2章 6話 白と黒の魔法少女3
「んんー? どうしたのかね? 早くせねば、一時間延長で料金が無駄にかかってしまうじゃないか」
そう言ってイワモンは白いクリスタルを横に振る。
そのクリスタルは、魔法少女の力の結晶だ。
あの結晶を舐り、取り込むことで魔法少女として覚醒する。
イワモンはクリスタルを手にしてテーブルの上に立ち、黒白姉妹と対峙していた。
「これをツッキーと舐めればいいのー?」
「……無性に断りたくなってきました」
イワモンが持っているクリスタルを舐め、溶けた結晶を取り込むことで魔法少女へとなれる。
その情報を聞いてあからさまに表情を曇らせたのは美月だった。
どう見てもクリスタルは食べ物に見えない。
何よりセクハラ発言の目立つ豚猫の目でそういうことをしたくないのも無理がないだろう。
「ほらほら。二人で左右から舐め上げたまえ。仲良く、ねっとりとだね」
「……妙に含みがあるように感じるのは私だけでしょうか……?」
本来、魔法少女には
しかし今回は双子であり波長が似ているということで、黒と白のクリスタルを
なんでも、そちらのほうが異なる結晶の力によって相乗効果が生まれるだとか。
とはいえ、それは双子というある種のリンクでつながれている間柄だからこそ実現できることで、普通の人間に複数のクリスタルを取り込ませるのは危険というのがイワモンの話である。
「ねえツッキー。はやくやろうよー」
春陽はそう言うと腰を折ってクリスタルに口を近づけた。。
「……ここまで来てやめるというわけにもいきませんか……」
美月は目を閉じ、クリスタルに顔を近づける。
テーブルまでは距離があるので彼女はソファーから腰を浮かせ、テーブルに両手を置く。
そのまま彼女は頭を下げ、結晶に迫った。
「くっ……」
躊躇いながらも美月はクリスタルに舌を伸ばす。
直前で動きが止まってしまったが。
「んー。おいしくないねー?」
「もう舐めたんですね。そういう思いきりの良さはちょっと真似できません……」
「美月嬢。これから休憩なしで二本目なのだ。まだ弱音を吐くには早くないかね?」
イワモンは新たに黒結晶を取り出すとニヤリと笑みを浮かべた。
どうやら美月の苦難はまだ終わらないようだ。
「――そういえば、もう一本あったんでしたね……はぁ……」
渋々ながら結晶を舐め始める美月であった。
☆
「へえ。てっきり、黒と白が半々になるんじゃないかと思ってたんだけど」
悠乃は魔法少女となった黒白姉妹を見てそんな言葉を漏らした。
魔法少女としての衣装は、取り込んだ結晶の色が反映される。
となれば黒と白のクリスタルを呑み込んだ二人は灰色――もしくは黒と白が混在した姿になるかと予想していたのだ。
しかし、実際のところは美月が黒。春陽が白と綺麗に分かれていた。
「ふむ。今回が初めての試みだったからな。興味深い結果である」
どうやらイワモンにとっても初めての事例だったらしく、彼は腹を震わせながら笑っている。
「おおー」
春陽は自身の姿を確認すると、その場で一回転する。
彼女が纏っているのは白いワンピースだった。
白い髪に、白い肌に、白いワンピース。
全体を白で統一された姿は、清楚な美しさを醸している。
まるでその姿は雪の妖精だ。
「――色は、取り込んだ結晶の量の多寡が関係しているのでしょうか? もっとも魔法を理論で説明すること自体がナンセンスなのかもしれませんが……」
そう思い悩む美月が身に纏うのは黒だった。
彼女の体は首の下から足先まで黒いタイツ生地で覆われている。
マントとスカートも身につけてはいるが、マントは肩を隠すにとどまり、スカートは太物の大部分を露出させるほどに丈が短い。
そのため美月の衣装は全身のシルエットを浮き彫りにするものだった。
黒に包まれ、無駄を削ぎ落としたデザインは暗殺者を彷彿とさせる。
大きいというわけではないが平均的な大きさの胸。
腰が描き出す絶妙なライン。
短いスカートのせいで、ほぼ付け根から見えている脚線美。
「「ッ、ッ~~~~~~~!」」
悠乃と美月は顔を赤くすると、顔を手で覆って座り込む。
「いや、本人はともかく悠乃まで恥ずかしがってどうするんだよ……」
璃紗は呆れているが、悠乃は顔を上げられそうになかった。
あんなものを不意打ちで見てしまうとは。
悠乃も男子である以上、気になるものは気になるのである。
(あ、相手は年下……僕は年上なんだ……紳士になるんだ……!)
「んー。ツッキーの服って……
「言わないでください!」
春陽の言葉に美月は悲痛な叫びをあげる。
根が真面目そうな彼女には、大胆すぎる衣装は耐えがたいのだろう。
「ふ、服は変えられないんですか……!」
「無理であるな。うむ」
美月の涙目の抗議は無情にもイワモンに切り捨てられた。
魔法少女としての姿は千差万別。
それは本人の才能に依存するからだ。
ゆえに、誰も同じ姿にはならないし、誰も一度決まった姿から変わることはない。
成長はあれど、変異はありえない。
――とはいえ、悠乃も足が露出した衣装には苦しめられているので、彼女の心情は痛いほどによく分かる。
そして、慣れるしかないことも。
「ぁぁ……なんでこんな服に……」
「ぶくぶくぶく……」
両手で必死に体を隠す美月。
心のダメージによって未だに再起動できずにいる薫子。
たった一時間で二人が精神的に死亡するという悲惨な事件であった。
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