第45話 夏合宿福岡編①
下関から関門トンネルを潜り、次に地上に出た時には小倉に着く手前。
門司あたりはトンネル内のため、新幹線を利用した場合は関門海峡は見れない。
巌流島も和布刈り公園も九州鉄道記念館もみんな門司港にある。
当然監督の母校もトンネルの間にとっくにすっ飛ばされている。
監督や親戚・友人達の母校の小学校が某エロゲの聖地に使われたとか。
密かに部員の一部が自由日に行こうと計画していた。
多分不審者扱いになるので見かけたら止めろと言われるだろう。
小倉に着くとサッカーチームの垂幕が目立った。
J2に上がったもののJ3に落ち、再びJ2に戻ってこれたけれど中々J1に上がれない。
福岡には2チームのJリーグチームがある。北九州の方だ。
某携帯会社名の球団は博多に行けば見れるかも知れない。
監督は密かに6日間かけて熟成される鳥皮で有名な店に行きたいらしい。
自由日に行こうと画策していたが、予約は半年待ちなので他の店でも良いかなとか思っている。
「とりあえず20本!」で有名なあの店だ。東京にも3店舗あるらしいが埼玉の外れなので中々行けないと嘆いている。
「さて、まずはバスに乗ってグラウンドに向かうぞー。はぐれないように着いて来いよー。あと、あんまり喧嘩吹っ掛けるなよー、特にマネージャー!」
「え?あたし?ちゃうちゃう、こんな純情可憐な乙女がそんな事……」
恵が手を左右に振って反対意思表示をしている。
「他に誰が居るんだよ。」
「ぬぁにぃやっちまったなー。」
恵は言葉の発信源である真白のこめかみにぐりぐりぐりとウメボシを喰らわした。
ヤンキー女子の力は強い。なんてったって朝倉バッティングセンターのHR記録は真白と並んで同数一位なのだから。
バスに乗り目的のグラウンドに着くと先客がいた。
「おなしゃーっす。」
更衣室で着替えると再び集合する。
開始時間にはまだ時間があるが、既に合同練習をする桜高校を含めた4校は揃っていた。
全員が整列すると桜高校の部員の少なさが露呈する。
何せ9人しかいないのだから。
他の3校は2~30人はいる。現在では名門でも60人いれば多い方だ。
現代でも100人くらいいる学校もあるにはあるが、一時期の荒木フィーバーや松坂時代程は野球人口は多くはなかった。
予選に連合チームで参加する事も可能になるくらいには減っている。
最も部員8人以下の2校以上という条件はあるけれど。
桜高校も後一人足りなかったら秋の大会は連合で参加せざるを得ないところではあった。
4校の監督がそれぞれ挨拶をする。
選手達には歳が近そうに見えたけれど、この4人は学年こそ違え、同じ時期に甲子園を目指していたライバル達だと述べていた。
だからこそ実現出来たと言っても過言ではない。
同じ北九州地区の3校はともかく埼玉の外れの昨年まで万年一回戦と呼ばれていた学校が混ざれる場所ではなかった。
今日と明日はこのグラウンドでこの4校合同練習と練習試合。
本日午後1試合、明日午前と午後で1試合ずつ行う。ただし、時間の関係で6回まで若しくは2時間と決まっている。
岡山の時と同じようにグラウンドを2面にわけて練習は行われる。
特……AチームとBチームに分かれる。これもまた岡山の時と同じように各校を半分にわけてのチーム編成だった。
ランニングや柔軟、キャッチボール等はともかく……
今回真白のいるBチームのノッカーは東〇の監督であった。
それはつまり、Aチームのノッカーは恵ということになる。
相手校には事前に監督からノックの様子のVTRを見せており、恵に片方のチームを任せる事の承諾は得ている。
岡山の選手同様最初は舐めて掛かっていたけれど、度肝を抜く打球に一同ビビッてしまい、以降は真面目に受けていた。
昼食時間は全員が集まり、やはりマネージャー特製のカレーだった。
「おぉ、最近のJKは薬膳カレーなんて作れるんですね。」
桜高校の監督が訪ねていた。
「飯塚市はすぐそこですからね。多少有名でしょうし、せっかくなので真似させましたよ。身体にも良いですからね。」
Bチームのノックを施した東〇の監督が答えていた。
真白も胸がほっこりとしていた。カレーは万物の薬とは良く言ったものだと思った。
それは真白理論ではあるけれど、疲れた時にカレーが良いという話はスパイスのおかげだと思われる。
午前中一緒にサードの守備練習をしていた数名と仲良くなっていた。
「なぁなあ、お前らんとこのマネージャーって誰かと付き合ってるのか?」
折尾の選手が周囲話しかけてきた。彼は自校以外の選手達に問いかけていた。
「ちなみにうちの3人は1人だけ副キャプテンと付き合ってる。そして1人は監督の娘さんだから一番可愛いのに誰も手を出せない。」
彼はそう続けて言った。
