第39話 プールDEデート

 「よし。次はあっちへ行くか。」

 あれからじきに復活した二人は早速プールの中へと繰り出した。

 適当に流れると水をかけただのかけられただので、お互いに水を掛け合いじゃれていた。

 それだけでも外野からすればご馳走様バカップルという風景だった。


 少なくともそれを遠目に見ている七虹と澪の目にはそう映っていた。


 「もっと恥ずかしくて何も出来ないと思っていたけれど……」

 「やはりスイミングスクールで多少慣れていたのかなと思わざるを得ないよね。」


 「その時恵はスク水だったみたいだけどね。」

 「それと先日のしま〇らでの偶然の出会いが慣れを生んでしまったのかも。せっかくのへそ出しなのに。」


 「勿体ないよねぇ。」

 「勿体ないねぇ。普段見る事が出来ない姿だというのに。」


 「スク水めぐたん見て見たかった。」

 澪がぶっちゃけていた。その言葉に驚きを感じた七虹ではあったが、ニヤソと悪い顔を見せて呟いた。

 「澪さんや、お主も悪よのう。後程見せてあげようではないか。ふっふっふ。」


 外野は外野で好き放題言い放題だった。



☆ ☆ ☆


 「じゃぁ次はあれいこうぜ。」

 恵がウォータースライダーを指差した。」


 「ん?あぁ。そうだな。」



 二人は事前にどういったアトラクション……どんな種類のプールがあるかの事前調査をしていない。

 ここを勧めたのは七虹であり、駅も近いために情報収集を怠った。


 だから二人は知らない。

 このスライダーは一人用と二人用があり、二人用に行ってしまうと男女の場合は係員に強制カップル認定され、カップル専用の滑り方を強要されるという。


 列は段々進んで行き、ついには真白達の番となる。


 「はい、彼氏さんと彼女さん。どちらが前になりますか?」

 彼氏が前に来ると彼氏の頭が彼女の胸を枕にし、彼女が前にくると彼氏の股間が背中からお尻に来るという寸法だ。

 そしてどちらが前に来ようと後ろの人が前の人を逸れないように腕で抱きしめるという……


 「ななにゃい。そ、そんなの聞いてな。」


 「はいはい。決められない場合はスタッフ権限で彼女が前となります。面白そうなんで。」

 係員はいきなりぶっちゃけていた。笑みを浮かべながら説明する係員の女性は後も閊えてるんでと促していく。


 されるがままに真白は土台となり、恵はその上にかぶさるように前に寝させられる。

 さらに真白は係員に促されるままに手を恵のへそ当たりで組まされ見事にニ神合体を完成させる。


 「さぁ、いってらっしゃいませ~」

 

 「「うきゃぁぁ」」


 スライダーを右に左にと揺られ落ちていく。周りの景色など見ている余裕など二人にはなかった。

 抱きとめられている恵は紅潮し硬直し、抱きしめている真白は紅潮し硬直していく……どこがとは説明は省かれるけれど。


 「「うヴぉぁあっぁぁ」」

 スライダーの出口から勢いよく噴射する真白と恵。

 抱きしめたままプールへと落ちていく。



 「ぶはぁっ」

 水面から勢いよく顔を出し、酸素を補給する。


 

 「なぁ、真白さんや……」

 恵は何かを決意したかのように真白に問いかける。


 「不公平だから次はお前が前でもう一回やろうぜ。」


 「お、おう。」

 真白は肯定するしかなかった。



 「それと……滑ってる時に背中というか尻の当たりに何か当たっていたのだが……お前水着の中に何か隠し持ってるのか?」

 確かにナニかを隠し持っているのだけれど、それを説明するわけにはいかない真白は誤魔化す事に決めた。

 相手が誰であれ、女子と水着で密着していたのだから、反応してしまうのは男のサガである。

 

 「さぁ、スライダーの継ぎ目とかじゃないのか?」


 「そうか。そうかもな。」


 恵は随分と初心だった。




 「そんなわけないじゃないのよ~。」

 「本当に恵ってば奥手というか初心というか純真というか。本当にあれでも近所の不良達から恐れられたヤンキーだったのか疑うレベルだわ。」


 七虹と澪は少し離れたところからツッコミを入れていた。


 「まぁヤンキーだからってそういう事に対して進んでるとは限らないけどね。」

 「恵の場合は環を掛けて疎すぎるからね。私でもわかるのに……」


 

☆ ☆ ☆



 「あら、さっきのカップル再びですね。」

 係員の女性に覚えられている二人。


 「今度は前後逆でチャレンジしてやろうかと。」

 恵はニっと芸能人は歯が命と言わんばかりの白い歯スマイルで答える。



 「大抵のカップルが同じように2回は最低でも滑りますね。最終的には男性が後ろに落ち着く事が多いですけど。」

 触れますし、水着のブラに手入れる猛者もいるし……と聞こえない程度の声で呟いていた。


 「そんなこと出来るかっての。」

 真白の耳には届いていた。


 「さ、真白。前に行けって。」

 

