1章 8話 後ろめたさと
「アハ……アハハ……! ありがとう残党軍さん……! 貴方がいるから、わたくしは昔に戻れました……! でもごめんなさい。ここで貴方たちを一人でも生き延びさせたら、わたくしの魔法少女としての意義はお終い。今度は魔法少女としても生きられなくなるの。だから皆殺し。見敵必殺・一族郎党皆殺しよ。うふふふ。でも感謝しているから。ちゃんと、寝る前に貴方たちの顔は思い出すから……! じっくり、一人ずつ。心と記憶に刻みつけて一生忘れないから。それで許して欲しいの。だってわたくし、魔法少女だから。これ、わたくしのお仕事なの……! だから……ふふ……恨んでイイから逃げないでね?」
満面の笑みだった。
後光が射しそうな笑みを浮かべ、薫子は四方八方に爆弾を投げる。
それらの爆弾は正確に《
同時に爆弾は起爆し、肉片の花火を生み出した。
「悠乃嬢……」
「何……ブタモン」
「イワモンであるぞ。ブタなのは体形であって、名前まで脂肪まみれになった記憶は朕にないのだが」
薫子一人に蹂躙されてゆく戦場。
しかも爆弾という武器を使いながらも、周辺の家に被害が及ばないように爆弾を投げる位置まで緻密に計算されている。
おかげでガラス窓一つ破壊していない。
明らかに昔よりも戦闘スキルが向上している。
だが――
「薫嬢とは、あんなに
「……時間は人を変えるんだよ。……多分ね」
悠乃はイワモンと緊張感もなく会話を続ける。
そもそも悠乃は変身していない。
変身する必要さえなかったのだ。
「まあ、以前の薫嬢はサポートが主で、自身で戦う手段が少なかったからな。仕事という意味では、彼女の成長は朕としても好都合なのだが」
「なんか最前線で爆弾撒いてるね……」
悠乃は遠い目で薫子の背中を眺める。
正直、まともに戦えない自分がいる意味は何だろうか。
「これさ。ひょっとして僕いらなくない?」
「いや、必要なのではないかね?」
悠乃が大きく息を吐いていると、イワモンは彼の言葉を否定する。
「薫嬢にとって魔法少女活動が魅力的であるのは、以前の幸せな時期を想起させるからなのだろう? であれば、以前のメンバーである悠乃嬢は不可欠なのだよ」
「すごく微妙なフォローです」
それは悠乃自身の価値にはつながらない要因であろう。
要するに『君は置物で良い』宣言である。
つまるところ『お前はいらないけどー? お前いないとアイツ来ないから仕方ないだろー?』みたいな話である。というかそのままだ。
彼の反応が芳しくないことを悟ったのか、イワモンはさらに言葉を続ける。
「それに、戦いたくない悠乃嬢にも好都合ではないかね?」
「うぅ……」
悠乃は苦々しい表情になった。
イワモンに図星を突かれたからだ。
確かに、薫子が一人で戦ってくれたのならば悠乃は戦わなくて済む。
運良く、彼女は戦いに積極的で、戦いを押し付ける罪悪感もない。
「でも、卑怯だよね。嫌なことから逃げてる感じ」
しかし、罪悪感がないという事実が悠乃の罪悪感となっていた。
「まあ、正々堂々としたせいで心が壊れるよりも合理的だと朕は考えるがね。確かに、嫌なことから逃げているというのは事実だろう。とはいえ、それを非難できる者はいないはずだ」
――一般的に見て、君は苦労したほうと言えるだろうからね。
そうイワモンは続けた。
「……それ、戦いに巻き込んだ奴に言われるとビミョーな気持ち」
別に怒ってはいないが、悠乃は唇を尖らせた。
その様子を見て、イワモンは腹を揺らして笑う。
「くくく。良いではないか、良いではないか。あの戦いの中で、悠乃嬢が得たものも少なからずあったのではないか?」
「……どーだか」
悠乃は手近な壁に背中を預ける。
見ている限り、薫子の動きに危ういところはない。
本当に一人で《怪画》を倒せてしまいそうだ。
あれなら悠乃の力が必要ということもないだろう。
「しかし、一日目で元メンバーが二人もそろったか。案外、楽な任務になるかもしれないな。……正直、悠乃嬢の醜態を見た時は肝を冷やしたが」
「……僕の魔法で冷やしてもいいんだけど?」
「悪いが、悠乃嬢の氷では朕の脂肪を貫通することはできんな」
イワモンが豪快に笑う。
昔はあんなにオッサン臭くなかったはずなのだが。
ひとしきり笑うと、イワモンが目を細める。
「……あとは璃紗嬢だな」
「…………」
その名前を聞いたとき、悠乃は気持ちが沈むのを感じた。
(やっぱり、そうなるよね……)
最初からそうなると分かっていた。
だが、実際にイワモンからその名前が出るまでは、考えないようにしていたのだ。
「そこでだ。悠乃嬢。確か悠乃嬢は璃紗嬢と同級生であっただろう? 連絡先くらい知らんのかね」
「知らない。ていうか、小学六年生の時からロクに話してない」
意識していないつもりだったが、無意識に突き放すような言い方になってしまう。
それほどにデリケートな話題なのだ。
「だって……気まずいし」
悠乃は目を逸らす。
精一杯の言い訳もくだらないものだった。
「気まずい? もしや、喧嘩別れでもしたのかね?」
「ううん」
イワモンの言葉に悠乃は首を横へと振った。
そう。別に二人の間でトラブルがあったわけではないのだ。
ただ、彼女にどう声をかければいいか分からなくなっただけ。
「ただ――
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