第38話 恥ずかし固め

 試着室から出てきたのは、種田恵と小倉七虹。

 メグナナの二人だった。


 「あ、恵……と小倉さん。」

 


 「あ゛……ましろ?」

 「え゛……柊君。」

 恵が真白を見て呟き、続いて七虹が驚きながらも呟く。

 恵は驚愕の表情で、七虹はあくまで同級生がいた事に一瞬驚いた程度ですぐに冷静さを取り戻す。


 「そうです。私が柊真白です。」

 真白は驚くあまりに志〇か三〇春〇になりかけた。


 「あ、変な……」

 外野の澪がその続きを言おうとすると。


 「言わせねーよ。」

 七虹が遮った。


 「二人共似合ってるが顔が怖い。なんか恐い。コワイったらこわい。」


 こういう時は似合ってると言えば切り抜けられると想像した真白は、心の中ではとっとろ逃げ出したい心境だった。

 

 「二人共大胆だしね。大胆3だよ。ダイターンだよ。」

 試着室から出てきた二人の姿は水着なのだから大胆ではあるのだが、二人して臍だしである。

 そしてもしナイスバディだったら下乳が見えてしまっていたであろう。

 幸いと言って良いのかわからないけれど、お胸が小さい二人は見事に布に収まっているのだけれど。



 「まぁ随分小ぶりな大胆3だけどな。」

 真白は余計な一言を言い放った。


 「よし、真白。テメーはあたしを怒らせた。」

 「よし、柊君、秋の大会は諦めたとみた。」


 「ぎゃーー、やめ。やめー。」

 コブラツイストを決める恵。

 (腋、腋近い。いや、全然匂いがどうとかではなく。そこから水着……の隙間から普段見えてはいけないものが……見えそうで見えないチラリズムが……)



 「あ、柊君いやらしい顔してる。」


 澪の一言に全力で否定する。

 「ノー、痛いだけだー。恵の力が半端ない。邪な考えなど秒で吹き飛ぶって。」



 「にゃはっ。このエロガッパめっ。画像提供ありがとうございます。腐ってないのがもったいないけど。」

 朝倉澪は冷静にスマホをかざしかしゃかしゃと写真を撮影していた。


 


 5秒程のコブラツイストからの解放に地べたに座ってぜはーぜはーと息をゆっくりと整える。



 「まだよ。メグナナの七虹。追加援護攻撃よっ。」


 さっさと腕をとって……足をとって……


 「あ、恥ずかし固め……」

 澪が呟いた。


 「それもSA〇ADA式の……これ、自力で外せないやつ……」

 「柊君がタグチジャパンの田口選手になってる……」


 「あ、まじで赦して。」


 「仕方ないから全員にパフェ奢るように。」



 水着姿の七虹が恥ずかし固めで丸まっている真白の尾骶骨当たりに足を乗っけている写真が当面澪のお宝画像となった。




 結局隣接する飲食店でデザートタイムとなった。

 真白は試着することなく手に持っていた水着を購入。

 恵と七虹は試着していた水着を購入。

 澪はその前に試着済だったようでそれを購入。


 「で、結局女子3人で水着買ってどこか行くのか?」

 真白の頭の中には恵とのデートを女子二人がこっそり後ろから偵察するという考えを持っている事に気が付かない。


 「まぁ一応仲良くなったからね。夏はそれなりに楽しむつもりよ。」

 というのは七虹の言葉。あくまで女子達でいつか遊びに行くかのような感じで答える。


 「あはは、確かに楽しむつもりだね。」

 澪もそれに便乗する。


 「結局真白も新しいのを買うんだな。スイミングスクールの時のじゃないんだな。」


 「ちょっと、ナニソレkwsk。」


 「七虹は知らないんだっけ。特訓のために水泳を取り入れた事。」


 「知らない。罰ゲームプールデートの前にあんたら何やってるのさ。というか……あんたらいつの間に下の名前で呼ぶように?」


 「お姉さんもびっくりだよ。」

 

