第22話 計画。

 「プールと遊園地、どっちが良い?」

恵の提案は夏のデートの定番だった。ここに夏祭りや花火大会があれば尚更の事である。


 真白は口が開いたまま思考する事数秒。

 

 「それ、七虹監督による脚本だろ。」


 恵はずばり言い当てられ、なぜわかった?という表情をする。

 

 「そ、そうなんだけどさ。野球部はそろそろ夏の予選だろう?遊園地はともかく、プールは時期的にも予選後じゃないと厳しいんじゃないかなと思うんだ。というかプールとか恥ずかしすぎる。」

慌てて恵は説明するが、プールは水着、遊園地は密着や二人きりの空間等、どちらにしても恥ずかしさはある。


 野球部は7月に入るとすぐ予選が始まる。甲子園出場を決めればそのまま遠征まで時間もない。

 仮に全国制覇すれば8月後半である。

 海だったら海月が出るから遊泳禁止になる時期である。

 だからこそ真白の答えは単純明快だった。


 「よし、プールにしよう。」

 水着一択だった。テコ入れのための水着回を約束しようというのである。


 「即答かよ。」


 「まぁ7月も8月も暑い時期だしな。種田が渋ってるのは水着姿見せるのが恥ずかしいからだろ??でも七虹監督はこっそり来るんだろ?じゃぁプールにしたら七虹監督も恥ずかしい場に道連れ出来るじゃないか。」


 熱く語る真白は違う目的があるような気がしてならない。恵はそう感じていた。


 「そ、そうだな。あいつも隠れて着いてくるという事はそういう事だよな。よし。部活のない日に付き合ってくれ。水着を買わなくては……あ?」 

 そこまで言って気付いてしまった恵。

 恵は水着を持っていない、一応小中時代のスク水はあるのだが……

 サイズが変わってなければ着用可であるが、胸はともかく身長は変わっている。

 買わなければならないのは自身で気付いていた。


 しかし今出た言葉は一緒に水着を買いに行くという事だった。

 

 「あぁああぁやっぱなし。水着売り場とか女子の聖域だし、恥ずかしくてこっちが無理。近いうち自分で用意する。」


 「まぁそうだよな。最初びっくりしたけどさ。あまり派手じゃないので頼む。」

 かくいう真白も水着なぞ持っていないので買いに行かなければいけないのだが、男用だしなんとかなるだろうと楽観視していた。


 「じゃぁそういうわけでかんと……七虹には説明しとく。道連れの件は内緒で。」


 「恵はん越後屋、主も悪よのぅ。」

 「いえいえ、真白はんお代官様こそ……」


 妙な結託が出来ていた。

 だが二人は気付いていない。少し離れた席でカレンが聞き耳を立てていたことに。

 オーナー特権で休憩&ビラ配りと称して後をつけていたことに。




 そして平凡な日常が再び訪れる。

 部活に行って、バイトして、授業を受けて。


 2週間もするとお姫様抱っこの質問タイムはほとんどなくなっていた。

 その代わり普通のクラスメイトのように話す時間は増えていた。

 真白の中でそれが嬉しくもあり残念でもあり複雑だったが、ぼっちよりは良いよなと胸の中に仕舞っておくことにした。


 「昨年の今頃は孤立してたからな。抑々殆ど学校に来てなかったし。」

 窓際に寄りかかり、クラスメイト女子と普通に会話をしている恵を見て、一人黄昏る真白。

 

 「黄昏てんの?」

 久しぶりのモモタロウが声を掛けてくる。

 「否定はしない。肯定もしないけど。」


 「そうは言ってるけど嫁さん取られて本当は悔しいんじゃな……」


 「こうしてくれるっ。ほら、ぐりぐり~~」

 真白はモモタロウの両コメカミに拳を握り込み伝家の宝刀ウメボシを喰らわせた。


 「あ、ちょ。タンマ。運動部の力でそれは反則、レフェリーストップ!」

 本気で痛がり、身体全体を捻って抜け出そうとするが全然拳は抜けなかった。


 「私の握力は53マンです。」

 真白が往年の元宇宙一の冷蔵庫の人の真似でアピールすると、拳を離した。


 「あっぁぁあ、超~痛かった。少し勃ちかけたじゃないか。変な世界にこんにちはするとこだったぜ。」



 そんなやり取りを見ていたクラスメイトがいた。

 腐腐腐と笑みを浮かべていたクラスメイト女子がいた。

 「やっぱ白×桃は王道ね。」と言っているのは流石に二人の元には聞こえなかった。



 そして週末はついに夏の予選が始まる。

 ここまで組み合わせについて語られていないのには理由がある。

 トーナメントを見てみると、2回勝つことが出来たら順当にいけば第一シードと当たるからだ。

 野球部員は見て見ぬ振りをしていたのだ。


 

 試合前最後の練習で臨時コーチ兼マネージャー兼ノッカーの種田恵が檄を飛ばす。


 「テメーらびびってんじゃねーぞ。第一シードと私とどっちが怖ぇんだっ!!」


 果たしてこの檄によってどうなるか。影の薄い監督は嵐の予感しかしないと感じていた。

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