第69話 クリスマスに怒りをぶつけろ球児達
12月25日、合宿の締めに練習試合が組まれていた。
吉田監督にどういうツテやコネがあるのかは不明であるが、埼玉県に置いて東部地区No1とも言える華咲徳春高校との練習試合が組み込まれていた。
2軍や控え相手ではない。80人程いる華咲であるが、公式戦に出てくるレギュラーメンバーである。
華咲徳春高校は、秋は残念ながら関東大会には出られなかったものの、県大会ベスト4であった。
彼女のいない男子達の怨嗟なのか、両チームとも若干怒りに任せてバットを振るせいか思わぬ乱打戦になっていた。
甲子園に何度も出場した事のある学校であっても、全員に彼女がいるわけではない。
ましてやマネージャーとなんて、そうそう浮いた良い関係になれるとは限らない。
そして試合内容は、何度も甲子園に出ている学校と弱小校の練習試合かという結果となった。
試合結果としては7-9と桜高校の敗戦となったが、クリスマスをぶっ壊せ!というスローガンの元行った練習試合は良い息抜きとなったのである。
華咲の監督は独身で彼女なしなのである。このスローガンに実は一番乗り気だったのは監督であったが、表情や態度には出してはいない。
相手の華咲にしても、夏と秋に悔しい思いをしているので、例えまぐれの夏準優勝の桜高校であっても、今倒した事は春に繋げる良い布石となったのである。
両監督の計らいで試合後の焼肉パーティが行われる。
勿論校長の許可は得ていた。
部員80人超の華咲と10人ちょいの桜、マネージャーや監督コーチ等を含めた100人超の焼肉はあっという間に平らげられていく。
その中でも男子顔負けの勢いで消化していくのが元ヤンコンビの種田恵と小倉七虹であった。
「そっちの女子すげぇな。うちの大食漢と同じくらい食ってるじゃんか。」
先程勝ち越しホームランを打った、華咲の7番バッターを務めていた
大子が目線を自分のチームメイトである、100kg超えてるだろうなという選手をチラ見しながら説明していた。
「まぁ、元ヤンだしな。」
その話を聞いていた真白が答えた。
「元ヤン関係ある?まぁ元ヤンがベジタリアンよりはイメージ通りだけど。」
なお、あれだけ力任せに強振が目立った両チームではあるが、エラーはゼロである。
「こう言っちゃ失礼だけど、昨年まで全く勝てなかったチームがノーエラーって凄いよな。」
大子は続けて桜高校の守備を褒める。大子は夏の大会から今日の練習試合をも含めて言っていた。
「あぁ、鬼コーチ……あのマネージャーな。超強烈なノックするんだよ。罰のケツバットもフルスイングだしな。」
「そりゃ守備上手くもなるか。」
「あぁ、届きそうで届かないようなとこに打ったりとかな。嫌でも鍛えられた。」
大子はそのノックの姿を想像したのか、ブルブルと首を震わせていた。
「あとな。あいつ、バッティングセンターのホームラン競争、俺と同じ数だけ打ってるんだ。鬼怖ぇだろ?」
今の言葉を聞いた大子の目が横一線の呆れたものへと変わる。
「それは……なんかラブラブだな。」
「なんでそうなる。」
「いや、ご馳走様。」
それだけ言って大子は席を離れ別の場所へと移動する。
「円もたけなわではございますが……」
主催でもある吉田監督の挨拶が始まる。
両主将の「春の東部地区大会でまた戦おうぜ」という言葉で締めくくって、焼肉パーティは終焉を迎えた。
合宿が終わり、陽が落ちる前には自宅へ帰還する生徒達。
寄り道をする事なく、全員が帰路についた。
都心部の人間が言う程田舎ではないため、帰り道にカラオケや駄菓子屋へ寄る……などという事はなかった。
「な、なんだこれ!?」
「にゃ、にゃんだこれ!?」
家に着いた真白と恵は、荷物を片付けひと段落した後互いに贈り合ったプレゼントの包みを開封した。
その中に入っていたモノを見て互いに叫ばずにはいられなかった。
「あの時の店員の笑みはこれだったのか!」
真白は商品を引き取りに行った時の店員の微妙な笑みを覚えていた。
真白が持つ手には「柊真白」という名前が刺繍されたグローブ。
それも二つ……野手用と投手用であった。
そして恵が持つ手には「種田恵」という名前が刺繍された左利き用のグローブ。
ただし、通常女子に贈るクリスマスプレゼントではない。
しかし真白と恵の関係においてはこれが妥当と言わざるを得ない。
洒落たモノを選ぶ眼力も、洒落たモノを贈る度胸も二人には存在しない。
朝倉澪の見立てた通り、野球用品であれば受け取るだろうという眼力。
その見立て通り受け取った二人であるが、二人が悶絶する所まで想定済であった事は澪のみぞ知るというところである。
「しかもジャストフィットしてる!」
「しかもピッタリじゃねぇか!」
試しに嵌めてみた二人の感想もまた、場所を
「今頃息ピッタリな一人ツッコミでもしてるんだろうな~。」
にまにましている朝倉澪の姿が自室で漏れていた。
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