第57話 種田聖子と姉妹丼、そして味噌汁毎日飲みたい発言。

 リビングでは真白と恵が並んで座っている。

 その正面では恵の姉・聖子が座っていた。


 姉の名前は直ぐに教えて貰っている。

 

 

☆ ☆ ☆


 「あら、恵も漸く男の子を連れ込むようになったのね。」

 真白が押し倒すような絵面にはなってるけど、倒れた襖や散乱したモノを見れば男女の関係と結び付けるには容易すぎる結論である。


 「ね、姉ちゃん……これは違う。違うんだ。」


 「何が違うのかな。私が連れ込んでいた時はグレて出ていっちゃってたのに。あ、私は恵の姉で聖子です。」

 ついでのように自己紹介をしていた。



 さりげなく爆弾を投下している事に姉は気付いているだろうか。

 もしかしたら恵がグレてヤンキーになったのは、姉が男を連れ込んで居場所がなかったからではないだろうかと。


 「とりあえず、少し話したいし聞きたいからリビングに集合で良いかしら。」


 有無を確認せずに姉・聖子は離れて行く。


 「と、とりあえず……物凄く恥ずかしいのでくれない……かっ」

 耐える恵の姿に違和感を覚える真白は、自分の手の感覚を確認する。


 「んっ、ちょっ、まっ。う、動かすなっ、揉むなっ。今ならノーカンにしてやっからっ。」


 どういうラッキースケベ的状況か、左肘は畳についている。

 右肘を見ると……恵の腹、臍付近に置かれている。

 右肘左肘を交互に見ると……


 「あ、ごめん。」

 素直に真白は謝った。


 右手は真白のない胸に置かれていた。

 世間にはおっぱい型マウスパットがあるが、そのマウスパットを掴むように真白は恵の甘食を覆っていた。


 「でも勉強の分の貸しはこれでチャラで良いよな?」

 「まぁ仕方ないな。寧ろ俺の方が貰いすぎな気がする。」


 後半は恵には聞こえない程度の小声だった。



☆ ☆ ☆


 リビングに着いた真白と恵は並んで座る。

 先程恵が座っていた場所には聖子が座っていたからだ。


 「それで……二人はナニをしていたのかな?」

 何がナニになっているのは勘違いをされている事がわかる。


 「私はめぐ……恵さんの同級生で野球部の柊真白と申します。今日はこの1週間のプリントを届けにきました。その流れで少し課題について勉強していたところです。」


 「固いね。」

 姉のダメ出しが入る。


 「固すぎるよ柊君。ここは結婚を前提にお付き合いさせていただいてますから始まるところでしょう。」

 姉は思いの外はっちゃけているのかも知れない。

 

 「ちょちょっ、ね、姉ちゃん!」

 恵の顔は真っ赤になっていた。

 真白の顔も少し赤みを帯びている。


 これまで特に意識しないなかった異性との男女の関係。

 周りはカップル認定していたかもしれないいが、当人同士は友達以上親友以上恋人未満の認識でしかない。

 互いに弱い部分を見せ合った事で前進はしているかも知れないが、恋人という言葉は認識していない。


 「そういえば、勉強と言っていたけれど去年恵に勉強教えていたのって……」


 「あぁ、私ですね。」


 「だから固いって。」


 「そういう事なら砕けますが……」


 「恵も地は悪いわけじゃないけど、あっさりそれなりの成績を残せたのも進級出来たのも貴方のおかげってことね。」

 「それに、最近イキイキしているのも貴方のおかげってわけね。」


 後半何を言ってるのかわからない真白だったが、恵は先程よりも真っ赤になってプルプルと震えていた。

 


 


 「そういえば……」

 そう言って真白は話始める。


 

 「見てはいけないと思ってはいても、見てしまったのですが……ベランダのあれって。」


 「私のものと恵のものと両方だよ。」

 聖子は爆弾を投下していた。


 先程真白が見たベランダの洗濯物……


 下着ではなかったが、ある意味ではそれをも超える代物が干されていた。


 「俺はヤンキーがヲタクでも良いと思うぞ。最近ではお台場での某イベントには見た目ヲタクには見えない人とか多いと聞くし。」

 実際チンピラだろと思える人とか、ホストだろと思えるような人まで多種多様な人達が参加している。

 それも一般、サークル問わず。


 つまりはコスプレ衣装が干されていたというわけだ。



 「バイト始めてからかしらね。恵が可愛いものに興味を持ったのは。中学時代人を殴る事しかしてなかった恵がねぇ……最近ではお菓子作りに余念がないし。」

 「その合間に筋トレとか素振りとかもしてるし……誰の影響かしらね?」

 そう言って聖子は真白を見やる。

 

 恵はガス欠した車のようにぷすんぷすんして放心していた。


 「昔は七虹ちゃんといっしょにプリ……ごっことかしていたからねぇ。」

 幼稚園児とかなら不思議はないだろう。

 その頃からやんちゃな子もいるだろうけれど、子供の頃はみんなやる子と成す事可愛いものである。


 「これ、姉妹で宅コスした時の写真ね。」

 スマートフォンを取り出し、慣れた手つきで操作をする。

 見せられた写真は……


 「意外にもノリノリでポーズ決めてるな。」


 「でしょう?」


 真白と聖子の距離が縮まった。


 「な、なにをするきさまらーーーーー!」

 「うわーーー、やめれーーーーー!」

 恵が画面に手を置いて塞いでしまう。


 「まぁなんだ。似合ってて可愛いと思うぞ。」


 「あ、タラシだ。」

 聖子が何やら呟いていた。



☆ ☆ ☆


 「どうしてこうなった!?」


 只今真白は種田家で夕飯を待っている。


 「まぁまぁ。恵の勉強を見てくれてるって事でそのお礼と思えば。」

 聖子は真白を引き留めているように感じた。

 真白と恵のあれこれを聞き出したいかのような。


 

