第65話 クリスマスイヴに泊まり込みの合宿を決めたヤツは誰だ
「テスト……終わった。これで冬の合宿に行ける……」
脱力したのは種田恵。ぐでーっと上半身を突っ伏して机に頭を埋めた。
期末テストを無事に乗り切れば冬休みが待っている。
冬休みには短いながらも合宿が待っていた。
しかし冬休み始めには何かイベントがある事を失念してはいけない。
そう、クリスマスイヴである。可哀想なくらいクリスマス当日は忘れられてしまうが、一番盛り上がるのはクリスマスイヴなのである。
大人達はめくりめく官能の世界へ。
高校生は……節度を守って、それぞれの24日を満喫するのである。
真白や他の野球部員達は秋にぶつけられなかった試合への鬱憤を合宿と練習試合にぶつけようというのであった。
そこに立ちはだかるのが学生の本分である勉強……つまりは直前の期末テストとその結果である。
「めぐめぐはどうだった?」
突っ伏した恵に声を掛けてきたのはもう一人の野球部マネージャー朝倉澪。
「ぼちぼちかな。優秀な参謀が教えてくれたから赤点はない……と思う。」
事前に期末テスト対策を野球部の面々で行っていた。
何だかんだと面倒見の良い真白だけでなく、八百や白銀や澪も一緒になって期末テスト対策をしていたのである。
そのかいあってか、あくまで自己の感覚としては赤点補習はないだろうという出来栄えであった。
「というか、めぐめぐってなんだよ。」
恵が澪に問いかける。先日の期末テスト対策の時から澪が恵の事をめぐめぐと呼ぶようになっていた。
「親近感も持てるし、可愛いと思うんだけどなぁ。」
おどけたように澪は返した。恵が可愛いという言葉に赤面する事を知った上である。
「ばばっ、ばっかじゃねぇの。」
そのやり取りを見ていて、真白は「ふっ」と言葉にならない笑みと溜息を漏らした。
「赤点がなくて良かった。」
テストの答案が全て返ってきた時、恵は安堵の溜息を漏らしていた。
土日の関係上、終業式はクリスマスイヴではない。
23日なのである。つまりは大事な日には一日の猶予が与えられていた。
「合宿初日って24日でしょ。何かプレゼントとか用意したの?」
朝倉澪は隣を歩く種田恵に話を振った。
何気ない友人同士の他愛のない会話なのであるが、恵にはこの話題は面白おかしい話ではなかった。
「は?ぷりーぜんと?あ……?」
「これだから根が純情な乙女は……合宿初日は24日でしょ?誰が決めたのかはわからないけど、態々24日に合宿を決めたのかについは悪意を感じずにはいられないけれど。」
澪の言葉は彼氏持ちの女子や彼女持ちの男子には残酷なスケジュールなのである。
何が悲しくてクリスマスイヴに野球部の合宿を、それも泊まり込みで行わなければならないのか。
「それで……世間ではクリスマスイヴだけど、柊君に何も渡さないの?」
澪の言葉に赤面し、油の切れたロボットのように「ギギギ」と首をゆっくりと澪の方に顔を向ける恵。
「そんな事だと思った。合宿の用意も兼ねて、明日私と何か買いに行こ。」
恵はまだ電池の切れる寸前の時計の針のように「カチッカチッ」と首を小さく縦に振った。
「面白そうだね。私も便乗させてもらおうかな。」
どこから話を聞いていたのか、恵の永遠のライバル小倉七虹が仁王立ちして話に便乗してきていた。
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