第27話 恵のプールサイド エターナルオブガスト

 叫びながら走り去った恵の後を追い、プールサイドから追いかける真白。

 

 「兄ちゃん、プールサイドは走るなよー。子供達に示しが付かないからなー。」

 さっき声を掛けてきた男性が注意してくる。

 恵の時には注意していないよなとかは今更なので言いっこなしである。


 ぴちゃぴちゃと水溜まりを踏み弾きながら小走りに追いかけるが、真白は恵の姿を見つけられない。

 もう更衣室に入ってしまったのだろうか。


 そうなると真白にはどうする事も出来ない。


 どうしようかと周囲を見渡していると、女子更衣室から一人の女性が出てくる。

 競泳水着に身を纏いスレンダーな女性が真白に声を掛けてくる。


 「君はスク水の彼女、恵ちゃんの言ってた真白君かな?特徴一致してるしね。」


 「貴女は?」

 競泳水着の彼女に問いかけた。きゅっきゅっきゅなボディだけれど綺麗に整っているなぁという印象だった。

 競泳の特徴でもある逆三角形は見事に東京ビッグサイトと化していた。


 「私はここの利用者よ、名前はまだない。というのは冗談で、さっき恵ちゃんから貴方に伝言があって。着替えてロビーで待ってるから伝えて欲しいと頼まれたの。すぐに見つかって良かったよ。」


 「ありがとうございます。お姉さん競泳やられるんですか?」

 

 「あら、お姉さんだなんて嬉しいわね。子供だっているのに。引退して大分経つというのに。春日〇共〇、水泳で検索すれば出てくるよ。」


※現実に存在するあの方とは違います。架空の人物として扱ってください。


 後に検索して凄い人だとわかるのは別の話。嘘か本当か、彼女の功績のおかげで後に生徒が増え、スポーツに力を入れ野球でも甲子園準優勝するまでの生徒が集まるようになる。


 

 真白は更衣室入ると急いで着替えてロビーへ向かった。


 まだ髪の乾ききっていない恵の姿を見つける。

 恵は、自販機で売ってるアイス……チョコミントを食べていた。


 「ふぁ、ふぃふぃふぁふぃ。」


 「アイスを咥えたまま喋らない。」


 「あぁ、ヒロコさんに聞いて出てきたのを伝えてもらったのか。」

 

 「ヒロコさん?あぁ、あの競泳水着の人か。そうだな、着替えてロビーで待ってるって聞いた。」


 「さっきは悪かった。プールに引きずり降ろして笑ってやるだけのつもりだったんだけど……」


 「あ、あぁ、き、きき、気にするな。思わずビンタしてしまったけど、私もついやり過ぎた。でもまぁ吃驚したし、そそ、その。他人に触れられたのが初めてでつい……」


 触れたというより顔が思いっきり埋まってたというのが正解だけれど、それを指摘すると収集が付かなくなることを懸念した真白は黙っておくことにした。


 「それでも、不意をついたとはいえ……サイゼの心算だったけどガストで良いか?」

 金額として上げた心算で言ったのだけど、実際にはファミレスであればそうは変わらない。


 「馬車道が良い。」


 「遠いがなっ」


 スイミングスクールから一番近い馬車道でも元々車で15分くらいはかかるのに、そこはいつの間にか閉店していた。

 系列店として営業はしているけれど……あの袴姿かどうかはわからない。


 「じゃぁファミレスで良いか。確かに一番近いのは……ガストか。」


 無性にイリスのアトリエをプレイしたくなってきた真白であった。



 


 「何を頼んでも良いのか?」

 テーブルに向かい合わせに座ると、メニュー表を手にとり無造作にぱらぱらと捲りながら恵は尋ねた。


 「全部とかわけのわからん事を言わないなら。」


 流石にそんな事は言うわけもなく、あっちこっちとメニューの中を確認しつつ、メインとドリンクバーとデザートを頼む。

 それでも1000円は超すけれど、約束だから気にしてはいない真白である。



 「美味かったな。久しぶりのファミレスだったけど、たまにはいいかもしれない。」

 カロリー気にしなければだけどと思う。


 「そういえば種田は良かったのか?これだとまともに晩飯だろ。家で夕飯あったんじゃ?」

 少し考えればわかりそうだったのだけれど、真白は知らないので思わず聞いてしまった。


 「あ?あぁ、うち一人暮らしだから……



 「あぁ、悪い、何か深刻そうな話題にしてしまって。」


 「気にするなよ。別に死んでねーし、どっちも生きてるから。父親が単身赴任で九州に行ってるから。母親もそれに付いて行くといって追いかけていっちまっただけだから。」

 それは単身赴任とは言わないんじゃというツッコミは飲み込んだ。

 



 そしてこの場を見ている者が一人。

 先程プールでも二人を見ていた人物であるのだが、見つからないようこっそりと死角になるような場所から様子を窺っていた。


 「要チェックや。」



 メインの肉料理は豪快に頬張り、15分と持たずに食べきる。

 その後運ばれてきたデザートは……大きかった。 

 デザートの甘味をにこやかに頬張るリスのような姿はとてもヤンキーとは思えない愛らしい表情だった。

 真白も、影からこっそり覗いている者もその受ける印象は同じだった。


 

 「ごちそうさまー。最後にこれだけ食べさせてもらえるならプール特訓に付き合うのもやぶさかではないな。」


 「別に八百と一緒じゃないといけない決まりはないからな。水着になるのが苦じゃないなら良いぞ。」

 毎回自分の分と合わせて2000円以上の食費がかかるのは痛手である真白だけれど。


 プールの利用料は部活の範囲内という事で監督が出してくれている。

 充分贔屓されている感じはするけれど、せっかくチームが万年初戦負けをしていたところから脱却しているところなので惜しまないようだ。


 他の部員たちにもバッティングセンター代とか負担していたりするようだし。

 監督……給料なくなっちゃうんじゃという思いもあった。


 

 プール特訓の了承を得て恵は内心喜んでいた。

 そういえば罰ゲーム用の水着を買いに行ってないなと思う恵であったが、このプール練習の付き合いが水着姿を見られる事への耐性付けだとは本人しか知らない。


 


 プール練習の初日は一波乱あったものの無事に終了出来た。


 「なぁ、お前昨日スイミングスクールで鬼コーチと一緒にいただろ。あとガストにも一緒に行ってたよな。」

 教室に入り荷物を置いたところでモモタロウに声を掛けられた。


 

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