 それから根掘り葉掘り聞かれ答えさせられた。


 「ちっロマンスじゃないのか……」

 七虹が残念そうに舌打ちしながら呟いた。

 中学時代からつるんでる二人であるがお互いに浮いた話はない。

 色々面白がって煽ったりはしているが、七虹は真白と恵の付き合いをそのまま男女交際に繋げられれば良いのにと思っている。


 悪友だからこその親友。

 恵が実は喧嘩以外で男と会話するのが苦手な事を知っている。

 だからこそいらぬおせっかいというか、キューピッドを演じようとしていた。

 七虹から見る二人は互いに意識しあっているように映っていたからだった。

 昨年の進級云々の時からこっそり後押ししようとしていた。


 2年になってから急激にイベントが発生しているので、これみよがしに煽るようにした。

 体育祭での掛けゲームもその一環だった。


 プールで近付けば良いのにと思っての事だったけれど、体育祭で縮まり、夏の予選で縮まり……

 七虹から見る真白と恵は悪友以上恋人未満という感じである。



 「まぁそういうわけで、呼びやすい方で呼ぶ事になった。べべっ別に特別な関係なんかじゃないからなっ。」

 これがツンデレ女子だったら「ないんだからねっ」となるところである。



 「パフェうまー。」

 パクパクとパフェを平らげる恵を余所に七虹と澪はヒソヒソ話をしていた。



 「あと、少しってところね。」

 「そうだね。二人共奥手っぽいからプールで何かイベント起こさないと。」


 「ウォータースライダーで抱き付いて一緒に流れてもらおう。」

 「それイイね。でも二人共ヘタれそうだけど。」


 などという会話がされている事を真白も恵も気付かない。


 その場のノリでプールデートは8月最初の土曜日、つまりすぐ決行される事が決まった。


 



☆ ☆ ☆


 駅で待ち合わせをし電車で揺られる事10分少々。

 電車を降りてから15分程歩いて目的地のプールへと到着した。



 「うん、暑い。」

 「あぢぃ。人多過ぎ。しんどい。」


 真白が冷静に、恵がダダをこねるように呟く。

 

 「じゃぁ、着替えたら出て直ぐ横の柱のところで待ち合わせと言う事で。」


 「お、おう。わかった。」

 先程までと違い、やや緊張気味の恵が答えた。

 

 

 男の着替えは早い。ぱっと脱いでババっと穿けば良い。

 10分もかからずに真白は待ち合わせ場所に辿り着いた。



 それから10分して真白に声を掛ける女子が……


 「お、おう。お、おまた……せ。」


 先日試着室から出てきた時と同じ水着ではあるが、お店で見るのとプールで見るのとでは違って見えた。

 真白は掛ける言葉を失い、ただ見惚れていたのだが。

 


 「な、何か言えよ?」

 恵は少し顔を赤らめながら口を尖らせている。


 「あ、あぁ。に、似合ってるぞ。健康的だしヤンキーには見えない。」

 真白も素直なのか素直じゃないのかわからない褒め方をするのだが、当然それは上手く伝わらない。

 真白の目線は恵の姿を上から下まで見たりその横の方を見たりと定まらない。

 照れ隠しという言葉がピッタリとくる。


 「そ、それは褒めてるのか褒めてないのかわからないんだけど……」


 「あぁ。控えめに言って女神かと。」


 ボンっと恵の顔が一気に紅潮して動きが止まった。

 言った真白自身の顔も紅潮して硬直していた。

 甲子園には魔物が潜んでいるのと同様、プールにも魔物が潜んでいた。

 




 少し離れたところで既に水着に着替えている七虹と澪が二人の様子を窺っていた。

 「あぁもう二人共ういねいういねい。」

 「まだ何も始まってないのに、付き合い立てのバカップルみたいなやりとりして固まっております。」


 こうしてプールデートは二人の監視員立会の元スタートしたのだった。


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