 「まぁ俺は一人暮らしですし、家で飯が待っているわけではないですが。」

 その言葉がある意味トドメだった。


 「それなら猶更食べていってちょうだい。」

 逃げ道を自分で潰してしまう真白だった。


 エプロン姿の恵と聖子を後ろから見ている。

 なんとも言えない光景だった。


 ちなみに聖子は恵の部屋でスーツからラフな格好に着替えている。

 

 

 真白の前には丼と味噌汁茶碗が並べられていた。

 もちろん恵と聖子の前にも同じものが並べられている。


 種田家の味噌汁は赤味噌のようだった。

 真白の好みも実は赤味噌であるが誰にも話してはいない。


 「これがある意味姉妹丼……」


 「流石にえっちぃのはいけないと思います。」

 聖子が何かのキャラのように言っている。 


 「普通の親子丼だけどな。」


 「お、美味いな。親子丼だけど姉妹丼。」


 「だから言い方がやらしいよ。」

 聖子のツッコミの先には18禁が待っている。

 

 「そういう事言う方がやらしいんだと思いますが?」

 真白のツッコミ返しももっともである。


 「そりゃあね。恵は元々出来る方ではあったけれど、最近は色々頑張ってるからねぇ。」


 「姉……それ以上は黙れ。」


 「おーこわ。」

 恥ずかしさの裏返しなのだが、聖子はそれを理解している。


 「やっぱり赤味噌の方が好きだな。」

 そこで真白は味噌汁の感想を述べた。

 赤白の好みは人それぞれなのでどちらが一概に良いというわけではない。

 

 真白は赤が好きというだけである。

 

 「毎日飲みたい?」

 聖子が聞いてくる。


 「どうせ飲むなら毎日赤ですね。」


 「だってさ、恵。」

 心のメモ帳に書いて保存して上書き禁止にしろと言っていた。


 姉に翻弄されながらも、3人の食事は終わりがやってくる。


 「美味かった。人が作ったのを食べるのは久しぶりだったけど。」

 真白は素直な感想を述べた。

 その言葉で少し顔を赤くする恵。

 マルコメ味噌の少年のようだと正面の聖子は思っていた。


 「お、おそまつさまでした。」



 「停学明けたらお弁当作ってあげれば?」

 聖子は何気ない爆弾をさらりと投下する。


 「流石にそれは申し訳ないでしょう。聞けば恵は日々色々大変そうだし。」


 周囲に対して恥ずかしいとかいう理由ではなかった。


 「それは柊君も一緒じゃないの?寧ろ勉強は恵より上だし、部活もメインみたいだし。」


 真白は両親から一定額を毎月貰っている。

 寮でもないところに一人暮らしをさせていて、光熱費も食費も小遣いも諸々貰っている。

 それもそのはず。実家の一軒家に住んで居るので家賃は掛からない。


 両親は……父親の長期出向で遠方に出ており、母はそれに付いて行っているだけなのだ。

 出向であるため、いずれ家には戻って来るのだけれど。


 そのため自分で作った弁当だったり、学食だったりと真白の昼事情はまちまちであった。


 食べ終わって暫く談笑していると、やがて恵が席を立った。

 片付けをするようだった。



 「流石に何もしないというわけにはいかないので、洗うのくらいはやらせてくれ。」

 

 「一応お客さんなわけだし良いよ。」

 恵は断るが真白は席を立つと台所に立った。

 

 「まぁ美味いもん食わせてもらった礼だと思ってくれ。」

 何気に料理を褒めている真白に、褒めて貰ったと自覚する恵。


 「そうか。あ、洗剤はそこな。」


 「おう。」


 「あたしにも洗剤くれ。」

 

 「あいよ。」

 真白は洗剤を手渡した。その際に手が触れるが、どちらも気にはしていない様子だった。


 結果的に真白と恵で並んで食器を洗っている。

 その様子を仲の良い新婚夫婦のようだなと見守っている姉・聖子だった。



 「鼻に泡ついてんぞ。」

 恵がそう言うと真白の鼻の泡を取ろうと指で掬う。


 「あ……余計についちった。」



 「オイコラ、何してんの?」


 その様子をやはりこいつら新婚夫婦だろという目線で聖子が見ていたのは語るまでもない。




 「今日は……ありがとな。」

 

 「いや、こちらこそ夕飯ご馳走になってるし俺の方こそありがとな。」



 もうお前ら結婚してしまえ……と聖子は思っていた。

 聖子の頭の中では、寧ろ恵には真白以外の男が今後横にいる未来は見えないとさえ感じていた。


 「やばいね。恵に先を越されてしまうかもしれない……」

 聖子は最後に痛恨の一撃を自らに入れていた。



 

 真白が訪問した翌日。

 土曜日なのでそれなりにぐうたらしていた種田姉妹の自宅に電話が掛かって来る。


 それは数日ではあるが、恵の停学が思いの外早く終了する事を告げる内容だった。

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