった。
そして男性陣からの女性陣への賛美の言葉があって、初詣というわけである。
元ヤンキーだからか、着物姿が様になっている恵と七虹であった。
「
同じ女性である澪の感想である。
「可愛いとか綺麗とか似合ってるってのが通例じゃないのか?」
真白のその言葉は、自分が言われたものだと思い照れている恵であるが、澪はそこでちっちっちと人差し指を振る。
「同じ女性だから何を言っても褒め言葉なんだよ。実際カッコいいでしょ。」
「確かに
今褒めたのはマッサージ券保有の白銀である。
「おだてても何も出ないよ。」
言葉を返したのはもう一人の元ヤン・小倉七虹だったが、その顔には若干の照れ模様が浮かんでいた。
初詣が終わった6人は一斉におみくじを引いた。
「おっ大吉。」
八百が広げたおみくじを皆に見せる。
「吉……だな。」
八百と七虹が大吉、真白と恵が吉、澪が中吉、白銀が末吉だった。
神社によって吉と中吉の位置は異なるので、解釈は人それぞれで良いだろうという事になった。
「待ち人来たる……ね。」
七虹が呟いた。
「今日は凶や大凶がなかった……な?」
「さぶっ」×5
八百のボケに5人がツッコミを入れた。
この場にだけつむじ風が吹いた。
「っ」
「履きなれない下駄のせいか、踵やっちまったみてぇだ。」
「柊君、ここは魅せどころだよ。」
おんぶのジェスチャーで澪が真白を煽る。
「体育祭でもやってるんだから今更でしょ。」
今でしょ、のノリで澪がさらに煽る。
七虹が持参していた絆創膏を恵の踵に貼っていた。
「ほれ。」
真白は恵の前でしゃがむと、背中におぶされとジェスチャーをする。
「ばっ、そんな痛くもねぇ。そ、それに人前で恥ずかしすぎにゃ……」
恥ずかしくなるとたまにバイト先の言葉が出てしまう恵である。
にゃんこ言葉の方が恥ずかしいと思うのが一般的な意見だと思われるが、噛んでしまう要領でのにゃんこ言葉なのだから仕方がないのかもしれない。
「そのまま歩き辛そうにするのを見る方が嫌なんだよ。それに、クリスマスのアレ。貰いすぎな気もするしな、何かでバランスを取らせてくれ。」
クリスマスの~で察した澪がにやにやとしていた。
バツの悪そうな表情をしながらも恵は真白の背におぶさった。
「お姫様抱っこじゃないのか~」
澪の残念そうな声が漏れていたが、真白以外には聞こえていない。
「鬼の恵が随分と可愛らしくなったもんだ。」
七虹が煽っていたが、恵は真白の後頭部に顔を埋めて周知に悶える姿を晒す事はなかった。
恵の怪我もあってか、野球部の初詣はお開きとなった。
「じゃぁ俺達は帰るな。」
八百と澪は白銀を連れて帰って行った。
裾から生足が見えないよう工夫をしながら、七虹の案内で真白は恵をおぶって家の前まで運んだ。
おみくじのとある欄には、「思いがけないサプライズがあるでしょう。」と書かれていたのを恵は思い出す。
そして、「気になる人との急接近。」と書いてあったのを真白は思い出していた。
「悪いな。」
「いや……」
恵なりのお礼で、真白なりの返しは、それ以上何を言っていいのかわからない二人特有のものだった。
当人同士の間では、「ありがとう。」「どういたしまして。」と伝わっているのである。
「あの……そろそろ下ろしてくんないか?」
「あぁ……」
名残惜しそうに真白はしゃがみ、ゆっくりと恵を下ろした。
手に残る着物越しの太腿の感触と、背中に感じていたない胸の感触と、首元にときたま拭きかかる恵の呼吸の吐息とを思い出しながら。
「き、きちんと消毒して安静にしとけよ?」
「あ、うん。」
素直に返事をする恵に注意をして、真白はそのまま帰路につく。
「何もイベントが起こらなかったな。」
若干澪に感化された七虹の呟きが響いた。
恵の頬が赤いのは太陽の光のせいではないのだが、もはやその程度では満たされない周囲の面々だった。
「部屋に招き入れるにはまだ時間が必要か。」
真白からバトンを渡された七虹が、恵に肩をかしながら呟いた。
「イベントなら起きたじゃないか。着物でおんぶとか普通ないだろ。そ、その、太腿とか触られてるし。」
随分とお可愛いことで、と七虹は内心でツッコミを入れていた。
「実際の所、柊の事はどう思ってるんだ?これまで色々な事があって、何とも思ってませんて事はないでしょ?」
「……」
ぱくぱくと口を開いた恵の言葉は、辛うじて七虹に届く程のか弱いものだった。
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