第44話 夏合宿岡山編
罰ゲームプールデートも終わり、真白達野球部メンバーは合宿の地の前哨戦岡山へ来ていた。
寝台列車での一コマ?
300円シャワーを利用している女子マネージャーの出待ちをしていた部員達がボコられた話に需要があるだろうか。
岡山駅に着くと一同は周囲に迷惑にならないよう隊列を組み出口へと進んでいく。
「チボリ公園があった頃が懐かしいなぁ。」
監督は近代的な建物ばかりになった駅前を見てしみじみと昔を思い出していたのか、少し放心していた。
そして荷をチャーターしていたバスへと積み込む。
サンライズで来たものだから早朝も良いところであり、当然大抵のお店は閉まっている。
バスでコンビニ飯という寂しい朝食となった。
7時には合同練習を約束していたグランドへと辿り着く。
そこには既にまばらではあるが相手の学校も集まりつつあった。
約束は8時であるのだからどちらも遅刻ではない。
荷物を出し終える頃には練習参加メンバーは全員が集まる。
早速メニュー化されている練習へと取り組んだ。
ランニング、柔軟、ダッシュ、キャッチボール、遠投と基本的には相手校同士で組んで練習を行っている。
桜高校は9人、相手は30人に満たない人数。かつては名門と呼ばれた学校であっても昨今はサッカー等他の競技に人気も部員も流れている。
いつもと違うメンバーと練習する事で緊張する事なくパフォーマンスできるように視点を置いていた。
急な守備位置への交代を視野に入れた内容だった。
グラウンドは広い。野球であれば2面は取れる広さがある。
そのためノックの時は半分の人数で行われる。
そして真白のいる組のノッカーは恵だった。
桜高校きっての名ノッカーだ。あの失策ゼロはこの鬼コーチの賜物によるところが多い。
しかし岡山という離れた地域の人達にまではその効果も恩恵も伝わっていない。
「おいおい、監督じゃなくてジャーマネの姉ちゃんがノッカーかよ。ボテボテのゴロばっかとか勘弁してくれ……」
ヒュンッ
ライナーがその選手の横を通り抜けていった。
「へいへい、そこのヘボサード、打球は見ないと取れないぞーーー。」
それと危ないぞーとも付け加えていた。
「あれでもウチの鬼コーチで名ノッカーだからな。それと、バッティングセンターのHRランキングは俺と同数の1位だ。」
あれから朝倉バッティングセンターのHRランキングは更新に更新を重ね、20本で同数首位を飾っているのが真白と恵であった。
真白の忠告は、こちらのうしろ組(両監督が二つにわけたチーム名を命名した。当然もう一つはさされ組である。)のメンバー全員が理解する事となった。
「なぁ、お前にだけ物凄く厳しい打球が行くのは何故だ?」
先程ジャーマネ姉ちゃん呼ばわりした同じサードの守備について練習していた彼、鳥取が話しかけてくる。
岡山県なのに鳥取というのは結構揶揄われているらしい。小学校の頃は結構衝突していたとか。
「あいつがノッカーになった時からずっとなんだよ。」
しみじみと語る真白に鳥取はうげぇって感じで舌を出す。
「それはあれか。惚気か。彼女の居ない俺達に対する当てつけか。」
どう考えても愛情の裏返しだろう、一人だけ特別扱いしやがってと鳥取は嘆いていた。
「そりゃ守備力上がるわ、でもそうでなくても厳しい打球ばかりなのは変わらないけどな。今日一日だけど守備力向上になりそうだわ。」
昼食を挟んで軽くフリーバッティング練習。空いている者はトスバッティングをしている。
ちなみに昼は大きな鉄板を用意しひるぜん焼きそばをマネージャー達が作っていた。
恵はノッカーとしての仕事をしていたけれど。
「お前らんとこのマネージャー可愛いな。」
岡山側の選手からそんな声が掛かる事が多い。
「なんですって。私達がイモいって?都会みたいにケバくないんだから良いじゃない。あんたらからはお金取るよっ?」
「スンマセンシタッ!」
客観的にみればどっちも可愛いけどな。スカートは長いけどと桜高校側の面々は思っていた。
「確かにわかめちゃんみたいに短いのはどうかと思うしな。」
田舎故の都会批判が始まった。
「でもな、うちのマネージャー。それぞれキャプテンとエースと付き合ってるんだぜ。俺達はなにくそーと頑張るしかないじゃん。来年入って来る1年生マネージャーにワンチャンかけてさ。」
鳥取がしみじみと語っていた。
真白とは同じ守備位置故か、話す機会が増えていた。
間近で見る事で学べる事もある。足裁きとかグラブ捌きとか、最近は甲子園から遠くても流石に古豪と呼ばれるだけの事はあった。
午後3時になると、うしろ組とさされ組で練習試合をする。サインは両チームのキャプテンが出す事に決定。
監督やコーチ陣は審判や見守りに徹する。
自ら考える野球の実践のようなものである。野〇ID野球程ではないけれど。
試合は最長5時または5回裏まで、コールドはなし。
結果はうしろ組の辛勝。
今回は敵に回った山田と対戦、2打数1安打とまずまずの真白であった。
3打席目は代わった岡山側の2番手投手を打って、全体で3打数2安打と打者としては勝ったと言える。
学校同士で戦わないというのも面白い試みだなとは選手達も感じていた。
普段はチームメイトと戦うのもある種の勉強である。桜高校のように人数の少ないチームであれば尚の事。
「春か来年の夏、戦えると良いな。」
「その時までに彼女が出来ると良いな。」
真白が要らぬ発破をかける。
「お前は素直になれよ。端から見てたらリア充爆発しろだったぞ。ちくしょう。」
お互いに握手を交わして別れた。
確かに水分補給とかやたらに来てたなと真白は思い返す。他にも汗拭けよとタオルも何度も手渡して来ていた事も。
グラウンドを後にしてバスは出発する。練習はどうだったとか試合はどうだったかで盛り上がる。
「ガイドさーん。彼氏はいますかー。」
男子部員の誰かがバス移動時あるある質問をしていた。
「彼氏は3人、アッシー君2人、メッシー君4人、セフレ5人、奴隷3人いますよー。」
嘘か真か美人ガイドさんがにこやかに微笑みながら、男子部員の質問を華麗にかわしていた。
「ぶひっ」と運転手が漏らしていたのが気になる運転手の真後ろに座っている監督であった。
本日は倉敷で一泊する。大浴場、露天風呂もある個人で宿泊するとなると1万6千円くらいはするホテルに一泊する。
後に某旅行サイトで調べた結果ではあるのだが……本当に合宿?旅行じゃなくて?という感じを受けていた。
それは夕飯に出てくるメニューを取っても理解出来る。
「ナニコレ、こんなカツオ食べたら東京でカツオ食べられないよ。」
部員達には好評だったようだ。他にもソースかつ丼や葡等、岡山の名物を堪能するには一泊では足りそうになかった。
そして翌朝、新幹線で福岡へ移動していく。
窓から見える景色の変動は寝台列車の比ではなく。あれはなんだと確認するまえに去っていく。
小郡が新山口になった事など監督くらいしか知らない。
真白は精神集中・瞑想という名の睡眠を貪っていた。
―――――――――――――――――――――――――――――
後書きです。
合宿岡山編はさくっと終了です。
次は福岡編です。
基本練習と試合です。
他校の練習方法を取り入れたり実戦をする事で大抵の人はレベル上がるはずです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます