第25話 勝利とスク水ヤンキーねこみみメイドめぐにゃん

 「前に言ってた罰ゲームの件、プールの話だけど……あれは暫く果たせそうにない。」

 その言葉を聞いた恵は心に何かが刺さったのを感じ、目は大きく見開かれていた。


 「な、なに言ってんだ……?おま、やくそ……」

 真白は照れ臭そうに横を向き次の言葉を発そうとする。

 同時に恵の目からはつーっと涙が零れる。

 しかし真白はその様子を見ていない。


 「えーとだな。勘違いしないで欲しいんだが。嫌なわけじゃないぞ。その……な。」

 この勘違いしないでとはどういう意味であろうか。

 そしてイマイチ歯切れの悪い言葉繋ぎ。真白らしくはない。

 

 「負けるつもりねーから。先に伸びちまうって言いたかっただけだ。」

 それだけ言うと真白は走って場内へ戻っていってしまった。

 一人取り残された恵は……


 「な、なんだよ。ショック受け損じゃねーか。」

 左腕の袖で目頭を拭う。


 「くそう。試合前ノックは厳しいとこついてやる。」




 試合前のノックで恵がノッカーを務める事で注目を浴びる。

 他所の監督よりもオラオラな女子ノッカーが次々に打ち込む姿は正直絵になっていた。

 そして有言実行、真白の元にだけ厳しい所に速い打球を飛ばす。


 「おらー、取れるもんなら取ってみろー。」

 これショートよりの三遊間の強い当たりじゃねぇかと真白は思っていた。

 また、狙ったのか三塁ベースに当たってイレギュラーするボールとか……

 おかげで試合前に一人だけユニフォームが汚れていた。


 「あのヤロウ……」


 しかし例によってチームの緊張は解れていた。

 

 「毎度おなじみ夫婦漫才を魅せられたら緊張なんてどこかへ行ってしまうわ。」

 というのがチーム内の言葉である。



 試合は投手戦。3-1で迎えた最終回に今後を見据え、真白がマウンドへ。

 後輩の内野手育成のために空いたサードで鍛えるという実践が最高の練習にも繋がっていた。


 そしてどういうわけか、変わったサードの1年のところに全てゴロが行き、ゲームセット。


 辛勝ではあるが、先日の試合がただのまぐれではない事を予感させていた。


 桜吹雪旋風は確かに夏に巻き起こっていた。

 これで4勝。万年一回戦とか言わせないと一丸となっていた。


 先発・決勝点を挙げた二人のインタビューが終わるとなぜか真白のところにも声がかかる。



 前回急造投手として登板し、今日も最終回に投げましたが、どういう心境と信念でマウンドに上がりましたか?と。


 「キャッチャーミットを鬼コーチだと思って思いっきり投げました!」

  

 翌日の新聞に小さくその記事が掲載されたのだが、真白が恵に追いかけ回されたのは言うまでもない。

 

 今日勝利したことでベスト8となった桜高校。

 学校始まって以来の快挙に近隣住民や企業も街を興して応援している。

 野球部じゃなくても桜高校の生徒というだけで、駄菓子をおまけしてくれたり、ス〇Ⅱ1プレイ無料にしてくれたり、と大盤振る舞いだった。

 あくまで学生にとってはであるけれど。



 「なぁ種田。」

 右頬に大きなモミジの跡がついている真白が片付けをしている恵に声を掛ける。


 「今日この後暇か?」


 「な、な、なにゃに?それって……デ」


 顔を赤くし、どもってしまう恵の最後の言葉まで聞く前に真白が続ける。


 「今日キャッチャーの八百が用事あって早く帰るって言うんで、最近日課に入れてるプールトレーニングにお前もと思ってさ。」


 尋ね方が完全に同性に対する者と同じになっている事に真白は気付いていない。

 恵には正しく伝わっていないとは考えていなかった。


 「ストレッチ10分、クロール、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライとを50mずつが日課のトレーニングに追加してあるんだよ。」


 監督と八百の計らいで臨時投手の育成に躍起になっていると付け加えた。


 「種田にはストレッチの相手と、泳ぎのフォームを見てもらいたいんだ。プロみたいに綺麗じゃなくて良いんだが、あからさまに腕がおかしいとか曲がって泳いでないかとかを見て欲しいんだよ。」



 「すす、すとれっちゃ。っそそ、それは身体が密着するとかいうやちゅでは。」

 小さくて真白には聞こえていない。

 そして恵が想像する通り身体は密着する。

 足首は抑えるし背中はくっつくし、押すし、腕は絡めるし。

 ストレッチに関しては日常の練習でもやってるのだから容易に想像出来る。

 

 「わ、わかった。でで、でも体育の授業で使ってる水着しかないぞ。」

 色々とテレながら恵は答えるが足元の地面の砂を蹴りながら答える姿がいじらしい。


 真白と恵はスイミングスクールに向かった。

 お礼に美味いもん奢るという条件が追加されたが……


 そしてスイミングスクールにつくと互いに更衣室に向かう。

 18時以降はプールはフリーに開放される。

 監督の計らいで、一番端のレーンだけは18時から1時間あまりは野球部に開放してもらえる事になっている。

 

 あの監督は生徒の見えないところで色々仕事をしてくれていた。


 そして着替えが終わりプールサイドに現れる真白。

 男の海水パンツはそれこそトランクスを吐くのと変わらないので早い。

 恵が姿を現したのは真白がプールサイドに現れてかあ5分後の事だった。


 スク水が似合うヤンキーねこみみメイドめぐにゃん。

 それを理解する事になるとは真白も想像していなかった。

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