第21話 ドジっ娘メイド。

 会計を済ませると真白は駅に向かって歩き出した。


 店と駅は然程離れていないのですぐに着いてしまう。


 メモにあった電話ボックスも当然すぐに到着。周囲には待ち合わせをしているカップルが多い。

 携帯電話を弄る者、本を読む者、ただぼけーとしている者、その殆どが誰かとの待ち合わせである。

 渋谷のあの犬の銅像や、池袋のフクロウのように、この駅ではこの電話ボックスが待ち合わせの目印に使われている。


 赤い外観の電話ボックスは現代日本においては大変貴重である。

 もはや文化遺産と言っても過言ではないだろう。


 中にあるタウンページは昔に比べてかなり薄くなっている。 

 個人情報保護法の観点から個人名は記載されない。

 タウンページに載っているのは公共機関ばかりなのである。


 時計を見ると、恵との待ち合わせ時間まではまだ余裕があった。

 そのため周辺の様子を見て、想像や妄想を働かせる余裕がある。


 タウンページを読んで暇つぶしを選んだ真白。


 そこで発見したのは「ねこみみメイド喫茶アニスミア」の電話番号と住所。

 掲載許可出してたんだと感心していた。

 

 辺りを見渡せば、たまにねこみみメイド姿の女の子がティッシュを配ってたりする。


 学校からは一駅しか変わらないのに学校の生徒を見かけない。

 進行方向が違うのか、他に魅力を感じる場所があるのかは真白は知らないが。


 18時を5分過ぎたところで恵が到着した。

 急いで来たのか少し息を切らせて走りながら。

 まだ足も完全に治ってないだろうに。


 「悪い、遅れて。少し七虹と会話してたら遅くなった。すまん。」

 恵らしい口調で遅れた経緯を説明する。

 辺りは同じように待ち合わせをしている男女ばかりで、互いが揃うとそのままどこかへと歩き出している。


 「あぁ、別に5分くらい気にしないぞ。終電逃したとかいうわけでもないし。」


 「店でお金使ってるのに悪いと思うけど、どこか落ち着いた所で話がしたい。出来れば駅の中にある喫茶店あたりが良いんだけど。」


 真白は特に否定する理由もないので承諾した。

 ただ、恵に対してどうしても一つだけ言いたいことがあった。

 黙っているのも悪いので思い切って告白する事にした。



 「なぁ、種田。その言いにくい事なんだけどさ。その……ねこみみカチューシャ頭に付けたままだぞ。」


 真白の言葉に恵は羞恥心を思い出し段々顔が赤くなってくる。

 周囲の人達も教えてくれなかったのだが、おそらくビラかティッシュ配りだと思っていたのだろう。


 「にゃにゃっそれは早く言ってくれーーーー。」

 真っ赤になった恵はねこみみカチューシャを取ってカバンにしまう。


 「鬼コーチのねこみみ……部員が見たら開いた口塞がらないだろうな。」

 「揶揄ってるのか。一回死んでみるか?あ?減らず口を叩くのはその口かー、その口かー。」

 恵は真白の両ほっぺを掴み抗議をするが、どこぞのバカップルの1ページかというように外部からは微笑ましく見えている。

 その事に当人達は気付いていない。両ほっぺを掴んでぐりぐりと顔事回している。

 真白の口はたらこのようになっていた。いや、平目だろうか。

  

 しばらうしてようやく周囲の目を視界に捉え、自らの行為が恥ずかしかったと気付いた。

 「くそー不覚だったうかつだったドジっ娘メイドだった。」


 「とりあえず駅中にいかないか?変に目立って来た気もするし。」

 真白は促して恵を駅へと導こうと誘った。

 実際二人の様子をちらちら見ている外野は少なからず存在していた。 


 「あ、うん。そうだな。」


 二人並んで駅まで歩くが、真白は腹に力を入れて堪えていた。  


 「ぷっくく。制服にねこみみってのも案外可愛いもんだな。別にそのままでも良かったのに。」

 ヤンキーが制服にねこみみ。江面としては中々レアである。

 昔ボコった相手が見たら卒倒してしまう程のギャップだろう。


 「またぶり返すか。次は対春日部幼稚園児名物ウメボシでもやってやろうか。」


 「いや、それは丁重に辞退させていただきます。」


 なんて会話をしていると目的地である喫茶店に着いた。

 駅の中ではあるが、古き良き時代とでもいおうか、店の外観も雰囲気も3~40年くらい前の高度成長期を感じさせていた。


 「いらっしゃいませ。2名様ですか?喫煙席と禁煙席のご希望はございますか?」

 制服を着ているのだから喫煙席云々はいらないと思うが、店のマニュアルなのだろう。ある意味では仕事に忠実である。


 「ああ。二人で禁煙席でお願いします。」


 



 席に案内されるとそこは窓際であり、ガラス越しに見える景色は駅へ向かう人、駅から出てくる人で溢れていた。

 メニューを確認するが、正直真白はアニスミアでそこそこ補給しているため食欲はあまりなかった。


 「チーズケーキとコーヒーのセットで。柊は?」

 「モカお姉ちゃんで。あぁ、いや。モカで。」



 店員はメニューを復唱確認するとカウンターへと戻っていった。

 


 「それで、呼び足した理由なんだけど。罰ゲームの事だ、七虹にも念を押されたからな。」

 やっぱり罰ゲームに絡む事かと真白は思ったがそれは想定内。

 水を注いでる時に釘を刺された事だったから嫌でも意識をしてしまう。



 「プールと遊園地、どっちが良い?」

 まるで次のデート場所の相談をするカップルのように、自然と尋ねてくる恵。

 偶然通りかかった客が見惚れてしまうくらいに、少し上目遣い気味に覗いてくるその表情は反則級だった。 

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