第46話 夏合宿福岡編②「男子はいつだってばかばっか。」

 午後の練習試合は14時半から最大2時間、6回までという条件で2試合立て続けに行われる。

 

 甲子園でも第4試合は場合によってはスタンドのライトに灯が灯りナイターになる事もある。

 2試合目は若干ナイターとなるのは必至。


 第二グラウンドもあるので、翌日の試合は第二グラウンドも使い効率的に進める運びとなる。

 初日の試合に限り試合のないチームは見て勉強するという事になる。


 第一試合が東〇と折尾〇真、第二試合が北〇州と桜高校と決まった。

 出場するメンバーはベンチ入り20人。20人を超えるチームは他の試合でそのメンバーと入れ替わる事が可能。

 桜高校以外は全員入れ替えが可能という事になる。

 抑9人しかいないので選手交代すら守備位置変更くらいしか出来ないのだけれど。


 第一試合は5-2で東〇の勝利で終わった。

 早速鬼コーチのノックが生かされたのか、失策は6回までで両チーム合わせて1しかなかった。


 第二試合の桜高校の先発は控えの卯月だった。

 監督にも思惑があるようで、長いイニングを投げさせる計画だった。

 秋は9人で挑まなければならないため、山田の負担を少しでも減らす計画である。


 それならばもう一人投手を作れば良いのではとも思うが、少年野球時代から含めて経験者がいなかった。

 真白にしても急造投手であったのだから、一人くらいこの合宿で経験させてもとは部員達も思っていたのは内緒である。


 結果、卯月は6回を投げて4失点。試合は3-4で桜高校の敗戦。

 失策は両チーム0だった。四死球も0だった。

 卯月も1巡目は順調だったが2巡目に捕まってしまった。

 北〇州は甲子園こそ未出場ながらも惜しい所までは行く高校なだけに、簡単には勝たせては貰えなかったといったところである。


 試合が終わり、クールダウンが終わるとグラウンド整備をして各校は解散。


 ホテルに着くと選手達は部屋に荷物を置きに行く。

 すぐに夕飯のため食堂に集まった。


 「とり皮うめー」

 「ふくめしうめー」

 「有明海苔うめー」

 「小倉おぐら牛うめー」 ※北九州市小倉区は【こくら】であるが、牛のブランドは【おぐら】である。

 高校生が合宿で食べる夕飯にしては豪華な気がするが、これも資金集めの賜物であった。

 監督は合宿後おかず無し白米のみ生活が待っているのだけれど。

 

 久留米ラーメン派VS博多ラーメン派の戦争は置いておく。

 もれなく監督から食事中正座を言い渡されたとだけ……

 少しだけ未来の白米だけ生活に対する八つ当たりが混ざっているかもしれない。


☆ ☆ ☆



 夕飯が終わると……

 部屋には既に人数分の布団が敷かれていた。

 部屋割としては男子5人、4人、女子2人、監督一人部屋(一番小さい)の4部屋である。


 「誰かマネージャー呼んでトランとかしようぜ。」


 「いや、お前勇気あるな、殺されたい症候群でもあるのか?」


 などと会話が飛んでいる。修学旅行のノリであった。


 「枕投げやろうぜ。」

 「いや、肩壊すだろ。」

 「備品壊したらどうするんだよ、弁償代払えないから暫く無給で働くのか?」


 結果男子達の興味の矛先は……


 「よし、女子露天風呂を覗きに行こう。」

 「誰だ、自殺願望を公言した奴は。」


 「地図を見たろ、男子風呂と女子風呂は隣接してはいるが、壁一枚というわけではないんだぞ。」

 「太刀浦海岸とか田ノ浦海外に死体上がりたいのか?やめておけよ。」


 「鬼コーチなら本当に沈めそうだな。」

 「普通に朝まで廊下に正座させられるぞ、監督に。」


 散々盛り上がった結果、誰一人覗きをする部員は居なかった。

 風呂は流石に貸し切りではないので他の宿泊客もいるのだから当然の帰結である。




☆ ☆ ☆


 「誰も覗きにこないなー」

 湯気が仕事をしているせいか眼前以外は見辛く、少し離れたところに浸かっている澪の姿もぼんやりとしか恵には映っていない。

 それは澪側からも同様で、恵の姿はぼんやりとしか見えていない。

 立ち上がったところで見えたらいけない部分は、湯気の完璧な仕事で見えやしないのである。


 「流石に施設的に出来ない仕様になってるでしょ。出来ても困るけど……もしかして誰かに覗いて欲しかったとか?」


 「ばばばばばっばか言ってんじゃないよー。」

 恵の顔が全体的に赤いのは温泉の温度が40度超えだからだけではないはずだ。

 寧ろ羞恥による赤面の方が割合的には多い。

 