 恵に促され、先程と逆の体勢となる二人。


 「う、これはこれで恥ずかしいな。」

 恵の胸のあたりに真白の頭があるために妙にくすぐったく感じていた。

 

 「ではいってらっしゃーい。」


 トンと恵の肩を押すと二人はスライダーの彼方へと消えていく。



 「うひゃぁあぁ……にゃにゃにゃ、ちょっ、あたっ……あたって……」


 という叫び声をあげながら恵はスライダーを進んでいく。


 (……大きかったら程よいクッションだったんだろうな……)

 などと真白は心の中で思いながら進んでいた。


 

 「ぶるあぁぁぁぁ」


 とても女の子が出しては良い声ではないが、水面から浮上するなり恵は酸素を求める。

 「まぁ……交互に滑るカップルの気持ちはわか……」


 恵の姿を見て真白は時が止まったかのように硬直し始めた。

 

 「ん?どうした?鳩が豆鉄砲を食ったような表情して。」

 心配したのか恵が近付いてくる。プールの水が波紋を描きながら恵を中心に綺麗であるのだけれど、真白にそれを観測している余裕はなかった。


 なかったのだけれど、真白は何を思ったか恵が手の届く範囲に到着すると手を伸ばし恵の肩を掴んでぐっと自らの身体に引き寄せた。



 離れた場所で見ていた七虹と澪は……

 「きゃー、大胆。大胆3よー。」

 両手で顔を覆い恥ずかしがる澪であったが、指の隙間からは問題なくその様子を確認出来ている。


 「おぉ、あの恵が水着とはいえ、あんな恰好で抱きしめられてるだなんて……お姉さんは嬉しいわ。」

 二人からは唐突に真白が恵を抱きしめたようにしか映っていない。


 その真実は……




 「にゃっ、な、なに!?どど、どうし……」


 「あ、あぁ。とと、突然すまん。だ、だけど恵……お前水着の上……ズレて……そ、そのぉ。見えちゃって。だだ、だから……」


 「このまま水の中に潜るから……直……せ。」

 「にゃ?な、なんでもっと早……」

 幸い周辺の人達は恵の方を見てはいない。いないけれど、見た者が真白以外にいないという保証もない。

 

 恐る恐る恵は視線を下におろしていくと、やがて4つのお豆が存在し、それぞれがそれぞれの肉壁に衝突し焼売が4つ出来上がっていた。

 

 「ひゃっ。」

 

 「というわけだ。ゆっくり首元までしゃがむから、冷静に直してくれ。」


 ゴジラの登場の逆再生のようにゆっくりと沈んでいく二人。

 この二人にはあのテーマ曲が流れているかのように水の中へと消えていく。



 水の中で水着を直した恵は、再びゴジラのように水の中から浮上してくる。

 真っ赤になった男女がゆっくりゆっくりゴジラのように。


 「な、なぁ。気付いてくれて、他の人に見られないようにしてくれたのは大変……ありがたいことではあるんだけどよぉ。」


 「な、なんでしょう。」


 「真白……お前はばっちり見た……わけだよな。」


 ここで見てませんよという言葉は通じるはずもないので、真白は素直に白状する。

 「はい。見ました。可愛い甘食を二つ見てしまいました。洗濯板や逆さお椀ではありませんでした。」


 「ほほぉ。ここでドザエモンになる覚悟は……あるようだな。」


 「あぎゃぁがああぁぁあぁぁ」

 恵渾身の一撃であるウメボシが真白の両こめかみを襲った。


 「ホレぐりぐり~ぐりぐり~」

 言葉にするととても微笑ましい一文ではあるのだけど、その破壊力はとても凄まじいもので、一応体育会系な真白が秒でギブアップする程の威力は持っていた。

 「いだっっ……揉んだわけじゃ……ないのに……これは、ひどっ。おまっバカ力過ぎっ、鬼っ悪魔っ恵っ!」


 「誰が小悪魔天使だってぇ、それに最後のはなんだぁ。」

 誰もそんな事は言っていないのだが都合良く、そして都合悪く解釈をしている恵。

 流石にウメボシシーンは多少周囲からの視線を奪っていた。

 バカップルがじゃれていやがるよ……と。


 「いや、まじでギブッ。ぎぶあーっぷ。」



 ようやく解放された真白はこめかみを押さえながら視界と整えていく。

 

 「たこ焼きとパフェで手打ちにしようではないか。」

 一応他の人の目から守ってくれたわけだし……とぶつぶつと呟いていた。


 「お、おう。そのくらいお安い御用だ。」

 甘食と焼売二つの見返りにしては……と真白もぶつぶつと呟いていた。

 

 バイトすらしていない真白にはお金に余裕があるわけではないが、対価としては安いと判断していた。

 そのくらいには種田恵を意識しているという事なのだが、本人はまだ気付いていない。


 罰ゲームとはいえ、二人でプールに行くという事が、並の友人関係以上のものだという事に二人共まだ気付いていなかった。

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