「それは手を出せないのではなく、出さないの間違いじゃないのか?出したら最後というか。」
真白は率直な意見を返していた。ポリポリと頬を掻きながら折尾の彼は返答する。
「そうとも言う。せめてエースとか4番とかで結果出せれば違うのかも知れないけどなー。」
「うちの3人は浮いた話はないな。知らないだけかも知れないけど。」
北〇州の彼が続いて言った。
「うちは4人いるけど、1人が野球部のアイドルというか妖精だからな。みんなかっこつけてるけど誰も射止められてないな。」
東〇の彼は答えるが、思い出しながら顔がニヤついていた。妄想の世界へ旅立ったようだ。
「そっちはどうなんだよ、埼玉なら東京も近いしやっぱ進んでんのか?あのエロ同人誌みたいにっ」
折尾の彼のツッコミが独特だと感じた他の選手達。そしてそういう使い方するもんじゃない。元ネタに失礼である。
「俺のとこは二人共フリーだな。最近恵とは個人練習付き合って貰ってたりはするけど。」
真白は特に意図もせず深い意味もなく素直に答えていた。それが勘違いを生んだとしても。
現に折尾の彼はぴきぴきと額に筋が浮かび上がってきている。
「なん……だと……?リア充め、何が付き合ってないだ。(個人練習)付き合って貰ってるじゃねぇか。う、うらやましくなんかないんだからねっ」
いろいろと間違っているし勘違いしているし方向性がつかめないが、真白は彼の事を面白いやつだなと思っていた。
そして横から会話に混ざって来る男がいた。
Aチームで件の恵からノックを受けていた選手だ。
「なぁ、恵ってAチームでノックしてたヤンキーっぽいマネージャーの事か?」
「ん?あぁそうだが。あいつの打球早いし際どいとこ打つし鍛えられるだろ。たまにマジで取れないし。」
「それについては同意するけど、あの娘マネージャーにしとくの勿体なくない?高野連の規定で試合に出せないの勿体ないよな。」
彼は東〇の正ショートの選手でAチームで恵の鬼ノックを受けていた。
監督のノックもえげつないけど、彼女はもっとえげつないと言う。
「まぁルールだから仕方ないよな。そして勿体ないとは俺も思う。うちらメンバーギリだから補欠もいないから余計にな。」
真白はしみじみと語った。一人怪我をするだけで没収試合9-0が成立してしまう。
「でもあのノックで鍛えられてうちら予選決勝終わるまで失策0だからな。鬼コーチ様様だよ。」
こうして談義を挟みながら昼食時間及び休憩時間は過ぎていった。
デザートのあまおう一人3個は特に好評だった。
☆ ☆ ☆
午後からは投手はピッチング練習、これは公式戦で投げた事のある選手全員が参加する。
そのため野手投手も参加する。例え抑え1イニング限定の真白であっても参加する。
ピッチング練習と言っても投げるだけではない。
走り込みも当然するし昔からあるチューブトレーニングもする。
その後18.44mmでのキャッチボール。
それが済むと捕手を座らせての投球練習に移る。
当然捕手が足らないので監督も参加して受ける。
ただし、野手側に指導者がいないのは問題なので2校の監督は野手側で指導する。
桜高校にはいないが、監督以外のコーチが3校には存在するので捕手役に回される。
どの高校もベンチ入りメンバーだけでも3~4人は投手がいる。ベンチ外を含めれば7~9人にはなる。
それでも足りなかったので……
「やらしくおねがいしまーす。」
真白は捕手に対して挨拶をする。
「よろしくだろスカポンタン!」
真白の捕手には恵が付いた。
渡辺〇信のようなノーワインドアップから、藤川〇児の二段モーションから繰り出される真っ直ぐ。
パァァンッと乾いた音が響いた。それはエースの山田にも匹敵するかのような一撃だった。
投げた真白自身も驚いたが、受けた恵を見ても驚いていた。
八百が受けている時と同じ感覚で投げられていた。
いつの間にか身についていた真白と恵の阿吽の呼吸と言うべきか。
ビュッ
恵からの返球……
パァァンッとこれまた良い音が響いた。
「いやお前、返球なんだからもう少し優しく投げろよ。」
「顔面当たったら責任取ってやるから安心しろー。」
それは聞く者が聞けばプロポーズにしか聞こえないのだけれど、言った本人は気付いていない。
もちろん、言われた本人も気付いていない。
「リア充爆発しろー。」
隣で投げている北〇州の投手から妬みの一撃を貰う真白だった。
―――――――――――――――――――――
後書きです。
合宿、さらっと流す心算だったのに最初の二日で2~3話となりそうです。
埼玉帰ったらヤンキーイベントあります。見捨てないでください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます