第47話 夏合宿福岡編③「マネージャー人気投票みたいなのはいけないと思います。」

 ファミ〇ンウォーズもゲーム〇ーイウォーズも出ないが、疲労と苦痛は出る。

 ランニングは前半の頑張りが功を奏したのか失敗したのかはわからないけれど、このペースで走れれば全員が時間以内に完走可能と思われていた。


 泳いで巌流島は流石に冗談だろうと選手達は思っているが、それに匹敵する罰ゲーム的なものはあるだろうと全員が踏んでいた。

 例えば……学校へ行こうのパクリで大声で何かを告白させるとか。

 

 どの学校の選手も元々レギュラーを張っていた者は早くゴールしていく。

 トップの選手から順に思い思いのマネージャーからタオルとドリンクを貰っている。


 これこそが一番の褒美であり罰ゲームな気がするのは、意中の人が本当にいる場合地獄である。


 ある意味では昔夜に流行った「付き合ってください」とって手を差し出す番組に通じるものがある。

 

 桜高校のトップは柊真白、壇之浦、白銀の3人だった。

 既に10人くらいがゴールをしている。どの選手も決して手を抜いているわけではない。

 やはり練習と試合をした後の長距離は肉体にも精神にも堪えるものだ。


 過剰練習と受け取るか、心身共に鍛えられるかはその心の持ちようで変わる。

 まもなく最後の直線、桜高校トップの3人がゴールに近づく。


 心なしか真白の走ってるライン側に恵が寄って行ったように澪は見えていた。

 

 真白は何気ない素振りで恵からタオルとドリンクを受け取った。

 「おう、ぐらしあす。」


 恐らく真白は何も深く考えてはいない。近くにいたから受け取ったつもりであろう。

 ただ、手渡した側の恵は「お、おう。お疲れ。」と言うと赤みを帯びた頬で照れていた。

 横で見ていた澪は、あれは夕陽のせいじゃないと思っていた。




 監督達は逐一チェックをしていたようだが、当の選手やマネージャー達は細かい結果などどうでも良かった。

 特にマネージャー達は自分が良いなと思ってる人が、自分のところにきてくれるかどうかが気になる点だったわけで。


 既に付き合ってる人達は全員が安堵しているようだったが……


 澪は端から見ていて、恵は福岡の人達には人気なんだなと感じていた。

 恵からノックを受けていたAチームに人気だった。

 福岡はドSかドMの両極端な人種しかいないのかと、監督が思っていたのは内緒の話。


 


 「甲子園で戦えると良いな。」

 桜高校キャプテン八百が笑顔で福岡の3校に向かってほほ笑んだ。

 八百はなんだかんだでキャプテンを引き受けていた。


 「お互いにな。最も俺達は互いに潰し合いしなければいけないから戦えるとしても1校だけだけどな。」

 夏であれば文字通り優勝した1校しか出場は出来ない。


 「春なら最高で3チーム行けるけどな。」

 地方大会主催県であれば3チームが県代表として九州大会に出場出来る。

 「あれ、今年は佐賀じゃなかったっけ?」


 「じゃぁ最高でも2チームだな。」


 「抑俺達県の中でもまず地区大会で潰し合う可能性もあるけどな。」


 「潰し合うのは俺達のサガなのか……」


 「それが俺達の……SAGAだから!!」

 一人違う事を言っているのがいるが、彼は華麗にスルーされていた。


 最後の一言を言ったのはノックで真白と一緒にサードで練習をしていた東〇の本渡君である。

 初日の昼食時にマネージャーが妖精だかアイドルだかと言っていた人物であった。


 各チームが握手をしたり挨拶をしたりしてそれぞれのバスへと乗り込んで行く。

 たった二日であったけれど、他校との……ましてや他県の球児と練習した事はそれぞれが糧となるはずだ。 



 ちなみにマネージャーランキングナンバー1は朝倉澪だった。ちゃっかり1番人気だった。

 福岡の人にとっては違う地方の女子が輝いて見えたのかもしれない。

 2位は東〇の妖精さん、3位は折尾の監督の娘さんだった。

 

 ノックで人気を集めた種田恵は、6位というラノベ的には面白くもなんともない順位だった。

 12人いるマネージャーの中でギリ上位なのだから誇っても良いのだけれど。


 1位じゃないとダメなんですかという言葉もある通りあまり気にしていない様子の恵だった。

 それよりも真白が受け取ったのだからそれで充分だと、無意識のうちに完結していた。



 「まったくどっちも素直に言えないんだから……これは七虹に報告だね。」

 澪の目がきらりん☆と輝いていた。


 明日は香椎のグラウンドで、最近は甲子園こそ遠ざかっているものの、スポーツ全般が盛んな東〇岡と合同練習となる。

 通常実現不可能な合同練習ではあるのだが、監督の営業トークが優れていたという事か。

 曲がりなりにも県大会準優勝が多少なりとも説得力となったのか。


 部員の半数が、誰のタオルとドリンク貰ったんだよ話で少し騒いでしまい、眠くなるまで廊下で正座させられたのは別の話。


 「なぁ柊、お前はやっぱ鬼姫のとこに行ったな。」

 八百の揶揄うような言葉に対して。


 「うっせ、早く寝ろ。明日は地獄だぞ多分。」

 照れを隠しながら布団にくるまる真白であった。


 非正座組は小声で話ながらそのまま就寝していた。


 「そういえば、白銀のやつ……朝倉から受け取る時手が触れて恥ずかしがってたな。」


 最後に誰かが爆弾を一つ投下していた。


――――――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。


 福岡編が思いの外話数を使っております。

 それでも恋愛関係も進みそうで進まないもどかしさもあるので、悶々としているのではないかと思います。

 新たな恋物語も始まりそうでありますし。

 誰だ、白銀爆弾を落としたのは。

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