 「プールではあんなに密着して親密そうに見えたのに。」


 「ばっきゃろー。あれは……ん?そういえば見られてたんだっけ?」


 「七虹が恵の罰ゲームプールデートを後ろから見てるって約束だったじゃない?そして私達みんなで水着新調しに行ったじゃない?」

 七虹と澪はどんどん親密になり互いの下の名前で呼び合うようになっていた。


 「そりゃ私も一緒に見るに決まってるじゃん。」

 意外にも澪は小悪魔系だった。


 「あの時の事は色々黙ってて!」


 「良いけど、いつかは素直になりなよ~。うふふ。」


 恵は鼻の下まで潜って恥ずかしさを誤魔化していた。


☆ ☆ ☆


 男子達はなんだかんだで全員が同じ時間に風呂に入っていた。


 湯上り処で麦茶を飲みながら部員の一人が紙に書いた何かのランキングが発表された。


 3位小倉 2位柊 1位白銀


 これがナニを意味するかは男子しか知らない。



☆ ☆ ☆


 福岡合宿2日目もあっという間に過ぎていく。

 午前中は7時から昨日と同じメニューを行い休憩を挟んで9時半から第1第2グラウンドを使い昨日と同じ条件で練習試合。


 第1で北〇州と東〇、第2で桜高校と折尾〇真がそれぞれ試合を行う。

 例によって3校はベンチ入りメンバーを変更している。

 秋の大会に向けてのメンバー決めの参考にもなっているのだろう。

 9人しかいない桜高校からすれば羨ましい悩みである。


 この試合は6回を山田一人で投げ切る。

 被安打4で1失点の好投。失策0継続は未だに途切れる事はなかった。

 試合は3-1で勝利だった。相手は2回ずつ3人の継投で色々試しているようであった。

 試合結果よりは内容といったところだろう。


 昼食と休憩を挟んで午後も昨日と同じメニューをこなし、本日2試合目を行う。

 本当の地獄は試合終了後だという事を選手達は知らない。

 昨日と違うのは試合開始が13時という事。


 第1で折尾〇真と北〇州、第2で桜高校と東〇がそれぞれ戦う。

 そして監督はこの試合の先発に柊真白を選択した。


 「え?俺ロングは無理だよ。」

 その言葉の通り回を追う毎に球速と球威は落ちていた。

 それでも本職もびっくり、多彩な変化球でのらりくらりと技巧派のように躱すピッチングで敵味方共に驚いていた。

 唯一驚かなかったのは捕手の八百だった。


 「まぁそういう練習はしてたしな。だからプールトレーニングとマエ〇ン体操してたんだろ。」

 との言だった。


 結果としては2-0で桜高校は勝利した。

 選手こそ違え、かつて甲子園に出場した事のある学校に変則練習試合とはいえ2勝した事は糧となったはずである。

 もちろん負けた試合でも得たモノはある。


 「あ、俺は公式戦では先発はしないよ。二刀流とかかっこいいかも知れないけど、二兎を追う者は一兎をも得ずという事もあるように、どちらかが疎かになりそうだし。」

 「そうだな。もう一人2~3イニングで良いから投げられる投手を作るしかないよな。」


 「20人フルでいるならともかく9人しかいない。長い試合を戦い抜く事を考えればあと1枚か2枚は必要だな。」

 監督も少しは悩んでいるようだった。



☆ ☆ ☆


 「よーし。クールダウンは終わったな。それじゃぁこの第1、第2グラウンドの廻り、1周約2Kmを10周してもらう。」

 「10周約20Kmの距離を1時間15分以内で走れない者は……関門海峡を泳いで巌流島に渡り、小次郎と戦ってきてもらう。」

 「もちろん許可は取ってあ~る!(嘘だけど。)」

 「時間内に戻ってきた者は、学校を超えて自分の好きなマネージャーからタオルとドリンクを受け取って良し!」


 4人の監督からの無茶振り地獄のマラソンが行われる。

 


 全員が時計をストップウォッチモードに切り替え走る構えを取った。

 「位置について~よ~い……スタート!と言ったらスタートね。」


 半数がズコーっとよろけてコケかけていた。


 「では、改めて……スタート!」


 それぞれのフォームとペースで走り始める100名に満たない選手達。

 普段であれば10Kmを30分というペースは可能だろう。


 しかし、午前午後と練習と試合をこなしているため、同じパフォーマンスを出す事は難しい。

 心身共の疲れを克服し、定められたタイム内で走る事が出来れば一皮剥ける事が出来るだろうという各監督の願いでもあった。

 それと単純に体力向上と、誰がどんな子が好きなタイプなのかを見極める良い機会でもあると考えていた。

 

 これは選手にもマネージャー達にも内緒の話である。

 4人の監督の悪だくみとも言う。


 「ファ〇コンウォーズが出~るぞ!」「ファミ〇ンウォーズが出~るぞ!」

 「こいつはどえらいランニング!「こいつはどえらいシミュレーション!」

 「のめり込める!」「のめり込める!」

 「のめり込める!」「のめり込める!」


 「ジャーマネ達には内緒だぞ!」「ジャーマネ達には内緒だぞ!」




 「あいつらバカか……」

 「バカ共が妙な一体感を持ちましたね。」

 スタート地点にいる監督たちは落胆していた。


―――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 

 裏のタイトルはナンバーワンジャーマネ選手権と言います。

 ミスマネージャーとも言います。

 男子は基本バカなので女子が絡むと普段以上のパフォーマンスを出せるものです。

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