第40話 たこ焼きとパフェと時々甘々
一度プールからあがり、フードコートへと足を運んだ真白と恵。
恵が席を確保し、その間に真白がたこ焼きとパフェを注文する。
マックスタイルのため、自分で商品をカウンターから受け取り座席に運ばなければならない。
5分もすれば焼き立てのたこ焼きと出来立てのパフェを二つずつトレイに載せて受け取った真白は席で待つ恵の元に……
向かおうと身体を向けたところで変化に気付いた。
恵の周囲に二人の男がいたからだ。
近付いて行き何を話しているのか確認しようとする。
「テメー殺されたくなかったらとっとと消えろ。」
随分と乱暴な言葉を使っている。
もちろん恵がである。
「おーこわー。姉ちゃん一人なんだろ?それとも彼氏待ちかな?」
「こんなべっぴんな姉ちゃん置いてっちゃうんだから俺達と遊ぼうぜ。」
「身体が腐る。空気が腐る。喋るな。」
恵が拳を握る。あの握り方は鉄菱だと様子を見ていた真白は気付いた。
しかし随分と辛辣な言葉を吐くものだと真白は感じていたが、自分が聞き取る前にはもっと変な事を言われていたのかも知れない。
そうでなければ、あそこまで敵意を剥き出しにして挑発的な言葉を出すとは真白には思えなかった。
練習中での口の悪さとは違う。怒りや憎悪を持った言葉だった。
「なぁ行こうぜ。」
男の一人が恵の右手を掴んだ。
大抵は右利きだから利き手を掴めば猶更抵抗しないとでも踏んだのだろうか。
しかし残念、恵は左利きなのでそれは悪手だと真白は判断した。
「警告はした。そして先に手を出してきたのはそっち。周辺の人も見ているだろうし証明してくれるだろ。」
そう言って恵は一瞬左手が突き出たかと思うと、突然男は苦しみだし床に頭をすり合わせ悶絶している。
先程握った鉄菱で鳩尾を突いたのだろう。
見えなかったけれど真白はそう感じていた。
というより早くしないとたこ焼きさめちゃうぞと真白は気付いた。
「恵。たこ焼きとパフェ買ってきたぞー。」
男達に対しては鬼の形相だったのに、真白の方へ振り返った恵は先程別れた時のものに戻っていた。
「おー、遅いぞー。変なのに絡まれちったじゃねーか。って真白のせいではないけどさ。」
「め……めぐみ?はっ……ま、まさか……」
倒れてない方の男が何かに気付きガクブルと震え始めていた。
「まさかまさかまさか……メグナナの恵か……」
「あん?だったらどうすんだ?」
再び男達の方へ顔を向けた恵の表情は大魔神怒るだった。
「しっ失礼しましたー。」
倒れた男を担いで男は颯爽と逃げていった。
どうやらかつての種田恵を知っていたようで、真実を知り恐れをなして逃亡したという事だ。
「冷める前に食べようぜ。」
恵は何事もなかったかのように振舞う。
テーブルにトレイを置き、ウェットティッシュを恵に差し出した。
「ん?」
「あのクソ野郎に触れられたとこ、拭いておけよ。もう少し早めに戻ってればそんな事もなかったんだし。」
「あぁ、気にはしてないけど、そう言われると気持ち悪くなってきたな。」
恵は受け取り、封をあけると男に掴まれた箇所を念入りに拭いていた。
その数10枚くらいを使って。
「いや、本当に冷めちゃうから食べようや恵さんや。」
「うまー、プールや祭りの時はやっぱたこ焼きっしょ。」
☆ ☆ ☆
一方先程の恵の乱闘寸前シーンを端から見ていた七虹と澪。
「あ、恵が男二人に声掛けられてる。」
「え、あ。本当だ。なんか中途半端に悪そうな連中だね。下半身厨にしか見えないわ。」
七虹がその様子に気付き、澪に話しかけた。澪はその男達を見ると率直な感想を漏らしていた。
「まぁナンパなんてそんなもんでしょ。特にプールや海、夏祭りなんてのは余計に。」
七虹の言葉は辛辣な意見であるけれど、言っている事は間違いではないと澪も思っている。
「恵は全然相手にする気なさそうだね。そりゃ当然だけど。というか柊君との会話では見せない表情だね。鬼というか大魔神というか。」
澪は以前先輩達からの攻撃を恵に守ってもらった事があるが、その時に近いものがあると感じていた。
「まぁ、中学の時は近所の不良達からも恐れられていたからね、私達。余程気に障る事でもあいつらに言われたんじゃないかしらね。」
「おぉ、少し後ろに柊君発見。でもすぐには向かわない模様。」
「一応柊君も予選で少し顔と名前売れちゃったからね。不祥事は避けたいのかも。それか単純に何を話しているのか気になってるだけかも。」
「あ、恵が腕を掴まれた。逆にマウント取られた事に気付いてないんだろうな……と思ったら殴った。」
「恵はん、手が早いでんな。先に手を出したのは男だけど。しかし一発でってあの男弱くない?」
「まぁ鉄菱で鳩尾一突きされ、その後グリグリされたら悶絶するでしょうよ。」
「七虹氏はあれが見えていたと……?」
「だって中学時代からやってた事だしね。大人しくなったとはいえ、ヤンキー魂はなくなってないって事じゃないかな。私も鈍ってるかもと心配。」
「七虹の場合は言われなければヤンキーだったなんて信じられないよ。」
「女の子は猫被りスキルが超発達してるからね。文字通り猫耳被ってたりもするけれど。」
最期の方はぼそぼそっと言った。メグナナの二人がねこみみメイド喫茶で働いている事は現状真白しか知らない。
「柊君がついに介入したと思ったらあの人達小鹿のようにカグブルして逃げていっちゃった。」
「大方名前聞いて恐怖に襲われたんでしょ。見た事あると思ったらあいつら東中だった奴らだし。少し離れてるししょっちゅう揉め事があったわけじゃないけど、何度かボコった事あるしね。恵は忘れてるみたいだけど。」
あの時もウチの中学の女子にしつこく手を出そうとしていたからナシつけに行ったんだっけ……と振り返る七虹。
「恵がやたらと腕を拭いてるんだけど。」
「多分汚物は消毒だってやつじゃないかなぁ。」
「あっ。柊君が恵の口元のクリームを掬って……そのまま自分の口に入れたぁぁぁぁぁぁぁ」
☆ ☆ ☆
たこ焼きを食べ終わり、デザートのパフェも残すところあと僅か。
「あー美味かったー。」
可憐な女の子が言う言葉ではないのだが、素直に美味いものは美味いと言えるのが恵である。
食べる番組ではコクがどうのとか深みがどうのとか、深遠が見えるとか、そういう御託は正直信用ならないものが多い。
美味いか美味くないか、それだけで良いのである。
「あ、おい。付いたままだぞ。」
真白は席から立ち上がり恵の方へ身体を傾け、右手で恵の唇横に付いていたクリームを人差し指で掬い……
「お、悪いな。」
なんて気軽に礼を言う恵を余所に、一連の動作で真白はそれを自分の唇に持って行く。
「あ、あーーーおまっ。」
「ん?何か?」
真白は気付いていない、唇上に付いていたわけではないとはいえ、ほぼ関節キッスに近いものだという事に。
「おまっおまー。かかっ、かんせちゅ、関節キ……」
「おわっ、す、すまん。昔妹にやってた時の癖でつい……」
妹が小学生の低学年の頃までの話ではあるのだが、染みついた癖というのは離れないものだ。
「な、なにそれ。妹うらやま……じゃない。どど、どういうつもりだ。」
「いやだからつい……あまりにも自然過ぎたから。」
家族と一緒にいるような感覚で……とは言えない真白だった。
その後、二人は再びプールへと流れていくが終始カクカクとしてぎこちない状態は続いていた。
「もーあの二人何気に良い雰囲気じゃないの。なぜそこで押し倒さなくぁwせdrftgyふじこlp」
大声を出してしまった澪のほっぺを掴んで広げる七虹。
「澪……あんた普段はこういうキャラだったの。」
「バッティングセンターの娘で野球部マネージャーは重度のヲタだったって?よくある話でしょ。」
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